〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった

キングスマン

〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった

 〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった。

 ××になる必要があるのだ。例えどんな犠牲を払っても。


 問題。

 次のことわざの説明文が正しければ【〇】を、間違っているなら【×】を書きなさい。


『犬も歩けば棒にあたる』

【〇】ストレスとは無縁そうな犬コロだって普通に歩いてるだけで、これまでの黒歴史がフラッシュバックして奇声を発したり、そこらに転がっている棒に強くあたってしまうことだってあるんだよ。だからきみもクヨクヨしないで、という意味のはげまし。


『猫に小判』『豚に真珠』

【〇】いわゆるスーパーチャットのこと。


 ここはアメリカ(←伏線)のとある小学校。

 二十人以上(←伏線)の子供たちが国語の小テストを受けている。

 漢字の読み書き、文章を読んで作者の気持ちを想像するやつ、〇×問題。

 この物語の主人公であるアーガイル少年(9歳)は、巻頭カラーの見開きでヒロインが下着姿を披露するタイプのラブコメ漫画ばりのサービス問題で派手に転んでいた。

 当然、答えは【〇】ではなく【×】である。

 残り時間は三分。

 このままでは世界が終わってしまう。


 ところであなたは最近、笑っているだろうか?

 気づけば暗いニュースばかり追いかけていないだろうか?

 ここで私(この話の作者)の話を聞いていただきたい。

 たしかあれは三ヶ月くらい前(もしかしたらもっと前だったかも)の話。

 その日の夕方、私はお腹がすいていたため、某有名チェーン店で食事をとることにした。

 店内はサラリーマンと学生で賑わっていた。

 それなりに繁盛しているにもかかわらず、カウンター内にいるスタッフは中年の女性と、おそらく高校生の女の子の二人だけ。

 私は自分の注文をすませて料理が届くのを待っていると、突然、中年女性スタッフが女子高生スタッフを怒鳴りはじめる。

「あなたどうしていつも同じミスをするの! ちゃんとメモを見なさいって言ってるでしょ! なんでメモを見ないの? メモしてないの! メモ! メモ!」

 中年女性スタッフはまるで萌えキャラのように語尾にメモメモと付けているものの、かわいらしさはあまりない。

 人を外見で判断するのはよくないこととされている。私もその意見には賛同だ。しかし現状、外見的特徴以外に判断材料がないのも事実なので、なるべく主観をまじえずにお伝えすると、中年女性スタッフは実に高圧的で気性が荒らそうなのに対して、女子高生スタッフはどことなく気が弱そうに見える。

 店内の客全員が頭の中で井之頭五郎を召喚して、あの中年女性スタッフにアームロックをかまして、女子高生スタッフに「それ以上いけない」とたしなめられる妄想をしていたことだろう。

 とはいえ現実は妄想より奇なりなのである。

 後輩をいびる先輩。

 おそらくこの光景はこの店で何度も繰り返されてきたのだろう。

 しばらくうつむいていた女子高生スタッフは突然顔を上げると

「いつもいつもメモメモうるせえんだよ! ババア!」

 と叫び、相手の腹部に見事な蹴り(←↙↓↘→K)を炸裂させた。

 背後にあった棚に背中からぶつかり、尻もちをつく中年女性。

 ご機嫌ななめな様子で『Staff Only』とプレートのついたドアの向こうに消える少女。

 中年女性は天をあおぐような顔向きで尻もちをついていた。

 次の瞬間、中年女性が背を預けていた棚の上部から、箸だかストローだったか忘れてしまったけれど、細い棒状のものが大量にばらばらと落ちてきた。

 その内の二本が、スポスポと中年女性の鼻の両穴に綺麗にホールインしてしまったのだ。

 店内爆笑。

 私の近くの席に座っていた学生とサラリーマンが口の中のものを盛大に放出する。たぶん星のカービィへのリスペクトだろう。私も料理を口に運んでいたらカービィになっていたかもしれない。

 中年女性スタッフは鼻に刺さっていたブツを抜く。そしておもむろに泣きはじめる。

「ババアって言われた……ババアって言われた……」

 え? そこに傷ついてるの? と店にいた誰もが思っただろう。

 割りと真剣に顔をぐちゃぐちゃにしながら泣きつづける中年女性スタッフ。

 他者に攻撃的な人ほど打たれ弱いとはいうものの、いくらなんでも防御力低すぎでは。

 いや今のはおばちゃんが悪いよ的な言葉を周囲の学生がかけはじめる。

 スタッフルームの扉が派手に開かれ、中年男性が飛び出してきた。おそらくこの店の責任者だろう。

 彼は我々に謝罪をして、泣きじゃくる中年女性スタッフを立ち上がらせ、ゾンビのような二人三脚でスタッフルームに入ろうとする。

 途端、スタッフルームの扉が力一杯開かれた。

 扉に頭をぶつけ、弾き飛ばされる中年女性。

 先ほどの女子高生スタッフが学校の制服姿で飛び出し、そのまま店から出て行った。

 ドラゴンボールのヤムチャ──という文言で人類の多くが想像するポーズになって床でジタバタする中年女性。

 食欲を満たすためにここに訪れたであろう学生やサラリーマンたちは呼吸困難な笑いに体を乗っ取られていた。

 店内にやけに学生が多かったことから、もしかしてここまでの茶番は全て緻密に計算された舞台であり、どこかで撮影されていて動画サイトにアップされるのでは? と思ったものの、近くにいた女子学生グループが「これ動画取ってたら絶対バズってたのに」とくやしがっていたので、その可能性は消えた。

