第2話 幼馴染と母さんが面倒くさい

「ということなのでこの子を助けてあげたい」

額をテーブルに押し付ける。

正面に座る父は腕を組んで難しい顔をしている。

隣の母はなぜかウキウキしている。たぶんオレの彼女が来たと誤解しているのだろうか。

親父はうーんと唸る。

「正直とても難しいぞ」

顔を上げる。

「わかってる」

「身分証明書は何とかなるがそれまでに通報されたら彼女は死刑。

我々も当局の監視下に置かれてよくて半年、悪ければ死ぬまで自由には生活できなくなるぞ」

親父は眉間に皺をよせる。

でも俺は怖気づくわけにはいかないのだ。

「親父の心配ももっともだと思う。

親父には地位だってある。

それに今オレがこうして何不自由なく暮らしていけるのは親父や母さんが守ってくれているからだ。」

俺は隣に座る彩花を見つめて続ける。

「でも、彼女には満足のいく生活がないんだ。オレが当たり前に享受しているものを彼女には無い。それを手に入れるためにも教育や周りの協力が必要だ。だけど彼女にはそれらも無い。」

彩花はじーッとテーブルの木目を見つめている。

「だから俺はカノジョをサポートすべきだと思うんだ。それが責務だろうし」

親父を見据えると両目を固く閉じ頭を小刻みに揺らしている。

「いいんじゃないの?

