第1話 宇宙に一撃をあたえるまでは。
熱い。
なぜおれは熱中症注意報が発令されているのに外にいるのだろう。
そんな中でゴロゴロと台車を転がして目的の場所に着くのを遅らせられている。
台車の上には1メートル×1メートルの正方形で黒色の機械が鎮座している。
上部に手を触れるとスクリーンが出てきて操作できる仕様になっている。
並木通りを歩いていると道行く人が物珍しそうな顔でこちらを見てくる。
中には物凄い形相でにらんでくる輩がいるがこちとら運びたくて運んでいるんじゃねーんだよ。
立ち並ぶ木々にはセミがハレンチな共鳴を鳴らしている。
セミでさえ繁殖相手を見つけられるのに俺には彼女さえいないのか。
セミの音でさえイライラするのにちんたら転がる台車の音を聞いているとなにもかもなげだしたくなる。
台車を押す手が怒りで震えるぜ。
親父め許さね。
オレが金欠なのをいいことにまんまと利用されてしまった。
今頃、涼しい部屋で綾辻美羽とイチャイチャできたのによ。
ちなみに綾辻美羽はギャルゲーのヒロインだ。
ボブカットで目がクリッとしていてとってもかわいい女の子だ。
性格は引っ込み思案だが、清楚で素直で心がとてもきれいで、馴れてくれるとニコって笑ってくれるこれに心をつかまれない男はいないだろう。
特に俺からすればとってもとってもうるさい幼馴染がいて、綾辻美羽のような女の子は貴重なのだ。
そうこうしていると目的地に到着した。
しかしここからが問題、目的地には着いたけど目的の場所に行くには45度もある坂をこの台車を押してのぼらなければいけない。
額に流れる汗をタオルでぬぐい、台車の押すところにかける。
ぐっと足に力を入れ台車を押していく。
一歩一歩着実に上っていけるように。
熱いし足が痛いし帰りたいしもういや。
でも目的の場所に着いた。
だだっ広い更地のようだがところどころに坂やら配管やらが配置されており用途はわからない。
台車の上にある機械とどのような関係があるのかわからないがそんなことは関係ない。
ここから機械を起動してマニュアル通りに操作するだけで終わるのだ。
俺は正方形の上部に手をかざしスクリーンを起動した。
パスワードを入力して所定の操作をする。
ところどころ、政府関連の承認や特定回線への許可など重要な操作もおこなっていく。
操作をしていくとこの機会は重要なものなのだろうと何となくわかる。
でも重要ならぺえぺえの高校1年生に運ばせるのはどうかと思う。
しばらくして初期設定の完了の画面が出てきた。
良しこれで帰れる。
こんな蒸し暑い地獄とはおさらばして綾辻さんに癒されるんだい!
「ん??」
画面が赤く点灯しだした。
手元にあるマニュアルをめくる。
汗で湿ったマニュアルは捲りずらいが、早く問題を解決して帰りたい。
マニュアルの最後に近いページに「画面が赤く点灯した際の対処」と記載された箇所を見つけた。
読み進めていくと、「××××××××操作及びバッテリー機械の座標のずれ」とあり座標を正常に動かさなければいけないらしい。
しかも機械内の座標は絶対正常であるらしく、機械の置く場所を変えなければいけないらしい。
我が愛しのスウィートマイルームへの帰還は遠のいた。
がっくりと体全体が重くなったがやらなければ終わらない。
俺は台車に手をかけ、パネルを確認しながら適切な座標の位置を探っていく。
親父、報酬は高くつくぜ。
3時間が経過した。
俺は体全体から滝のように流れる汗に気が滅入っていた。
タオルはびちゃびちゃになっており使えない。
頭も少し痛い。直射日光を浴びすぎて頭がオーバーヒートしそうなのかもしれない。
まんべんなく台車を押しているのになぜ座標がないのだろうか。
ジンジンと痛む頭で必死に考えるが、もはや回転させられるほど頭に余裕はなさそうだった。
しかし、一つだけ可能性があるとしたら木々が生い茂っている中にある小高い丘だろう。
到着した際には気づかなかったけど、3時間の間周っていたら気の中に丘がある事を発見したのだ。
額に流れる汗を腕でぬぐい台車を押す。
これでムリだったら、機械をおいて帰ろうと決意した。
何とか小高い丘を登り、スクリーンをのぞき込む。
すると「正常運転開始」と表示された。
よっしゃー!帰れる!!