 店の責任者と思しき中年男性スタッフは、もう代金はいいから帰ってくれないか的な言葉を丁寧に我々に伝えてきた。

 おいしい食事とエキサイティングなショーまで用意して、これで無料だなんて、きっとこの店の食べログ評価は相当高いに違いない。なお、私の料理は結局届かなかった。

 ちなみにこの話は本編に一切関係ない。

 ひとまず本編を完成させてみると規定された文字数に到達していなかったので急遽引っ張り出してきた文字数稼ぎである。

 しかしこのまま本編のつづきに繋げたところでもう誰も(私さえも)前半の展開を覚えてないと思うので、いったんここで仕切りなおして、もう一度はじめから本編をお楽しみください。



 ──────《仕切り直し線》──────



 〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった。

 ××になる必要があるのだ。例えどんな犠牲を払っても。


 問題。

 次のことわざの説明文が正しければ【〇】を、間違っているなら【×】を書きなさい。


『犬も歩けば棒にあたる』

【〇】ストレスとは無縁そうな犬コロだって普通に歩いてるだけで、これまでの黒歴史がフラッシュバックして奇声を発したり、そこらに転がっている棒に強くあたってしまうことだってあるんだよ。だからきみもクヨクヨしないで、という意味のはげまし。


『猫に小判』『豚に真珠』

【〇】いわゆるスーパーチャットのこと。


 ここはアメリカのとある小学校。

 二十人以上の子供たちが国語の小テストを受けている。

 漢字の読み書き、文章を読んで作者の気持ちを想像するやつ、〇×問題。

 この物語の主人公であるアーガイル少年(9歳)は、巻頭カラーの見開きでヒロインが下着姿を披露するタイプのラブコメ漫画ばりのサービス問題で派手に転んでいた。

 当然、答えは【〇】ではなく【×】である。

 残り時間は三分。

 このままでは世界が終わってしまう。


 〇は未来からメッセージを受け取っていた。

 どうやらアーガイルは将来この国の大統領となり、世界的な危機をいくつも救っているのだという。

 ただし、アーガイルが大統領になるには一つの条件があるという。

 それはこの国語テストの最後の〇×問題で正解すること。それだけ。

 なぜそれが大統領と結びつくのかは不明だが、未来からのメッセージなので信じるほかない。

 そして、アーガイルは見事に×ではなく〇と記入してしまった。

 試験時間は残り三分。

 このままでは世界の未来が危ない。

 だがそこで〇は天啓を得た。

 おそらくアーガイルがこの問題で失点して学校の成績が下がることで将来に影響があるのだろう。

 だったら全体を下げてしまえばいいのだ。

 バッファローだ。

 バッファローの力をかりればいい。

 幸いここはアメリカ。

 犬やカウボーイよりもバッファローの多い国(Wikipediaより引用。要出典)

 〇は己の魔力を全開にして、合衆国中のバッファローを呼び寄せる。

 ほどなくして地震と地雷が一緒にやってきたような地響きと共にバッファローの群れがやってきた。

 粉砕される教室のドア。

 アーガイル以外の生徒に襲いかかる猛牛(バッファローはウシ科の動物です)

 そう、これはみんな大好きトロッコ問題の正解例なのだ。

 将来有望な一人とその他十数名の生徒。バッファローをぶつけるならどっち?

 その答えを示すように、一人の少女にバッファローのツノが牙をむく。

 その牙を、がしっと受け止める。

 受け止めたのは──アーガイル。

 アーガイル(9歳)はツノを掴んだままバッファローを持ち上げると、まるでダンスでも踊るみたいに、牛をぶんぶん振り回しながら、他のバッファローをなぎ倒していく。

 100人の敵を倒す者を英雄と呼ぶ。たった1人の命を救う者を神と呼ぶ(映画『バーフバリ』より)

「アーガイル! アーガイル!」

 クラスメイトたちからの喝采。

 そうか、この日のこの事件を境にアーガイルは大統領への道を驀進ばくしんしていくのか。

 だがしかし、テストはまだ【〇】のまま。間違ったままである。

 そのときアーガイルは己のテスト用紙に目を向け、解答のあやまちに気づく。

 しかし筆記用具はバッファローの群れに吹き飛ばされていたため、ペンも消しゴムもない。どうする?

 アーガイルは実におちついた様子で、足元で気絶していた一匹のバッファローの見事なツノをへし折って、それを交差させて、テストの上に乗せた。

 それはそれは見事な×印であった。

 クロスにしたバッファローのツノは平和、富、祝福の象徴であり、紀元前より重宝されていたという事実はあまりに有名である。


   Fin


【コミュニティノート 交差させたバッファローのツノに何らかの意味合いが持たされているという事実は確認されていません。デマです】

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