第25話 エピローグ②

 数日後、テレビでは「大資産家の子息 遺体で発見」というニュースが報道されていた。

 死因は感電死だったそうだ。

 その子息の遺体の近くには、数十人もの女性の遺体が入った棺が並べられていたという。なぜか女性たちは赤いドレス姿で。


「謎が多いですし、なんだか不気味なニュースですね!」

 

 タレントのコメンテーターがそう言ったのを聞いて、私はテレビを消した。


 トウコから託されたUSBは、匿名で新聞社に送っておいた。花嫁ゲームという名のデスゲームが開催されていたという新事実は、近いうちに明らかになるはずだ。


 報道通りならば、死んでしまったモナークさまのことを考える。彼はどうして私に指輪を渡したのだろう。わからないことばかりだ。

 モナークさまが死んだのは数日前らしい。その日の午後3時は、ちょうど叔父さんが私のアパートにやってきた時間だ。そのときに、私の指からミノリの指輪を外してハンカチの上に置いた。


「まさか……」


 指輪自体に何か仕掛けがあったの?

 私が一つの悲しい結論を導き出すと、探偵事務所の玄関のベルが鳴った。扉を開けると、そこには依頼人の西野ツカサがいた。

 花嫁ゲームに関する報告がまとまったので、立ち寄るように頼んでいたのだ。

 

「こんにちは」

 

 西野さんは穏やかな声で言った。しかし、その目は赤く腫れている。

「こんにちは」と私は答えた。

 

 そして彼を中へ案内する。彼はソファに腰掛けたあと、ゆっくりと口を開いた。

 

「無理を言って、調査をお願いしてすみませんでした」

 

 西野さんはそう言って深く頭を下げた。私は「引き受けた仕事ですから」と言って、彼の前にコーヒーを置く。そして向かい側のソファに座った。すると西野さんは言った。

 

「だけど、貴方に依頼したおかげで、ようやく気持ちの整理ができました」

 

 西野さんはそう言ってコーヒーを口に含んだ。

 それから私たちの間に沈黙が流れる。

 

「ナギサさんが死んだ理由ですが……」

 

 私は意を決して口を開いた。

 

「私たちは花嫁ゲームという名のデスゲームに強制参加させられました」

「デスゲーム?」と西野さんは聞き返した。私は頷く。

「はい。そこでは負けたら死が待っているんです」

 

 私が説明すると、西野さんは「それは怖いですね」と言った。

 

「でも、私は運良く生き延びることができました」

 

 私がそう言うと、西野さんの表情が曇った。そして彼は言った。

 

「ナギサは……そのデスゲームで命を落としたんですね」と。

 

 私は小さく頷く。すると彼は両手で顔を覆ってしまった。肩が震えているのがわかる。きっと泣いているのだろう……そう思ったけれど、私は何も言わなかった。

 しばらくすると西野さんは顔を上げた。その顔は涙で濡れていたけれど、どこか清々しい表情だった。

 

「ナギサは幸せだったと思いますか?」

 

 西野さんは私を見つめて言った。私は静かに首を横に振る。

 

「いえ。それはわかりません」

「そうですか……」

「ですが、ナギサさんは一生懸命頑張ったんだと思います。彼女はプレゼントゲームで絵を描いたらしいです。その絵が好みに合わないと殺されてしまいました」

 

 すると西野さんは少し驚いた顔をしてから、苦しそうな顔をした。そして私に尋ねる。

 

「その絵は……どこにあるんですか?」

 

 私はすぐに答えた。

 

「私が預かっています。三日前に匿名で私の自宅に届いたんです」

 

 すると西野さんは目を丸くした。そして少し考えるような素振りを見せてから言った。

 

「それを僕にいただけませんか?」と。私は少し迷ったけれど、承諾することにした。

「はい、いいですよ」

 

 すると西野さんは嬉しそうに微笑んだ。そして私に尋ねる。

 

「ナギサの描いた絵を見たいです」

 

 私は頷くと、隣の部屋から例の絵を取り出した。それはとても綺麗な風景画だったけれど、どこか物悲しさを感じさせるものだった。

 西野さんに渡すと、彼はじっとその絵を見つめた。それから私にこう言った。

 

「素敵な絵じゃないか! よく描けている。好みに合わないと殺されたのは悔しかっただろう……。僕はこの絵を部屋に飾りたいと思います。ナギサが生きた証なので」

 

 私は「それがいいと思います」と頷いた。

 

「ナギサさんはきっと喜んでいますよ」

 

 私がそう言うと、西野さんは嬉しそうに微笑んだ。そして私に言う。

 

「本当にありがとうございました。貴方のおかげで、僕は大切なことに気がつくことができました。復讐したいという気持ちに囚われていましたが、本当はナギサが生きた証を見つけたかったんだと……」

 

 彼はそう言うと、少しだけ微笑んで言った。


「僕は彼女の死を無駄にはしない。ナギサが生きたかった人生を、僕なりに歩んでいくつもりです」


 その言葉に私も笑みを返す。

 

「きっとナギサさんも喜びますよ。花嫁ゲームの黒幕もじきに捕まるはずですから」

「黒幕?」

「ええ……ナギサさんを殺した彼の両親です」

 

 西野さんは「そうだったんですか……」と呟いたあと、彼は立ち上がり、私に頭を下げるとこう言った。

 

「ありがとうございました」

 

 私も立ち上がって頭を下げると、彼に向かって言った。

 

「こちらこそありがとうございました」

 

 すると西野さんはまた微笑んだ。その笑顔はどこか吹っ切れたような清々しさがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花嫁ゲーム 八木愛里 @eriyagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