3分ですべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れのすべてを蹲踞スクワットに捧げるバッファローの群れに変える催眠
ヒトオカハレ
オラッ! 催眠!
勇者には3分以内にやらなければならないことがあった。
ファックである。勇者は聖女をファックしなければならない。
勇者の仲間は、(騎士曰く)聖女、騎士、クソッタレゴミクズ学者、それから田舎の有力者である種衝流雄太郎牙(たねつけるおすだろうが)の4人パーティーだ。
「残念ながら三分です……もう180分の9が経過しました」
9秒って言えよ。ファック(煽ってるん)です。体感時間が大幅にその勢いを減じ始めた。下手に9秒と設定してしまったせいで、このままでは本題の先っぽに入る(ファックだけに)前に三分が経過しそうになったからである。とにかく3分は停滞する。そのゆっくりさといえば、出勤時間直前にまで急いで準備し、終わったところでよくよく時計を見たら(あと3分くらい余裕があるな……)という感じの3分である。
栄えある勇者パーティーの末席を汚す騎士──は、突然舞い込んだ【急募】勇者の種付け依頼【3分以内】に追われていた。
「しかし、3分で終わるものなのか?」
「愚問(ファック)です。勇者のファックは雑魚ファックなので一分以内にファック終了です」
知りたくなかったぞ。ピカピカ視界をファックする不定形の精霊はファックな依頼の依頼主。このままだと世界はファックな全てを破壊するバッファローの群れにファックされる──騎士に対してそんな荒唐無稽な脅迫を行ったのだ。
「このままだと、次代の英雄が勇者の血をファックしていないことがバレ、全てを破壊しながら突き進むバッファローのような民衆たちにファックされます」
「……確かに悲劇ではある。しかし、世界が滅ぶようなことか?」
「その後、なんやかんや沸いてきた本物のすべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れにファックされます。国ごと」
「……貴様、精霊の立場を盾に適当吹いているわけではあるまいな?」
勝手にバッファローを悪役に仕立上げおって、格好いいんだぞ。我々の紋章のモチーフだし。
「本当ですよ。確かに無理やりこちらに来たせいで、言語AIはファックされ、メモリーはバッファローの群れに轢かれたみたくファックですが」
さて、上の口に比べてこちらは正直だなという言葉もあるように、彼らはいよいよファック目標地点にまでやって来た。 卑猥な雰囲気漂うワックスがかかった扉ファックを誘うルックスである。騎士は迷うことなくその扉を蹴破る。蹴破──った先には!
「フッ! フッ!」
大いに息を荒げ、身体を汗ばませながら、
ムワッとした熱気と共に腰を上下させる──
──スクワットもじゃもじゃダボダボ無ムチムチ白衣セーターロリ学者の姿が!
「アホアホサイエンティストが必死に腰振ってるではないか」
ウケる。どうやら催眠(ファック)されているようですねとは精霊の言。
「思い出します。私の母もこのようにファックを繰り返していました」
「大丈夫か? 貴様もファックされてない?」
しかし、こんな催眠されるとか虫並みの脳みそか~? と騎士は学者の目の前で、トンボを捕まえるように指をくるくると回す。
「ファック! まさか蹲踞スクワット催眠をかけられてしまうとは!」
「うわ、喋った」
口だけ自由な過積載学者によれば、聖女と会話中に突然タネツケル氏がやってきて、聖女にファックをせがんだらしい。ロリは趣味ではないとも呟いていたそうだ。
「なんだ、普通のことではないか」と、騎士。
「ファック(尋常ではない)です! 突然ファックに及ぼうとするなどとは!」
「貴様私に何させようとしているか忘れたか? しかし、ロリに手を出さないとは……タネツケル氏はやはり気品高い」
「ファック! 今まさに聖女様がファックされようとしている!」と早くも言語野が汚染されつつある科学者。
「はっ? タネツケル氏はそんな事しないが?」
言いながら騎士は蹲踞スクワットを始める。
「ファック(洗脳)されてます! 正気をファックしてください!」
「はっ? これは我らが女神に捧げる正式な最敬礼だが?」
真面目腐った顔から繰り出される高速蹲踞スクワット。
「尊厳をファックされているんじゃない!」
もういい! 尊厳破壊なんぞどうでもいいから、早く聖女の膜破壊を止めてくれ!
