それでも私は繰り返す

八咫空 朱穏

それでも私は繰り返す

 私には三分以内にやらなければならないことがあった――そこそこ散らかったままの自分の部屋を片付けることだ。


 事の経緯は数分前にさかのぼる。約束の時間三分前にインターホンが鳴ったのだ。カーテンの隙間からそっと外の様子をうかがうと、階段を駆け下りて勢いよく扉を開ける。


「ごめんっ! えっと、少しだけっ――三分だけまっててっ!」


 挨拶をすっ飛ばして、謝罪を友達に告げるとさっき降りてきた階段を駆け上って部屋に戻る。


 手あたり次第服を押し入れに、教科書とノートを机の本棚に、お菓子の袋をゴミ箱に放り込んでいく。寝床を許容範囲に整えて何とか人を迎え入れる状態にまで持っていく。こういうときだけは回らない頭より勝手に動く手足が役に立つ。というか、考えてたら三分じゃとてもじゃないけど時間がたりない。


 あーもうっ! なんでいつもこうなのよっ! あたしのバカっ!


 頭の中では後悔だけが響き続ける。そして後悔を埋め合わせるように手足が部屋を綺麗にしていく。額に汗がにじみ始めた辺りで、なんとか自分で納得できるくらいには片付けることができた。


 なんとかなった……。


 時計を一瞥すると、猶予が終わりを告げようとしている。私は一息つく暇もなく再び部屋を飛び出し、階段を駆け下りて扉を勢いよく開ける。


「ごめん待たせた?」

「待っては、ないかなぁ? いつものことだしね」

「うぐ……。ごめん……」


 私は毎回こうして友達を外で待たせてしまう。


「ともかく、外寒いから部屋に行こう? あったかくはしてあるから」

「いいねいいねー、家にあがらせてもらうよー」


 申し訳なさと、友達だから許してくれるだろうという慈悲を期待する心が混じってなんだか毎回ぎこちない感じになってしまう。


 急いで一往復した階段を今度はゆっくり登って、部屋の扉を開ける。


「全然片付いてないけど、良ければゆっくりしてってね」

「いーのいーの。うちの部屋のが散らかってるからさ」


 いつも私と友達の遊ぶ日はこんなやり取りから始まる。次こそは――って毎回思うけれどきっと私はまた同じ過ちを繰り返す。

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それでも私は繰り返す 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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