第24話 エピローグ①

 あのホテルからどうやって逃げたのか覚えていない。気がついたら自分の部屋に帰ってきていた。

 そして私は泣いた。声を上げて泣いた。

 花嫁候補の仲間たちが殺されたこと、モナークさまが人殺しであること、そして、そのモナークさまに命を助けられたこと……いろんなことが頭の中でぐちゃぐちゃになって、涙が止まらなかった。

 

「ううっ……」

 

 私は声を押し殺して泣くことしかできなかった。その間も頭の中では花嫁ゲームに挑んだことや、ミノリのことがぐるぐると回っていた。

 ひとしきり泣いてようやく落ち着いた頃、私の部屋のチャイムが鳴った。誰だろうと思って扉を開けると、そこには叔父さんがいた。驚いて固まっている私に彼は言った。

 

「アカネが苦しんでいるんじゃないかと心配で来たんだ」

「……どうして?」

「昨日は身も心もボロボロだっただろう。その様子を見ていれば、心配にもなるさ」

 

 叔父さんは優しく微笑んだ。

 そうだ。昨日のことを思い出した。ホテルから逃げた私はタクシーを拾って叔父さんの仕事場を目指したのだ。

 

「蒼介さん、心配かけてごめんなさい」

 

 私は素直に謝ると、叔父さんは首を横に振った。

 

「謝らなくていい。アカネは何も悪くないんだから」

 

 そして彼は私の頭をポンッと撫でた。

 

「……っ!」

 

 私は思わず後ずさりする。すると叔父さんは驚いたような顔をしたあと「すまない」と言った。

 

「アカネが嫌ならもうしないから」

 

 そう言って彼は手を引いた。私は慌てて首を横に振ると、彼に向かってこう言った。

 

「違うの……その、ちょっとびっくりしちゃって」

 

 すると叔父さんは安心したように笑った。

 

「よかった」

「あの、中に入って話そう?」

 

 私が提案すると、彼は遠慮気味に「いいのか?」と聞いてきた。私は頷く。

 

「うん。蒼介さんには聞いてもらいたい話だから」

 

 そして私たちは部屋の中に入った。

 叔父さんはソファに腰掛けると、私に尋ねた。

 

「それで、アカネは何を悩んでいるんだ?」

 

 私は少し考えたあと、ゆっくりと口を開いた。

 

「私ね、実は……」

 

 そして私は全てを打ち明けた。ミノリがモナークさまで、ミノリから庇って助けられたこと……全部だ。すると叔父さんは驚いたような顔をしたけれど、すぐに真剣な顔になって考え込んだ。

 

「でも、アカネが無事でよかったよ」

 

 彼は優しい口調でそう言った。私は小さく頷く。

 

「……うん」

 

 それから沈黙が続いた後、叔父さんは私に向かってこう言った。

 

「俺にできることはある?」

「……そうだ。蒼介さんの唐揚げが食べたい!」


 私がそう言うと、彼は一瞬キョトンとしてからククッと笑った。

 

「アカネは本当に唐揚げが好きなんだな」

 

「うん!」と私は笑顔で答える。すると叔父さんも笑顔になって言った。

 

「じゃあ今度作ってあげようか」

「やった!」

 

 私はガッツポーズをする。そんな私を見て叔父さんはまた笑った。

 

「……あれ?」

 

 と、叔父さんが呟いた。

「どうかした?」と私が尋ねると、彼は「その指輪……」と私の右手を指さした。

 

 言われてから初めて、自分の右手に指輪がはまっていることに気づいた。

 シルバーの分厚い指輪。

 こんなに存在感がある指輪なのに気づかなかったとは……。

 

「花嫁ゲームの指輪だ……」

 

 モナークさまと二人きりになった時に、彼に指輪を外されたはず。それがどうして今、私の指にあるの?

 指先で指輪に触れると、呆気なくするりと抜けた。そして指輪の内側に書かれている文字を読む。

 

「ミノリ……?」

 

 思わず呟くと、叔父さんも覗き込んできた。

 

「これはアカネじゃなくて、ミノリという女性のものということ?」

「たぶん」

 

 私が頷くと、叔父さんは「そうか」とだけ言った。

 

「でも、どうしてミノリの指輪が私の指にあるの……?」

 

 私は考え込む。すると叔父さんが口を開いた。

 

「モナークさまがアカネの指にはめたとか……かな」

「モナークさまが?」

 

 私が首を傾げると、叔父さんはハッとした顔をした。そして「……忘れてくれ」と慌てて言う。

 

「アカネが混乱するだけだ」

 

 彼はそう言うと、私の頭を撫でた。私は撫でられながら考える。モナークさまはなぜ私の指にミノリの指輪をはめたんだろう。指輪を交換したかっただけ? そんなまさか……。


 モナークさまの意図がわからない。私はハンカチを取り出して、その上に指輪をそっと置いた。

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