【KAC20241+】破壊とその先にあるもの

かごのぼっち

破壊とその先にあるもの

 そこは異世界の終末。


 時代と文明は進んで、人族は賢者の石を手にして、ソロモンの鍵を開けて、理をも揺るがすほどの力をつけた。


 力をつけた人族は、他種族を隷属し、ホムンクルスによる眷属を創りだし、人族の人族による人族の為の世界を構築した。


 やがて魔物は駆逐され、魔王は討伐され、そして神々も蹂躙されつつあった。


 人の持つ欲はこの世の全てを喰らい尽くし、深淵の闇も、その闇に蠢く混沌もひと飲みにして、ヒトナラザルモノへと進化を遂げた。


 進化したヒトナラザルモノは、世界樹を薙ぎ倒し、セフィロトの樹を食べた。


 更に、ヒトナラザルモノは自らをも喰らい、次の世界への扉を開けようとしていた。


 


 生きながらえた神が一柱。


 名をカゴノボッチと言う。

 

「何だ騒がしい」


 カゴノボッチは世俗の争いに興味を示さず、時空の狭間で永い眠りに就いていた。


 そこをヒトナラザルモノがじ開けようとするのだからたまらない。


 仕方なく起きてしまったカゴノボッチは外の世界をるに、ひとつため息をついた。


 「はあ。 人が進化した、つまり神化したのか、くだらん」


 カゴノボッチはふたつため息をつくと、外の世界に彼らを送り込んだ。

 

 『破壊神バッファロー』


 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。それが通った跡には何も残らない、ひとつのアルマゲドンに等しい力を持つと言う。


 ヒトナラザルモノはのっぺりとした表情はそのままに、口角だけをつり上げて嗤う。


 まだ壊せるモノが、喰えるモノがあったからだ。


 ヒトナラザルモノはバッファローを次々と蹴散らし、それらを拾い上げて貪り喰った。


 カゴノボッチはそんな事はお構いなしにバッファローを送り続けた。


 蹴散らして喰う。


 蹴散らして喰う。


 蹴散らして喰う。


 ヒトナラザルモノがどんどん肥大化してゆき、世界がヒトナラザルモノで覆われようとしていた。


 それでもカゴノボッチはバッファローを送り続けた。


 やがてヒトナラザルモノは身体の内側から喰い破られて、世界はバッファローで溢れた。


 ヒトナラザルモノは魂魄に及ぶまで喰い尽くされて、世界には何も残らなかった。


 「はあ…」


 カゴノボッチはみっつため息をつくと、アンブロシアの実を食べ始めた。


 アンブロシアを食べ終えたカゴノボッチは、その種を外の世界へと吐き捨て、


「くだらん」


 そう言葉も吐き捨てると、カゴノボッチは再び永い眠りに就いた。


 やがて何も無いその地に、小さく芽吹く生命があった。


 その生命は、腐った大地を浄化しつつ、それらを糧に大きく、それはそれは大きく育った。


 大きく育ったその生命は母なる樹となり、二つの花を咲かせ、花はやがて果実となって大地に落ちた。


 落ちた実から、ふたつの生命が生まれた。


 母なる樹はふたつの生命を育てる為に、カゴノボッチへと懇願する。


─カゴノボッチ様、どうか彼らを育てる為に精霊をお遣わしください。


 カゴノボッチは目も開けずに手をひらつかせて、母なる樹の願いを断った。


 母なる樹は遣る瀬無く、哀しみに昏れて、涙を止め処なく流した。


 流した涙はやがて大河となって、枯れた大地を潤した。


 潤った大地に根を伸ばした母なる樹は、次々に草木を芽吹かせて、大地を自らの緑で包み込んだ。


 母なる樹の恵みでふたつの生命は大きく育った。


 母なる樹はとても喜んだ。


 やがてふたつの生命は大きくなり過ぎて、母なる樹の恵みではもて余すようになった。


 ふたつの生命は母なる樹の恵みを奪い合い、争うようになった。


 母なる樹はそれを見て哀しくなり、再び涙を流した。


 流した涙は大河となり、大河は母なる海となり、また様々な恵みをもたらした。


 母なる海の恵みで、ふたつの生命は仲良く育ち、大きくなった。


 母なる樹と母なる海はとても喜んだ。


 やがて母なる樹と母なる海は、ふたつの生命をもて余すようになった。


 ふたつの生命は母なる樹と母なる海の恵みを巡って、争うようになった。


 母なる樹と母なる海は、哀しみに頬を濡らしたが、それ以上の事は起こらなかった。


 やがて母なる樹と母なる海の恵みは、ふたつの生命を肥大化させ、自らは痩せ衰えて、ふたつの生命を養えなくなりました。


 母なる樹と母なる海は息絶えて、ふたつの生命だけが取り残されました。


 されど、ふたつの生命は争いを辞めず、次第に共喰いを始めました。


 やがてひとつの生命となって他に何も無くなってしまいました。


 ひとつの生命は何故か哀しくなって、世界の狭間のカゴノボッチに声をかけました。


 カゴノボッチは目も開けずに手をひらつかせて、ひとつの生命を相手にしませんでした。


 やがてひとつの生命は小さくなってゆき、ひとり寂しく息絶えました。


 カゴノボッチは外が静まり返ったのを確認すると時空の扉を開けました。


 そこに在った全ては無くなって、カゴノボッチはひとつ小さく咲いました。



「やっと静かになった」



 カゴノボッチはふたつ咲うと、そこに小さな種を蒔きました。


 カゴノボッチがみっつ咲うと、そこに一面のお花畑が咲いだす。


 カゴノボッチがよっつ咲うと、太陽が咲い、いつつ咲うと風が咲った。


 カゴノボッチはそこに横になり、最後にむっつ咲うと永い眠りに就いた。


 そして、カゴノボッチの身体からたくさんの精霊たちが生まれた。


 精霊たちは一面のお花畑を見て喜び、顔を合わせて咲いあった。


 世界が咲いに満ちたのはそれが初めてだった。


     ─fin─

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