第3話 鬼コーチ
「1!」
『1!』
「1!2ぃ!!」
『1、2!!』
真白くんの掛け声に合わせて俺たちはアップを始めた。
公園の木もだいぶ葉が落ち、グラウンドにも茶色や黄色の落ち葉がたくさん散らばっている。
「声が小さーい!!人数少ないんだから、しっかりやれ!!!」
鬼コーチの矢場さんがいる時は、グラウンドの雰囲気がいつもより引き締まる。
「矢場コーチ怒ってるぞ、お前らちゃんと声出せ!」
俺は下級生に指示した。
「いっちに〜!!!!!」
みんなの声が、一段と大きくなった。
ストレッチを終えたら、ダッシュの練習だ。
「早くしろ〜、集まれ〜!!」
矢場コーチは一二塁間で俺たちを呼ぶ。
「いいかー、スタートって言ったら走れよ。反対!っていったら戻れよー。いくぞ!」
「スタート!!」
コーチの合図で俺たちは一斉に二塁に向かって走り出す。
「反対!」
俺たちは一斉に逆向きになり、一塁に向かって全速力で走る。
「反対!」
今度はみんな二塁に向かって走り出す。
3、4回繰り返すとみんな息が切れ始める。
「まだまだ!!反対!!」
持久力のある3年の瑛太を除き、みんな息があがってヘロヘロになってくる。
瑛太はすげえなぁ。俺より年下なのに。
「終わりー!」
矢場コーチが告げた。
ゼイゼイしているみんなのもとへ、ふらふらと辿り着いた俺は地面にしゃがみ込んだ。
「咲也、自主トレが足りねーぞ!」
コーチは容赦なく俺をたたきのめす。
「‥はい、すいません‥」
俺たちは持ってきた水筒の水をぐびぐびと飲み干した。
「新しいメンバーに体験に来てもらう時、マジで矢場コーチいない時にしような。」
俺は小声で真白くんに告げた。
真白くんは、コーチが近くにいないのを確認し、笑ったような困ったような、変な顔をして俺を見た。
公園の奥の方から監督が遅れてやってきた。
「ボール回しやるぞー」
俺たちは今日もまた4人だったので、それぞれ塁についた。
この間までは6年生がたくさんいたから練習にも力が入ったが、今は真白くん以外は下級生だ。
「瑛太ー!いいぞ!ナイスキャッチ!!」
「龍平!前よりいい声出てるぞ!!」
俺は副キャプテンとして下級生を元気付けた。
------
練習が終わり、挨拶を済ませた俺と真白くんは、グラウンドから少し歩いた先にある、公園内のベンチに座った。
真白くんがせんべいをくれたので、2人でぼりぼりと食べながら話した。
「せんべいとか、渋いな、真白くん。明るいうちに、ちらしのこと考えちゃおうぜ」
「そうだね!」
俺は今朝出る前にランドセルから野球バッグに移し替えた、筆箱と使い終わったプリントを取り出し、鉛筆でプリントの裏側に書いた。
—スラッガーズのチラシのこと—
新橋スラッガーズ!! タカナシ トーヤ @takanashi108
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