世界初のVtuberだが、素直に喜べないんだが。※やめる選択肢はない
しらたきこんにゃく
第1話
世界初、史上初。時にこれらは同義のものであると扱われることが多い。しかし、ここでは世界初を「世界で自分が初めて達成したこと」、史上初を「すでにあった技術を発展させて達成したこと」と定義し話を進めていこうと思う。
人類が80億人存在する現代において、世界初・史上初を達成することはたとえどんなにばかばかしく、周りに笑われようととても難しいことだ。それが社会に影響力が大きい分野で達成されるほど、ネットニュースに、地上波に。達成した人間の名前や経歴などがテレビには流れ、知名度は鰻登りに上がっていく。
世界初、特に史上初などはすでにあったものから生まれることが多々ある。野球においてのクイック投法などがそれの良い例の一つだといえるかもしれない。何か一つの閃きや既存の技術からの応用が、時にそれらの開発者ですら想定しえなかったその分野の発展に大きく貢献する画期的なものになる。
さて、長ったらしくものを語ってきたがそろそろまとめよう。
つまり、俺が言いたいことはただ一つ。これを読んでいる君に問いかけようと思う。
君は、世界初・史上初を達成したいと思ったことはあるだろうか?
♦
なんてことない、いつも来る日常。ブラック企業に入社してしまった俺を待つ、絶望しかない労働環境へ身を投じ、心も体もすり減らしてボロボロになりながら一日を終えるだけ。
傍にあったのはスマホとパソコンだけだった。恋人もいない、身内とも半ば疎遠状態。それでもこんな日常を生き抜けたのは、Vtuberをはじめとするクリエイターたちが作る面白おかしいコンテンツたちだった。
会社でほとんどの感情を欠落させられた俺でも、「笑う」ことだけは忘れたことがなかった。それは、エンターテインメントの最前線を走るクリエイターたちが作り続けた動画や生配信のおかげであった。
度重なるブームの到来、それに合わせたコンテンツを作り上げられる創造力。なんでも面白くできてしまう彼らを俺は尊敬し、同時に羨ましく思っていた。自分も真似しようと思って、でも彼らみたいにできなくて。
いつもみたいに会社でこき使われてきて家に帰った時、目の前が真っ暗になったのを覚えている。ポ〇モンバトルで負けた後にモニター部分で表示される一文に、選択肢が加わった光景を、俺は見た。
『いつもの生活に戻りたいですか。――YES/NO』
たまらずNOと答えたあの一瞬から、俺の第二の人生は幕を上げた。
♦
目を開けば、埃一つない清潔なマンションの一室だった。
鏡を見ると、そこには肌に張りがあって、目元に刻み込まれた真っ黒なクマは跡形もなく白い肌で、元気な若者そのものの自分がいた。
目の前には以前Vtuberやストリーマーの配信で何度も見てきた配信セットがあった。机の上には紙が一枚。それにはこう綴られていた。
『新たな人生、思い通りに生きてみろ』
誰からかもわからない、正体不明の手紙に書いてあった一文に、俺は心を救われたのを今でもよく覚えている。
そこからの人生はただがむしゃらだった。
その時まだ誰一人もいなかった「バーチャルYoutuber」として動画を作って、撮って、作って……それを数年繰り返し、その合間に配信・コラボを行い、自分の作りたい「エンターテインメント」を追求し続け、Vtuberの名を世に轟かせ、世間から「Vtuber文明の先駆者」と評される頃には、実に8年が経っていた。
そうして生まれたのが「Vtuber文明の先駆者」としての俺、「
本来あるべき物事を
――それが「俺」であり、「龍宮寺灯耶」の真の姿である。
♢
ここまでお読みいただきありがとうございました。
【語句紹介】
・龍宮寺 灯耶(りゅうぐうじ とうや)
世間が認めるVtuberの始発点にして、現状におけるVtuberのチャンネル登録者数の最高到達点。Vtuberの歴史上で最も「勝った」男である。
その実は、本来なるべき人が得る結果を横取りしてしまったと思い込んでいる臆病者。タイムリープ以降がむしゃらに活動していたら「Vtuber文明の先駆者」としての地位を不動のものにしてしまった。
・Vtuber事務所「センセーショナル」
男女混合の事務所。Vtuber市場における事務所の二大巨頭の一角。第一期生、二期生、三期生、四期生、ジェネレーションズ、アナザーワールド、イングリッシュ、インドネシアで構成されており、所属ライバーは100名を超える。
事務所名の由来は「世間をあっと言わせる」という「sensational」から。
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