第2話 西公園

吐く息が白く見える時期になってきた。

少し身震いした俺は、グラコンのチャックを上まであげ、キャップを深々とかぶる。


野球場のある西公園に向かうサイクリングロードを、俺はトレーニングがてら全力で走った。重たいカバンが、グラコンに擦れてシャカシャカと音が鳴る。


「咲夜くん!おはよう!」

後ろから声がして振り向くと、3年の瑛太だった。

「おぅ瑛太!早いな!」

「僕も咲夜くんたちみたいに、早く行って練習しようと思って。」

「偉いな、瑛太。来年は瑛太が副キャプテンか??」

俺はにやりと笑って瑛太をつついた。


「来年はもっと僕の学年も人数が増えてると思うから、頑張らないとレギュラーメンバーになれないかもしれないし!」

瑛太は楽しそうに話した。

「前向きだな!やっぱり次期副キャプテンだわ、瑛太!」

「いやぁ、僕なんて全然!」

そういいながら、瑛太は照れ臭そうに笑った。


西公園につくと、監督と真白くん、真白くんのお父さんが来ていた。

グラウンドに一礼し、挨拶を済ませた俺たちは倉庫から野球道具を運ぶ。

「6人じゃあ、紅白戦も難しいよなぁ。親の数も減ったし。」

真白くんが言った。

「だよなぁ。早く紅白戦やりてーな。」

この前までは、11人を5対6にわけて、親にも入ってもらうことでなんとか紅白戦ができていたが、もうそれも難しい。

6年生の親は、よくきてくれる人が多かったが、今のメンバーの親でいつもきているのは、真白くんのお父さんと俺のお父さんくらいだ。


「今日は、ティーバッティングの練習でもするか。」

監督が言った。人数も少なくなり、試合もしばらくないので、監督の気合いの入り方もこの前までと全然違う感じがする。


練習開始時間ギリギリに、3年の龍平が走ってきた。

「おはようございます!!」

残りの2人の姿はまだ見当たらない。

「あれ、圭二と悠太は?」

俺は監督に聞いた。


「圭二は、インフルエンザで休み。悠太は、風邪だ。今日は全部で4人だ。寒くなって、体調崩しやすい時期だから、みんな気をつけるんだぞ。」

「はい!」


アップのあと、俺と真白くんは外野のほうまで行ってキャッチボールをした。

「4人とか、なんかもう、やる気削がれちゃうよなぁ。」

さすがの俺も、つい愚痴をこぼしてしまう。

「来年、本当にどうなるんだろうな。9人になったとしても、こうやって休みとかあると人足りなくなるから、最低でもあと4人くらいは入ってもらわないと困るよなぁ。」

「誰かいないの?真白くんの友達とか。」

球をやる気なく投げ返しながら、真白くんに聞く。


「誘ってみてはいるけど、今は試合もなくて楽しくない時期だし、タイミングがね〜。それに、なかなか5、6年生からやろうって人もいないだろうし‥。」

「確かに。俺も友達誘ってはいるけど、俺のまわり、サッカーやってるやつが多いからなぁ。でも俺たち、キャプテン・副キャプテンとして、なんかやんないとまずいよな。」


俺は投げ返すのをいったんやめ、顎に手をあててしばらく考えた。

「なぁ真白くん、俺たちで新橋スラッガーズのチラシを作って、学校でみんなに配んねぇ??」

真白くんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに目を輝かせて笑った。


「いいねそれ!やろうやろう!」



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