第2話 運命との再開②

 日を刻んで、今日も夕陽が青空を覆い始めた。放課後、今日は寝過ごさず校舎の外れにある小さなグラウンドへ。


「おーっす!」

「お疲れ様〜」


 親友かつ幼馴染・湯尾日々花ゆおひびかと共に、グラウンド脇プレハブ小屋の扉を開け放つ。


「おつー」

「お疲れー」

「お疲れ様でーす」


部活を始める16時の段階で揃うのは、大体私達5人だけ。


雪乃ゆきのめぐみは?」

「知らんし。生徒会じゃね?」

千冬ちふゆは……」

「さぁ」

「あの3人が来ないのはいつもの事っすよー」

「だねー」


 派手派手しい金髪ギャル御田浦優美子みたうらゆみこは、机に足を置いてスマホをいじり、溜息と共に言葉を吐く。


語尾に敬語が混じる首藤すどうあやも同じように深息し、眼鏡を拭きながら京内寿美礼けいないすみれは同意する。


 ……これが興治おきはる高校男女混合野球部の日常だ。だが、もうそうはいかない。他の3人にはラインをするとして、ここにいるメンバーにだけでも伝えなければ。



「ちゅうもーく! 皆の衆、連絡があるぞーっ!」

「「……」」


無視。連絡よりスマホか。悲しい。だけど私負けない!


「今週日曜9時! 試合を組んでもらった! 勝てなきゃ廃部が決まっちゃう! みんな、この試合絶対勝つぞぉ!」

「……」

「……へー」

「あれ。みんな焦ったりしないのかー?」

「別に。てか相手どこ? 日々花」

「う、ウチの硬式野球部とソフト部の合同選抜チーム……だね」

「はっ、勝てるわけないじゃん」

「こりゃ廃部だねー、お疲れ」

「てかメンバー居ないのにどうやって試合するっすか?」

「うぐ……そ、それは! 私があと1人集めて来るから! さあみんな! グラウンドに出ろーっ!」

「先やっといてー、ライン返したら行くから」

「……」


 ……結局、その有様である。


と言うのも、我ら男女混合野球部はその名の通り男と女が同じチームに所属し野球をする。


大会に出るには、男子が最低でも1人は必須。しかしその担い手が居らず試合も出来ず、いつしかチームは崩壊してしまったのだ。


私もキャプテンとして奔走したものの、門前払いと無視の繰り返し……上級生にお願いする勇気など無く、あえなく敗走となったのである。



「うう……私の存在って……」

「ま、まあまあ。みんな練習するって言うし、先に始めてよ? ね?」

「うん……」


 ……と、日々花と2人で始めるのもまたお決まりである。


「今日はどうしよっか」

「最近あんまりボール投げてなかったしてなかったし、今日投げて良い?」

「オッケー」


 日々花はこうして、私と一緒に練習をしてくれる。チームメイトのやる気すら管理できない私は主将キャプテンとして情けない限りだが、その存在は私にとって大きな支えだ。


共に切磋琢磨し合える仲間。中学の時は出来なかった野球を謳歌する。それが、何より楽しい。


 ……でも。やっぱりやるなら、試合がやりたい。


夢の甲子園に行けなくても、挑戦したいんだ。


「っん!!」

「っと。やっぱ速いね、朝霞の球」

「ははは、今日は調子が良くて」


 ふと、プレハブ小屋を一瞥する。


「……優美子達、出て来ないなぁ」

「そうだね」

「このままじゃダメだ。……やっぱりあと1人。あと1人」

「だね……私も手伝うよ」

「ありがと〜日々花〜!」

「わわ。取り敢えず今は練習練習。バッティング練習しよ?」

「オッケー!」


 私は1人じゃない。仲間が居る。あいつだって頑張ってる。私も負けてられない。あいつが甲子園に行くなら、私だって。


「ふぅ、ちょっと休憩……」

「気合い入ってるね」

「当然! 絶対勝つ!」

「……あ。そういえばさ朝霞ちゃん知ってる? 転校生来るって」

「転校生? この時期に?」

「うん。どんな子かは分からないけど、もし男の子だったら部に勧誘できないかな」

「それだぁ! さすが日々花! よぉし、男子だったら絶対に入部させるぞぉ!」

「ははは。怖がらせないようにね……」


 光明が差し込んだ。何も無い場所に希望が舞い込んだ。


それだけで頑張れる。絶望の後には希望が待つ——受け売りだけど。


とにかくやれるだけの事を全部やろう。その場凌ぎになっても、甲子園に行きたいから。頑張っていれば必ず報われる。



 ……この時、私は知らなかった。


運命の歯車が、大きく動き出していた事に——。


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球児と球女 〜The hope of No.1〜 真洋 透水 @hideto0245

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