追い出されたがに股騎士とファッキン聖霊は急いで聖女の部屋へ。フワフワ急ぐ聖霊の後ろを、おお。すごい筋力だ。階段を下りるばねの玩具みたいな動きで、騎士は追いかける。
「いや、いい加減蹲踞ファックしてください!」
「はっ? これは我が騎士団の正式な歩法だが?」
それはさすがに催眠だと分かりますファック! と足払いを喰らって騎士は悶絶。やがて二三度床を無様に転がったのち、尊厳を取り戻したような顔をして走り始める。
そして騎士たちはたどり着く。ファック寸前のファックな騎士にファックされる前の扉を騎士がファックしてぶち破る。湿った木を破る音とともに眼前に飛び込んできた光景は──。
「フッ! フグッ!」
「フーッ! フーッ!」
「ンーッ! ンーッ!」
泣きながら蹲踞スクワットを繰り返す勇者をはるかに超えた下半身──くり出される様はまるでしなやかな鞭のような、それでいてしっかりと地面を踏みしめ、加速していくこと思い起こさせる──二本の前足。そこから続くしっかりとした胴体に屈強な後ろ足。上にくっついているのは中年男性のような見るに堪えない弛んだお腹。それから中年男性。そんな生物に聖女は組み敷かれていた。
「ファック! タネツケル氏は催眠ケンタウロスだったのですか!」
「いや、あれは──」騎士は神妙な面持ちで言葉を切った。そして、何度か瞬きをすると「バッファローだ」
「タネツケル氏の下半身はバッファローだ」深刻な顔で騎士は言った。
これには精霊もちょっと考えたが、「いや、ファックです! そんなことよりもファックを止めないと──」
「分からないのか? 下半身がバッファローなんだぞ?」
騎士は精霊を見つめた。
そうなのである。そもそもバッファローとはウシ科に属するスイギュウ、あるいはバイソンを指した動物のことを言う。
対して、ケンタウロスとは上半身が人間で下半身が馬の種族を指しており、その語源としては牛殺し、あるいは牡牛を駆け集める者ではないかと伝えられている。
「つまり下半身がバッファローのケンタウロスとは、大いなる矛盾を孕んだ存在であるということだ」
「……………」「今メモリーをファックしたところ、ケンタウロスの語源には、刺し貫く牡牛という意見もあるようなのですが」
その場合、矛盾どころか。今の状況にぴったりなのでは?
「何……フフッ、そうなのか」
と、かぶりを振って、微笑んだ騎士は蹲踞スクワット。ンーッ! ンーッ! 聖女の悲鳴のリズムで上下に動く。
「いや、催眠で誤魔化しファックしないで下さい!」精霊がピカピカ荒ぶる。「そもそも今状況、勇者がファック(催眠)されていることは明確! さっさと聖女のファックを防いで、タネツケル氏をファック──」
「勇者は、」激しいスクワットで騎士の額から汗が垂れる。水滴の軌跡を辿ってみれば、その顔は神秘的なまでに整っていた。「スクワットのために二人の情事を覗いているだけなのでは?」
「そんなわけないでしょう!」と急かす精霊を騎士は遮る。
「性的興奮は、ホルモンの分泌を促す作用がある。男性ホルモンならば、筋トレには最適だ」騎士は、蹲踞スクワットを繰り返している。積み上げられた筋肉は、女性らしく姦惑的な肢体を痛烈なまでに強調している。「つまり勇者は、筋トレのために性的興奮を喚起してくれと──」
「性的って自分で認めてんだろファック!」「どうでもいいこと言ってないでファックをファック!」
と言い争っている声を聞き咎めた、タネツケル氏──一つの矛盾したバッファローケンタウロスががぬらりと視線を声の方に向ける。そしてバッファローの下半身を騎士の方に向けると、抱えた興奮のままに強く吠えた。
「フィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
鼓膜をつんざく高い音は、曇った眼に比べて何処か透き通っている。それは、一面の草原を思い起こさせるような音であり、草を巻き上げて空に舞い上がって、世界を突き抜けていく。
相対する騎士は蹲踞スクワット。
「いやファック! 早くファックしてください!」
精霊が言い終わるよりも前に、バッファローケンタウロスは、後ろ足に力を溜めて、今にも騎士に飛び掛からんとする。
騎士は蹲踞スクワット。
そして、かつての大陸の主、バッファロー。その力を、一個の存在に存分に叩きつけんと、溜め込んだ緊張を一気に解き放ち、世界を彼方まで走破せんとする勢いで、騎士に対して猛烈なチャージ(突撃)を行い──。
「オラッ! さいみ「蹴りッ!」」
