第2話

【4/×】

 同僚の潮凪しおなぎうみのすすめでこれから毎夜その日に起きたことを纏める日記をつけていこうと思う。


 出会いと別れの季節の春。

 それはVtuber界隈においても例外ではない。『別れ』の側面より『出会い』の側面の方が多いこの界隈だが、うちの事務所も『出会い』の側面で大いに賑わっていた。


 新人ライバーの登場である。


 新たに入ってきたライバーは六名。立ち絵モチーフは近未来で、三名男性、三名女性だ。Switterスウィッター公式アカウント開設一週間前にRescordレスコードで全体向けの挨拶を受け、それに反応しただけでそれ以降関わりはなかった。


 今日は彼らの初配信の日。Vtuberジャンルを作り上げた先駆者として、事務所の一先輩として緊張しながら初配信を見た。


 結果から言うと、完璧そのものだった。


 フューチャーズと称して活動を始めた彼らは、計六名の配信で合計同時接続者数20万人を記録した。同接でものを見るのもいかがなものかと言われそうだが、新人デビューでこれだけの数字を叩き出せるようになったというのはそれだけこの事務所に影響力が出てきたということだろう。


 後で見てみたら、日本のトレンド1位から5位を独占していた。先駆者として誇らしい反面、その数字が俺を嘲笑って見えてしまうのはどうしてだろう。



×××××



 職業柄他人とコラボしたり配信をしたりと人と話す機会は他の業種を見ても我々は比較的多いものだと考えている。


 SNSやリアル問わず活躍するためにはコミュニケーション能力や語彙力が必要不可欠となる。我が事務所にもこれが足りないと判断する知識欲に満ちたライバーというのは多く存在する。そのため、俺らの事務所では週に一回任意参加で【コミュ力強化勉強会】という勉強会が開催され、日々自らを磨くライバーが参加している。


 そんな俺も稀にこの会に参加しており、今日はそれを受けるために約1ヶ月半ぶりに事務所に訪れていた。


「お疲れ様でーす」

「あ、お疲れ様です」


 勉強会が開催されている部屋への扉を開けば、既に到着していたライバーや場を設けてくれたスタッフさんが挨拶を返してくれた。

 肩にかけていた手提げカバンを割り振られた机の上に置き、それの中からスマホを取り出す。Switterを開き、ツイートするべく文を打ち込む。


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龍宮寺灯耶@Touya_sansational

語彙力鍛え上げ選手権大会開催中!!!!!!

うわあああああああああああああああ

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 何か物事が起きる前にはツイートすることを心がけている。それをする事でどうにかなるかと言われればそうでは無いが、いつの間にか癖になっていたのだ。


「龍宮寺先輩、今日のコンディションどうですか?」

「まぁボチボチだよ。淺間あさまは?」

「最高ですね! 龍宮寺先輩と会話出来たのが最高すぎます!!」

「ははは……それは何より……」


 髪が蒼色に染まっている元気一杯な彼の名は、淺間あさま大輝ひろき。Vtuber名は神林しんりん翠碧すいへきで活動している。

 

「おーい、灯耶、神林!」

「あ、潮凪先輩!!」

「なんだよ、海」


 現れたのは潮凪海。本名で活動している珍しいタイプのライバーで、俺と同時に活動を開始した唯一無二の存在である。


「はーい、始めるから席についてー」


 入ってきたのは教員系Vtuberの『知識ちしきおしえ』だ。女性Vで、古典・現代国語の教員免許を取得している本物の教師Vtuberである。


「さて、今日は語彙力強化をしていく訳なんだけど……」


 そこから始まる授業風景。以前ならば決して相見えることのない、顔見知りにすらなれる訳が無いトップVtuber達とオフラインで同じ部屋にいられる光景が、俺にとって複雑な気持ちを抱かせていた。



xxxxx



【4/×】

 新人たちからDoscordで連絡が来た。どうやら潮凪・知識と初コラボ配信をするようで、どうしたら良いのか、コラボで気を付けることを全体で聞いてきた。


 言葉は酷いかもしれないが、俺には関係ないと思ったので適当に反応だけ付けて作業に移ろうとしたのだが、個人連絡で阿良良木からメッセージが届いた。


―――――――――――――――――――――――

阿良良木:コラボの件ですが、龍宮寺先輩も隠れゲストという形で出席頂くことって可能ですか?

―――――――――――――――――――――――


 なんて答えるべきなんだよ、コンチキショー!!






―――――――――――――――――――――――


潮凪海

チャンネル登録者:500万人

 龍宮寺灯耶と同じ配信枠でデビューした女性ライバー。当時男女コラボを控える風潮だったのを破壊した新進気鋭の発想や、それらを可能にする行動力を持ち合わせている、《神に愛された女》。


阿良良木あららきらい(以下新人)

チャンネル登録者:2万人

 未来よりやってきた男子大学生。タイムワープ実験の際に巻き込まれ、元の世界に戻るための方法を探すためにVtuberとして活動を始めた。黒髪黒目。


黒澤くろざわ朱里あかり

チャンネル登録者:1万5000人

 未来で活動するバーチャルエクソシスト。電脳幽霊を駆除する活動を行っている。ある日の幽霊との戦いで幽霊の時間遡行に巻き込まれ、現代へ来てしまった。幽霊に関する情報を収集するためにVtuber活動を始めた。白髪蒼目。


グルディーミル・ネクゾクター

チャンネル登録者:1万9000人

 未来に生きるエルフ。自身の家計に代々伝わる禁呪を行ったところ、時間遡行のワームホールが開いてしまい、気が付くと現代へタイムリープしていた。その際に禁呪の知識を紛失してしまったため、それらを思い出すために活動を始めた。

 黄金色の髪に翠目 。


星穹せいきゅう未来みく

チャンネル登録者:2万1000人

 遥か彼方、宇宙の最果てにある《星穹世界》から地球を観測している未来人。過去と未来、現代を行き来することが出来る《星穹列車》に乗ってきたが、タイムワープ中に故障。現代へ不時着し、故障期間と現代の情報収集を兼ねて配信活動を始めた。

 銀河色の髪にオレンジ色の目。


宇城うしろまえ

チャンネル登録者:2万6000人

 未来に生きるニート。両親にまともに働くまで家に返さないと追い出され、夜の街をさまよった末にタイムワープするワームホールを発見。それに飛び込んだはいいが、現代で生活するものがないため、生命を繋げるために配信活動を始めた。

 黒髪白目、ボサボサの髪。


エヴィス・セトュリアーン

チャンネル登録者:4万人

 時間を総べる女神。現代へ降臨し、未来人たちの監視を任務としている……のは建前で、現代の美食や珍味を味わい尽くすために降臨した食いしん坊女神様。

 灰色の髪に白金色の瞳。



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世界初のVtuberだが、素直に喜べないんだが。※やめる選択肢はない しらたきこんにゃく @MagicPoint

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