第二夜 4 ミレニア、そもそもダンジョンを知らない
「さて、では早速、ダンジョン探索に挑みましょう!」
「はぁ、それで、ダンジョンってどこにあるんだ。そんなすぐ行けるような場所にあるのか?」
「それなのですが、ノアさん、まず教えていただきたいことがあります」
「なんかまた嫌な予感がするけど、なんだ?」
「ダンジョンはどこにあるのでしょうか?」
「えぇ……」
行きましょうと言っておきながら、場所わからないのかよ
「そこで先ほども申し上げたことなのですが、案内されるのは、ノアさんじゃなくて、むしろ私なのではないか、と」
「その先ほどの発言に対しても言ったけどちょっと何言ってるのかよくわからない。
というか、もしかしてひょっとしてだが、ダンジョンって何か分かってる?」
「そう!そこなのです!」
ミレニアは胸を張って宣言する。
「私、そもそもダンジョンが何かもあまり分かっておりません!」
「えぇ……」
ぶっちゃけやがった。
「というか、ダンジョンが何か以前に、場所なんて知るわけないじゃないか。この世界には昨夜迷い込んだばかりなんだから」
ここは住み慣れた京都だが現実と同じではないし、ダンジョンなんてイレギュラーなものがどこにあるかなんて知るはずがない。以前からここにいるというミレニアが自分に案内を請うと言うのは、現地人が外国人観光客に道を尋ねるくらいおかしいことじゃないか。
「もちろん、ノアさんがすでにダンジョンの場所までご存知とは思っておりません。ですが、ノアさんのお知恵を拝借すれば、特定は可能かもしれないと考えたのです」
「特定って、どうやって」
「ここは夢の世界。そして、この鴨川は多くの人の記憶や意思が集まるパワースポットなのです。昨日ご紹介した、あちらのガチャガチャ屋さんのように」
ミレニアは川沿いの少し離れたところに見える、ガチャ屋を指差す。昨日と同様、無駄に煌めく照明は距離があっても目にチラつく。今日も絶賛営業中という感じだ。客が見当たらないけど。
「あれのように、この京都で眠る多くの人に共通する記憶は、この鴨川付近で具現化する傾向にあります。そして、商売のイメージやガチャガチャが出る演出と結びついて、町屋と納涼床があのようなものに変化したのです。
ですから、もしダンジョンといったものに関しても、多くの人たちに共通したイメージが存在し、それと結びつきやすいものがこの付近にあるのなら、そこがダンジョンとなるはずなのです」
うーん、言ってることはわかるけど、相変わらず理解し難い話だ。
「私はこれまでダンジョンと呼ばれるものがどこかにあるのかもとは思っても、手掛かりとなる情報がありませんでした。そこでノアさんの力をお借りしたい、ということです。もし『ダンジョンとはよくこういった場所に存在する』といった傾向をご存知であれば教えて頂きたいのです」
なるほどなぁ、“こんな場所にありがち”といった場所を探せば本当に見つかる可能性がある、ということか。
「そうだなぁ、大きな屋敷の地下とか、山の麓の洞窟とか、密林の奥とか、滝の裏とか、そんな感じじゃないのか」
適当にいくつか挙げてみた。まぁ適当にすぐ思いつくものこそが“ありがち”なことかもしれないのでそれでいいのだろう。
「なるほど、屋敷の地下、山の麓、密林、滝……ですか。その中でこの鴨川付近に存在するものを考えると……わかりました!! 早速参りましょう」
「えぇ、今の意見で良かったの?」
というか、どこに行くつもりなんだ。今挙げた候補、碌でもない場所しかないんだが……。
といっても、ダンジョンに行くという行為自体が碌でもないことか。
そう諦め、ご機嫌で杖を振って何処かへと歩み始めたミレニアの後をついて行くのだった。
魔女は黎明に解釈違いの夢をみる 葉桜ヘム @hem_hazakura
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