延髄を蹴られた巨体が崩れ落ちる。何のことはない。騎士の下半身は蹲踞スクワットにより鍛えられていたのだ。その屈強さは、バッファローの速度による催眠を遥かに凌駕するものであり、四足の突撃にカウンターを取れるほどの領域にまで仕上がっていたのだった。
「フィイイイ」
一撃で大打撃を受けたバッファローケンタウロスが、それでもふらふらと立ち上がる、目の前の障害を何としてでも取り除かんと、強い意志を纏ったままで、戦闘態勢を解かない。その力の源は、もちろん、バッファローによるもの──ではない。曇った眼からはどこか縋りつような感情が漏れつつある。
「オラッ さ、い、み」
先ほどの速度には及ぶべくもない速さで放たれた催眠は、あっさりと見切られ──。油で光る中年の顔の前に騎士の指が突き出された。そしてその指がクルクルと回る。優しく、まるで子供をあやすように。
「催眠解除」
回る指と声に安心したような表情を浮かぶ。先ほどまでの欲望と狂乱の影はすっかり鳴りを潜めていた。
崩れ落ちそうなバッファローケンタウロスを、騎士は優しく抱きしめるように支える。そのままバッファローケンタウロスは身を床に横たえた。
「ファック! やりましたね!」「一時はどうなることかと思いましたが──」
「バッファローケンタウロス、全く矛盾した存在よなあ」
喜ぶ精霊を横目に、騎士はさっきまでとは違う声で辺りに語り掛け始めた。
「牛殺し、牛追い──刺し貫く牡牛、牡牛なあ。なるほどケンタウロスという種族すらもこの娘には矛盾している」「矛盾した名前は神に近いほど実体に不安定な影響を及ぼす」「高貴で誰もが目を奪われるはずの存在が、醜悪で皆に蔑まれるほどに」
それが二重ならば、猶更。そのようなものを利用しようとは、決して許されぬ悪徳ではないかな。
──なあ、勇者。
「え……」
精霊がたじろぐ先に、勇者はいた。もうスクワットはやめている。端正な顔に憤怒と嘆きに染めて立っている。
ただその身体は変化を始めていた。筋肉を帯びた力強い上半身はどこか丸み帯びたものに変わり、それを支える鍛え上げられた太い下半身は、尻と太ももにだけその名残を残している。
同時に、バッファローケンタウロスもまた、その様相を大きく変化させていた。弛んで垂れていた上半身を中心に、頬にだけ僅かにその柔らかさを残す端正な頭から、メリハリの利いた、筋肉と脂肪が織りなす、女性的魅力のパッチワークへと。
コツコツ、と騎士が歩く。その神秘的な存在感を全開にして、周囲を威圧するように。
「雄太郎牙。オスダロウガ……ふふ、ひどい名前だ。まるで、男であることを無理矢理強要するような──」
まあ、事実。そうなのだが。呟くと同時に、切り裂くような絶対零度の視線が勇者に浴びせられる。何とか敵意を示そうと躍起になっていた勇者は、それだけで凍り付いたように動けなくなった。
「ファック、なにがどうファックして──「人間の父に攫われ、かくあれかしと名付けられた、半神半人の娘」
状況が呑み込めていない精霊に、からかうような視線だけを寄越して続ける。
「人は彼女に臨む、私もそうありたいと、神たる彼女は答える、かくあれかしと。しかし、人たる彼女は受け入れきれない。望みを叶えし者たちも、内実を伴わないことに耐えられない」
なあ、勇者。
「結ばれるだけで良かったではないか。何故望んでしまうのか」
勇者は、やっとのことで剣を抜く。歯を噛み締めて、目の前の存在を断ち切らんと決める。心を奮い立たせ、心の裏に罪悪感を見つけ、それすらねじ伏せて撃ちかからんとして──
「もうやめろ、勇者」
もう、これでは、お前の望みは叶わないよ。
扉に立っている、科学者に止められた。
「フフフ、殊勝なことだな、腐れ賢者?」
あんなちゃちな催眠までかけられていたのに。騎士は、空間を支配するような神聖さを消した。打って変わって揶揄うような、あざ笑うような気安い笑みを浮かべる。
「先ほどはありがとうございました。風と戦いの女神にして、草原のバッファローたちの王よ。私は自由になることが出来ました」
「音も風も、もとは私、勝手に惑うのは貴様らだ」
娘には随分歪んだ形で顕現したようだが──哀れむような視線をケンタウロスに向ける。
と、ここで。3分が経過した。
「ファック! 3分経過3分経過! 機能停止します! 私は役割を果たしました!」
ピカピカ光るファック精霊は、一際大きく瞬くと、地面に転がって動かなくなった。
「ああ、停まってしまったか。もう聞こえないかもしれないけれど、種明かしだけしておいてあげよう」