ガッツポーズをして喜びを爆発させた。
これで金欠も解決、綾辻さんに会える、暑さから解放される三方止しだ。
背後からズサーッと音がした。
最中につたる汗が冷たく感じた。
座標のことばかり集中していけど、台車のストッパーを止めることを忘れていた。
なんてことだ、今までの努力が水の泡だ。
台車は勢いをつけて丘を駆け下りていく。
「まて!」
思いっきり地面をけり上げ、丘を疾走する。
ぐんぐんスピードを上げていく台車に追いつくことは難しかった。
ちきしょどうすれば。
不幸はさらに重なった。
台車の進行方向に少女が立っていた。
「あぶない!!」
力の限り叫んだ。
しかしこちらの声が聞こえないのだろう微動だにしない。
台車はさらに勢いをつけて少女に突き進む。
俺は激突する瞬間を見たくなかった。
自分で招いたことであるが、決して見たいものではないだろう。
だから唯一の心理的防御反応として目を閉じた。
ドゴンと車の事故のような音が響き目を開ける。
台車は吹っ飛び、正方形の機械が少女に覆いかぶさるようにぶつかった。
少女は後方に吹っ飛ばされ転がる。
その上を機械が飛び配管に激突。
配管から大量の水が噴射された。
機械に水がかかった瞬間にまばゆい光が機会と少女を包んだ。
一瞬の目のくらみを耐え、少女に駆けよる。
少女は水たまりの中に寝転がっており外傷は特にないことがわかる。
しかししまったと感じた。機械が水に浸されているのならば自分も感電してしまうのではないかと。
しかし機械は安全装置が作動してるのか、電流が流れていない。
俺は少女を抱きかかえる。
頭や足、また心臓の音などを確認する。
特に問題はないが、救急車に連絡しよう。
障害が出てからじゃ、遅い。この少女の人生を潰すわけにはいかないのだ。
スマホを取り出し、緊急通報を使用とすると突然細い腕が俺の手首をつかむ。
「大丈夫」
少女はか細い声で囁く。
「大丈夫なわけないだろう!なにかあってからでは遅いんだよ」
俺はまくしたてる。
すると少女は困ったような顔をして
「本当に大丈夫だから」
すっとつかんだ腕を離して起き上がる。
「ほら、この通り」
軽くストレッチして見せる。
確かに何処も問題がなさそうだ。
「でも」
俺は食い下がる。
「俺は君をケガさせたと思うことがとても耐えられない。わがままだけど俺は君が健康であることを確認したいんだ。」
「私、本当に大丈夫ですよ。」
「それでも何か埋め合わせをしたい」
そこで少女の容姿を見る。
まるで理想の少女が目の前にいた。
セミロングでサラサラな髪は黒髪だった。その髪が風で揺れるたびに中のインナーカラーである紫の色が垣間見える。
目がまん丸で聡明さと可愛さが混在としている。肌もきめ細かく色白だ。男の俺から見てもわかるのだから、女性が見たらきっと嫉妬するだろう.
少女はにこやかに笑い
「責任感の強い方なんですね」
「いや自分の不注意を挽回したいだけだぞ」
「そうですか」と少女は小さな顎に手を当てて思考にふける。
しばらくたった後、少女はぱっと俺を見据え口を開く
「あの、なら申し訳ないのですが匿ってもらってもいいですか」
え、どゆこと。俺の思考が止まったのは言うまでもない。
済み
事情を少女から聞くと納得だった。
少女は先の統都消滅において家族がみな死んでしまったとのこと。
それによって行き場を無くしてしまい、身内などもいなかったことから最下層である外縁に置き去りにされ貧困に陥った。ある日仲介人を通して、オレが住んでいる場所、第6高等区に忍び込んで生活しようと考えていたらしい。確かにホームレスであってもここら辺は非常に生活しやすい環境ではあるだろう。
しかしやはり身元の割れないものがいれば警備隊によって連行され、運がよければ外縁に釈放で悪ければ死刑だろう。それほどまでに身元の割れない人物に対して警戒しているのが恵比寿国の現状なのだ。
だから少女は身元を引き受けてほしいと申し出ているのだ。
うーん。どうしよう。
流石に俺の一存では難しい。
しかも年齢を聞くと15歳という。
学年は高校一年生だ。
両親は突然、美少女を家に連れて帰れば腰を抜かすだろう。
こんなヒモテで女っけのないこの俺が連れて帰れば誘拐を疑われかねない。
額に手を当てながら
「あの、それって一緒に暮らすということか」
少女はこくりと頷く。
身元不明な人間を匿うことは違法ではあるけど、俺は彼女を殺していたかもしれないという弱みがある。
なら一緒に匿って、身分証明書を作成して彼女にちゃんとした生活を送らせてあげるのはお安い御用なのではないか。
そうだな。
「わかった。両親は何とか説得して見せる。まあ多分OKだと思うけど。」
少女は聡明そうな目を輝かせてニコリと笑顔を見せてくれた。
吹っ飛んだ台車は案外使い物になった。
また機械もショートした際に安全装置が作動していたこともあり無事に起動。
座標の位置まで少女と協力して持っていき設営完了。
「手伝ってくれてありがとう」
額を袖でふき取る。
絶対に今汗臭いだろうが、少女は嫌な顔一つしない。
いい人なんだな。
少女は汗一滴もかかない清潔感のある顔が夕日に照らされる。
横から見ると少女のまつ毛の長さに驚かされる。
またきらきらと水面に反射しているようなきれいな瞳もいい。
少女はぱっとこちらを見た。
見ていたのがばれてしまったのだろうか。
すると少女は
「これからもしかしたら迷惑をかける可能性がある。だからもし断るなら今だと思うな」
少女はとつとつと話す。
「あなたにとって私を匿うことは必ず人生の大きな分岐点となるとおもう。だから確認」
少女は静かに目線を空へと向ける。
すっかり暗くなった空にある星を眺めている。
「迷惑なんて思うなよ」
俺は少しだけいらだった。
「確かに違法に入ってきたことは問題はあると思う」
少女は再度こちらをみて興味深そうに視線を向ける。
「だけど、君は今まで辛い思いをしてきたじゃないか。
だからもう君はゆっくりしてもいいはずだ。
15歳なんてまだまだ子供なんだ。
迷惑をかけるのが義務みたいなところもある
それに俺の家はそこそこ影響力がある家でもあるんだ。
だから身分を創り出すことなんておちゃのこさいさいだから。
君が気を使う必要はないよ」
俺はまくしたてながら少女に伝えた。
独り言みたいで少女には意味が分からなかったかもしれない。
でも伝わったと思う。
なぜなら彼女は目に一杯涙を溜めて静かにうなずいたのだから。
「俺は高柳颯太。君は」
少女はそこで驚いた顔を浮かべて逡巡した。
少し戸惑うようなしぐさをしながら
「い、石井彩花です。」
俺は手をさし出し、少女はぎこちなく手をさし出し、握手した。
これで契約は成立した。
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