彩花ちゃんいい子そうだし

娘がいると家が華やかになるじゃない。」

母さんが親父の肩に手を置く。

親父は片目を開け母さんを見る。

「それに、二人とも私が作ったお菓子あんまり食べてくれないからつまらないしね」

とウィンクしてくる。

「大丈夫なのか?」

親父は確認するような視線を母さんに向ける。

「もし何かあったら…」

「大丈夫よ!今まで何度危機に陥ったって潜り抜けてきたじゃない。」

母さんは親父の組んでいた手をほどき、手の甲に触れる。

親父は苦笑し

「加絵には敵わないなぁ。」

親父は視線を俺に移し

「いいだろう。彼女の面倒は家で見よう。」

「本当か!親父」

俺は喜びのあまり前のめりとなった。

「ただし、しっかり彼女の世話をするんだぞ。

彼女と関わった責任は最後まで持て」

親父はそこですっと立ち上がりリビングから出ていく。

その後ろ姿を見送った後、俺は安堵した。

これで彩花を日常に連れていけるのか。

「そういえば、彩花ちゃんは彼氏とかいるの」

俺はびっくりして椅子から落ちた。

「何言ってんだよ母さん!プライバシーだろ」

俺の非難をよそに、母さんはにやけた顔で

「えーだって乙女の恋についてしりたいじゃない?颯ちゃんだって知りたいんじゃないの?こんなにべっぴんな女の子に彼氏がいるかいないか!」

「な、な、なんでそうなるんだよ」

「だってあわよくば「おれ付き合えるんじゃねーか」って思ってるでしょ?」

くそーこれだから世間の子供たちは友達を親に紹介したくないのだ。

「うなわけねーだろ!たく、迷惑するだろうが」

「そんなこと言って顔赤いわよ」

母さんウリウリと肘をこちらに揺らす。

「母親がこんなのだと、恥ずかしいだけだよ!」

こんな醜態を見られていると余計恥ずかしい。

ちらっと彩花を見ると顎に手をあて考えているような仕草をしている。

一体何を考えているのだろう。

ぱっと顔を上げたかと思うと

「あの、私に彼氏なんていませんよ。絶賛フリーです」

「本当に!!」

母さんは鼻を大きくしながら問い詰める

「なら颯ちゃんの彼女になってあげてよ!このこ度胸なしだから一生彼女できないだろうからさ」

「おいおい!何言ってんだよ母さん!これは殴っても家庭内暴力にはならないよな」

俺は拳骨を作り怪しいほほえみを母さんに放つ。

ずんずん母さんに近づいていこうとしたときに俺は耳を疑う発言を聞く。

「颯太君がいいのなら構いませんよ」

「ぶっふオ」

「よかったわね颯ちゃん」

彩花は別に嫌でもないのか普通の表情を浮かべている。

でもなんか違うのではないかとも思う。

確かに俺は女子と付き合いたい。

でもそれは誰でもいいってわけじゃないんだ。

お互いに好きになって淡い言葉を交わして気持ちを確かめ合っていくような甘酸っぱい者なんだよ。

これじゃ、家に住まわせる代わりの弱みを握って言わせたみたいじゃないか。

それは違うだろ。

「バーローが。彩花もこんなおばさんの言うことを真に受けなくていいんだぞ。」

「誰がおばさんですって怒」

「お、鬼婆だ」

ぎゃーぎゃーわーわー騒いでいたら彩花はきょとんトしながらも、どこか不思議そうに俺と母さんの会話を見ていた。


「彩花ちゃんはこの部屋を使って」

母さんが彩花に宛がう部屋へと案内する。

「このお部屋を使用してもいいのでしょうか」

どこか申し訳なさそうに眉を顰める。

「大丈夫よ。遠慮なんてしなくていいんだから。

もう私達は家族なんだから。」

母さんが軽く彩花に触れる。

まだぎこちないが、母さんはどこかで彩花の境遇の悲惨さを考えわざと大袈裟に明るくしているのかもしれない。

「ありがとうございます」

ペコリと頭を下げる彩花の頭もなでている。

「まあでも何かあったら私たちを呼ぶのよ」

するとどこかいたずら小僧のような笑いを俺に向け

「変態颯ちゃんが子孫繁栄の営みを彩花ちゃんに施してこようとしたら叫ぶのよ絶対」

「しないわ!人を何だと思ってんだ。」

まあでも母さんなりのやさしさなんだろうな。

「もし何かあれば俺の部屋となりだから何でも聞いてくれ」

彩花は俺をみてゆっくりと頷いた。

「じゃあ次の日学校だから寝る準備するわ」

「早めにお風呂入っちゃってね」

俺は明日の準備をすべく自室に入った。

同年代の男がいることが嫌にならなければいいが。

明日、稜花に聞いてみるか。



何度もまどろみながら目が覚めた。

眠さと暑さのせめぎ合いにとうとう負けた俺はベッドから降り軽くシャワーをあびて制服に着替える。

朝食を食べる為にリビングへと向かう。

「おはよう」

「おはよう」

リビングにはすでにエプロン姿の母がスクランブルエッグとヨーグルトにフルーツが入ったものが容易されていた。

ちなみにうちでは、飲み物はセルフサービスだ。

俺は冷蔵庫からペットボトルの紅茶と豆乳を取り出し2:1の割合でコップに注ぐ。

コップに口をつけいつもの味であることを確認しテーブルに腰を掛ける。

今日は親父は会社でのミーティングがあるらしく今はいない。

別段一緒に食べるわけではないが、大体顔を見合して食べている。

そうていつものようにSNSを開き友人や社会で起こった出来事をつらつらとスクロールして登校までの時間を潰す。

「また携帯ばかりいじってもう」

「すまんすまん」

「解約しようかしら」

すぐさま携帯を制服のポケットに押し込み

「冗談じゃんもう」

「冗談かしらね」

母さんは笑顔がどこかぴくぴくとしている。

「母さんうまいよこれ。流石母さんだな。料理上手」

「ヨーグルトは市販よ」

いまにも神経が切れそうな顔をしてらっっシャル母さんを横目に朝食を掻き込む。

彩花は起きてこないが、疲れがたまっていたのだろう。

ゆっくりと休ませることが先決だ。

「ご馳走様。」

カバンを手に持ち玄関に向かう。

ローファーに足をとして「行ってきまーす」

すると母さんがリビングから走ってきて

「弁当忘れてる!」

ピンクの花柄の堤に包まれている弁当をわたしてくれた「

「ありがとう!

