アルテラシオン

ただの鈴木

第1話

コジト・アルテラシオン(CogitoAltération)プロジェクトでは被験者の記憶を映像化させ他人と共有するシステムを実現する。


このプロジェクトは

フランスにある某有名私立大学のジャン=クロード・ベルナール(Jean-Claude Bernard)教授が1985年に発表したものである。そして発表から約二年後、実際に被験者を募りシステムの実現に向けて実験に取り掛かった。


1987年7月2日 条件は3つ。

1.健康体であること

2.記憶障害がないもの

3.キリスト教徒であること


クロード教授は若い青年たちをターゲットにし、研究員達によって条件が書かれたポスターは町中の大学やカフェ内に大量に貼り巡らされた。しまいには建物内に留まらず市内全体へと蔓延し、外に出れば必ず10枚は目にするようになった。

その結果このプロジェクトは全世界で着目されるようになり、かの有名なルモンド(Le Monde)新聞社の一面記事になるなどしてみるみるうちに知名度を上げた。


しかしクロード教授はそれを良く思わなかった。そして多くの科学者や新聞社に大量の資金を渡すと、口を閉ざすよう命令したのだった。以上のことが要因で、知名度とは反するようにプロジェクトの内容は次第に不明瞭になっていき、現世とは遮断されていった。

1990年10月16日

皆が忘れかけていた頃、僅か3年でコジト・アルテラシオンプロジェクトのメンバーは解散した。実験の内容は焼却された痕跡とメンバーの失踪や死をもって全て無へと帰された。

彼らが買収し改装させたロワールの古城は、実験室とされていたが内部に痕跡は一切見受けられなかった。3名の大脳提供者は実験との因果関係は不明だが既に亡くなっている。


ジャン=ピエール・ドュボワ(Jean-Pierre Dubois)18歳 1988年3月22日優秀な学生だった彼が突然授業中に発狂し、銃を乱射した後、自身のこめかみにも発砲し即死。


エレーヌ・ベルトラン(Hélène Bertrand) 17歳

同じく1988年12月24日街の大聖堂前にて演説を行っている最中に射殺され即死。


マックス・ルヴィニャック(Maxime Luvignac)20歳 1990年 5月17日 老夫婦が名も無き古城の池にて浮いた死体を発見。調査の後マックス・ルヴィニャックの死体と断定される。


これらを並べても被験者の死亡理由に明確な共通点が感じられず、さらに被験者3名の遺体は安置所から全て消えてしまっている。解剖され、全てが明るみになることを恐れたのか、他に理由があるのか。上記の事からも分かるように、コジト・アルテラシオンプロジェクトに関する出来事全てが迷宮入りしたままである。



かのように思われた。先日、仕事で関わった某有名学者に食事を誘われ行くと、ルヴィニャックの遺体が発見された古城の池に纏わる話を聞いたのだ。私はその話を聞き、急いで名も無き古城へと足を運んだ。

これは単なる噂では無いと何故か確信があったからだ。その話をした男は学者であり預言者でもある優秀な人間だ。現在フランスで最も注目されている彼の「アルテラシオン」という予言書は彼の著作であり、今や誰もが知っている存在。


私は彼と仕事をしているうちにコジト・アルテラシオンプロジェクトを何年も追っていると打ち明けたのだった。彼は興味深そうに頷き、予言をする際に使っているという占星術によって古城の池について話した。

何故わざわざ私の為に占星術を使用したのかは分からなかったが、彼はそのような話を聞く事が好きだと言い、帰ったら是非話しを聞かせてくれと頼んだ。


2003年2月8日

今にも雨が降りそうな空と南部では珍しい氷点下の気温はあまりの調査日和ではないかと私の心を躍らせた。とは言え古城までの道のりは険しいものだった。

立て標識もない上に整備のされていない獣道にかなり手間取ってしまい、古城に着いた頃には日が傾いていた。あたりは薄暗く、池は凍ってしまっていたが、池自体はさほど大きくもない為すぐに池の水は抜けそうだ。

何時ぞやの私が開発したポンドレキュップ(PondRécup)は売上こそ全く伸びなかったがこのような時に役立つのだ。

私はなるべく尖った石を辺りから探し出し、池の表面に投げつけるとそこからポンプを突き刺した。ものの数分で池の水はなくなり底が見下ろせるようになり、まだ息のある魚や昔のコインなどがキラリと見えた。


「これは……」


前に屈み持っていた懐中電灯を照らすと、何やら紙のようなものが封入されたひとつの瓶が目に入った。彼が言っていたものがこれだとひと目でわかったような気がした。他に気になることも少々あったがこのまま完全に日が落ちると危険だと判断し、拾い上げた瓶をリュックサックにしまうと古城を後にすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アルテラシオン ただの鈴木 @kbysss8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