まず、勇者と聖女は女性だった。残念ながら、現在の法令は女性同士の結婚を認めていない。二人は隠居して誰も知らない地で暮らそうかと考えたが、民を守らんとの義務感のもと、TSの権能に手を出した──。タネツケル氏、この娘のことだね。
力は本物で、勇者は奇跡、男へと変わったのだけれど。今度は周囲が彼女たちにもっとを望み始めた。曰く子供が欲しい。世継ぎがいるとね。残念ながらこの力は生殖能力を持たせることが出来ない。しかし、周囲は止まらない。聖女のことを中傷し始めた。
追いつめられる彼女たちは再び奇跡を望もうと、タネツケル氏に願ったが、結果はこの通り。我々は仲良くファック蹲踞スクワット。聖女様は暴走したタネツケル氏にファックされかけ──。
と、こういう経緯なわけだ。うわあ絶望の未来。
ただ、知っておかなければならないことがある。
「しかし、なぜ女神様は今になって顕現なされたのですか?」
「精霊から、わが子の気配がした」
我が愛しき娘は、忌まわしきわが夫によって完全に隠匿されていた。なればこそ娘の気配を漂わせこの世に顕現したこれ、は。娘の唯一の手掛かりだったのだ。
今はもう動かない未来のわが子。AI精霊を見ながら、学者は思う。
おそらく、彼女が介入しなかった未来は、ケンタウロスと聖女の子が生まれていたのだろう。4分の一は神の血、その子は頭角を現すが、ついには排斥されるようになり、人々の手によって秘密を暴かれた上で排除される。
女神さまは2代にわたって自分の子らが人々によって凌辱されたことに怒り、すべてを破壊しながら突き進むファックなバッファローの群れを嗾けて、人類を滅ぼそうとしたのだろう。
その間中私は蹲踞スクワット! うーんこれは人類が悪い!
「さて、」女神が再び超然とした雰囲気を纏って、蹲踞スクワットを始める。
「そろそろ咎人共を裁かねば──」スクワットせよ! スクワットせよ!
止まらない。蹲踞スクワットが止まらない。
「あれ、なんだ、これ、そういえば、なぜ私はこんな動きを──」
スクワットせよ! スクワットせよ! 蹲踞スクワットせよ! あなたのすべては蹲踞スクワットのためにある! すべてをスクワットに捧げなさい!
「ホン?!!!ギョ♪!!!!」
女神から各バッファローたちへ。これから諸君らの全てを破壊する力は、すべて、蹲踞スクワットのために使うように。以上!
スクワットせよ! スクワットせよ!
女神は蹲踞スクワットしてる。バッファローケンタウロスも。怯えている二人、勇者と聖女は何が起きているのかと顔を見合わせる。学者はただ静かに蹲踞スクワットを繰り返す女神を見つめた。
「孫、子が復讐のためなら親は何でもする──、私もそう思いますよ」
同じように親に愛された子も、何としても復讐しようとするでしょう。自分の身を顧みることもないくらいには。
初めからあの子の任務は、この日、この時間に女神をここにおびき寄せることだった。超然とした規格外の情報生命体に、未来から大量の汚染情報を流し込むことが任務の目的だったのだ。
しかし、あの子が此処に来た時点であの子の未来とこの世界の未来は繋がらない。分岐してしまったのであれば、ここで女神を汚染したところで、あの子の未来に影響があるとは思えない。
おそらく、あの子の未来で人類は滅んだのだ。
もはやあの子しかいない世界において、あの子の大本は過去のすべての女神に復讐しようと、過去を改変し続けている。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れにすべての親を破壊された復讐として、バッファローのすべてを、蹲踞スクワットに作り替えながら突き進もうとしているのだ。
(ただ────)
この世界の女神は私の催眠を解いてくれたな。もしかしたら、世界ごとに女神に差異があって、この世界の女神は特別優しい女神だったのかもしれない。
そんなことを、蹲踞スクワットを繰り返す女神、元騎士の姿を見ながら考える。
(しかし、)
「いい身体してるなあ、ファックファック」
手の中の精霊の残骸を、学者は丁寧に撫でてやった。
「グッド・ファック」
3分ですべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れのすべてを蹲踞スクワットに捧げるバッファローの群れに変える催眠 ヒトオカハレ @NAKAMOTO_777
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