彼女が、3分間でしてくれたこと。

うびぞお

怖い映画を観たら一緒に夜を過ごそう 番外編

 主人公には3分以内にやらなければならないことがあった。


 8時57分


「アクションなら、時限爆弾の赤か青のコードを切って、囚われの恋人の前で敵を撃ち殺して、恋人にキスです」


 映画のクライマックス3分間に主人公がどうすべきか尋ねた途端に彼女はスラスラと答えた。


「ホラーなら、死にかけたところで逆転の手段を見つけて生き残ります。ラストにどんでん返しがありますけど」


 彼女の視線はテレビに向けられたまま。



 8時58分


 週末の夜、彼女はテレビの映画放送の開始を待っている。

 映画よりわたしの方を見てほしい。


「恋愛ものなら?」

「余り観ないジャンルだから分かりません」

「いい雰囲気のクライマックス」

「さあ?そのままエッチするとか」


 他人事みたいに言うな!


「一体さっきから何ですか?その質問」

 ようやく横目でわたしを見た。



 8時59分


「映画よりわたしを構って」

 そのおねだりに彼女は呆れた顔になる。

「2時間位待てないんですか」

 嗜められた。

「だって金曜の夜だよ。それにどうせ、この映画も何度も見てるんでしょ」

「そうですけど。それじゃ」

 そう言うと彼女は立ち上がった。


「この映画が始まって3分以内にあなたが泣かなければ観るのをやめます」

 彼女がこういう言い方をする時は大抵わたしが負ける。



 9時


 いや、今日こそは勝つ!

 気合いを入れて画面を見た。


「私には3分以内にやらなければならないことができました」


 それはアニメ。

 OPオープニングで可愛いカップルが結ばれて、ん?今、入院?あ、そういうこと。あ、もう年取った。え?


 そして、夫が一人残された。

 物語はそこから始まる。彼の家が多くの風船で舞い上がっていく。



 孤独な主人公に同情して号泣していると、彼女が微笑みながら温めたタオルとココアを渡してくれた。どうやら3分で準備してくれたらしい。


 ああ、もう。



 結局、わたしも最後まで映画を観てしまったけど、彼女が優しくしてくれたからヨシ。













 ★☆

 ネタにした映画 「カールじいさんの空飛ぶ家」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女が、3分間でしてくれたこと。 うびぞお @ubiubiubi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