これがなかったら俺は今日死んでたかもな。」

んじゃと玄関の扉に手をかけたところで

「颯ちゃん、今日は大変修羅場を体験するかもね」

何か楽しいことでもあるような顔をしながら変なことを言う。

「何言ってんだ?修羅場なんておこりえないだろ?」

原因がわからない俺は?マークが顔に印字されていたことだろう。

さあねと言った感じで両手を掲げて何も言ってくれない。

一体絶対修羅場とは何ぞやという想いをいだきつつ、灼熱の大地への扉を開ける。


背中にこびりついた衣服を指で引っ張り蒸れた熱を外に逃がす。

徒歩20分の登校は学校に行く気を削がせるのに十分だ。

まるで解放感の無いサウナに閉じ込められているようなものだ。

日差しが鋭いから俺はひたすら地面を見ながら足早に学校へと向かう。

するといきなり左肩に衝撃が走った。

「痛ってえな!」

「・・・・」

そこには何事もなかったような涼しげな顔でこちらをにらみつけてくる女がいた

腐れ縁で長く一緒にいるからこの女が今どういう状況なのか理解した。

機嫌が悪いのだ。

こいつはいつも自分に感情のコントロールを俺にぶつけてくる。

「あのな、あって早々人を殴る癖直した方がいいぞ」

「人聞きの悪いこと言わないで。

まるで私が誰彼構わず人を殴る変人だと思われるじゃない」

「その通りだと思うけどな」

俺はため息をつきながらその女を見つめる。

学校ではかなりの男子がこの女に撃沈されているのもうなずける。

見た目だけは一級品なのだ。

手入れの行き届いた艶のある腰ほどまでの黒髪に、

この女のトレードマークになっている赤いリボンが

一点の華やかさを醸し出している。

男に不安を与えるような瞳やあまり表情を変えないことなどが男心をくすぐるらしい。俺にはそんな気質は備わっちゃいないけど。

髪を揺らしながら鋭い視線を向ける

「わかっちゃいなのね。颯太みたいな変態助平痴漢キングにしかはたいたりしないわよ」

「どの表現も俺を正確に表しちゃいないんだがな。特に最後のやつ」

「あら、違ったかしら?

台車で女の子に突進して気を失わせた挙句、

おっぱいに手を当てて感触を確認、ムラムラが我慢できなくて家に連れ込んだ超ど級の痴漢キングさんじゃなかったかしら」

「それだれからきいた!しかも捏造だらけじゃないか!」

「あなたのお母さんからよ。深夜にね」

「今日という今日は許さねェ。」

「で、どこまでが本当なの?」

そこでこの女はジト目で睨んでくる。

しかもものすごく殺意を感じる。

「えとだな、台車でぶつかって、心臓の鼓動を確認して、大丈夫そうだったけど一応様子を見ておこうと家に連れて帰って、今家で休んでいる」

するとぽかんと呆けたような顔をして

「そ、颯太はその女の子を家に泊めたの?」

「そうだけど?沢山汗かかせちゃったし、いろいろ手伝ってもらったしさ」

この女改め稜花は顔を真っ赤にして

「あんたがそこまで貞操観念のひくい獣だと思わなかったわ!」バチンと頭をはたかれる。

「て、貞操観念?何を勘違いしてるんだよ!んなことしてねーよ」

「もう、知らない」

プイっと顔を背けてぐんぐん進む。

周りからクスクスと冷やかすような視線と殺気を帯びた視線が俺に突き刺さる。

「朝から夫婦漫才なんてお熱いことで」

「ラブラブだね」

「颯太殺す颯太殺す」

俺は非難を受け止めることしかできなかった。泣きたい。


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宇宙に一撃をあたえるまでは。 只石 美咲 @Misaki-Tadaishi

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