プラグマティズムと刹那

 田上は徹底的にプラグマティックである。それは部下からの相談に対する態度にも、景色に対する態度にも、告白に対する態度にも一貫している。田上目線の地の文では巧みな隠喩が随所で用いられているが、決して田上の人間性と矛盾するような回りくどいものでは無く作品としての完成度の高さを感じた。
 また基本的には刹那的な物に対して厳格な態度を取る田上であるが、時折そのような物に惹かれてしまう所も人間としての解像度を上げていた。グランドキャニオンに行っていたり、加賀さんの香りに惹かれていたり、告白終わりにブラインドを上げてみたり。このアンビバレントさを短編で表現できる所にも筆者の力量を感じる。
 最後に告白の暴力というと、異性に性的な目を向けられることに対する嫌悪感というありきたりなテーマがある中で、そのプラグマティックな側面に目を向けた所も好感が持てた。異性に好意を向けられた経験が少ない僕はいずれの感情も正確に捉えることはできないが、まだ後者の方が理解出来る気がする。
 最近フォロー致しましたが、次回作も楽しみにしております。