18歳離れる妹へ。

神永 遙麦

18歳離れる妹へ。

「ミニーちゃんへ。

 きっとこの手紙をキミが読む頃にはミニーちゃんじゃない、ちゃんとした名前があるかもだけど、今はみんなこう呼んでるから。だって最近キミが女の子だって確定したばっかだもん。

 私にとってキミは人生で初めての兄弟。ずっとずっと兄弟が欲しかったんだ。みんなには一人っ子だってことを羨ましがられるけど。そもそも18歳差の兄弟になるから、そんなに一緒に遊べないかもしれないけど。」


 ガラスペンを丁寧に置いた。明るい調子で書けなくなったから。

 苺月まいかは知っていた。

 今度の出産でママが死ぬリスク高めらしい。高齢出産な上に高血圧だから……。


 このガラスペンはママからの誕生日プレゼント。ペンレストはパパからのクリスマスプレゼント、ガラスペンを気に入ってよく使う私を見て買ったそう。海草のような模様のペンを陽に透かすと海底にいるようで、日記を書くのによく使っている。今日一日が豊かなものだったと感じることができるから。

 もしママが出産で死んだら、私はミニーちゃんの誕生日をこんな風に祝えるかな?


 私は書くのを再開した。


「今の私はキミに早く会いたいと思っているよ。

 この手紙を読む頃、キミは一体なんて呼ばれているの? 私は普通に苺月って呼ばれているよ。

 ちなみにね、私の名前の由来は『ストロベリームーンの夜に生まれたから』。雑だよね。それまで準備してた名前もほっぽらかしたんだって。だってこの名前しかないって思ったかららしい。もともとは『優結(ゆうゆ)』って名付けるつもりだったらしいけど。没になった名前にもこだわりがあったらしくて、ずっと聞かされて育ったから、かなりご利益があったみたい。今の所の人間関係には恵まれているから。キミの名前はセンスがいいといいなぁ……。

 今の所は『縁子』が最有力候補。『一から了まで縁に恵まれるように』だって。マタニティハイとかで可愛らしい名前になりますように。だってキミはZ世代よりも新しい世代なんだから。


 18歳離れたキミが生きる世界はもっと良い世界でありますように。私の時なんて青春がなかったからね。

 キミが大学や就職で頑張っていく世界には希望がありますように。今の私がもがく世界には希望が見えないから。私の世代は失われた世代を継承したようなものだから。私が大学を卒業する頃にはもっと良くなってるといいけど。

 

 そっか私が大学を卒業するころ、キミは4歳。きっと字はまだ読めないよね。もしかすると英語が私よりうまいかも。AIに対する恐怖心もないのかもね。

 今の私はただ、私が今まで知っていた世界がどんどん変わっていく様子を恐れながら見ている。だけど、『今』はキミの世代では教科書の片隅に載ってるという感じなのかも。

 いつかキミが歴史の教科書を手に入れたら姉さんにも見せて。私はキミたちα世代が生きていく世界を、キミを通して垣間見ることが出来る。そんな日を姉さんは楽しみにしているよ。

 ママに言いづらい悩み事があったら姉さんに教えて。だって言うでしょ? 『姉は最良の相談相手』って」



 苺月は手紙を読み直し、没にしようかと思った。だって重すぎる。

 でも、ミニーちゃんの生きる世界に希望を見ようとしていることは事実。ひょっとしたら、未来はもっと深刻かもしれないのに。だけど、「新しい命」というものの効果か、ほんの少しの希望が何倍にも何百倍にもなって見える。仮に駄目だったとしても、ここは未来の大人である私がなんとかする。

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18歳離れる妹へ。 神永 遙麦 @hosanna_7

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