ジャンキージャッカー! 〜食べ物能力バトル旋風!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

ジャンキージャッカー! 〜食べ物能力バトル旋風!〜

 目の前のこのヒョロガリキノコヘッドヤンキー能力者ジャンキーには三分以内にやらなければならないことがあった。

 つまり、俺の能力の発動条件を満たす前に、俺を倒さなければならないということ。


「――やれるもんなら、だけどなっ♪」


 右手にぶら下げた電気ポットを、振り上げる。

 それでキノコヘッド野郎の攻撃、つまりアスファルトについた両手からわき上がるように出現した小麦色の犬、それが飛びかかってきたのをぶちのめして、無効化した。

 もちろんその一連の動きで、左手に持ったカップ麺からはお湯の一滴だってこぼしたりはしていない。


 能力者ジャンキーとしての、俺の能力ジャンク

 それはカップ麺を食べることで、ものすごいパワーを得る能力。


「――だからあんたさ、このカップ麺が完成する前に即仕掛ければ、勝てると思ったんだろ?

 なんで考えなかったかなあ、『その能力の持ち主が、そんな見え見えの弱点を対策してないわけがない』って」


 見るからにうろたえた顔のキノコヘッドは、今度は横のブロック塀に手をついた。

 塀に沿って小麦色の影がにゅうっと伸びて、それは小麦色のサメの形になって、塀から浮き上がって俺にかじりつこうとしてきた。


「ま俺の場合、対策とかじゃないんだけどねー」


 バックステップ。

 ぎらぎら鋭い小麦色のサメの小麦色の牙は、俺の学ランをかすめるのにほんの数センチ足りない位置で、むなしく空気を咀嚼した。


「――単に、元からめちゃくちゃ強いだけ♪」


 電気ポットを振り下ろす。

 それでサメちゃんの脳天は脳震盪のうしんとうコースで、地面に叩き落とされて影に戻って消えていった。


「んで、どうするのー?」


 電気ポットの取っ手に小指一本だけを通して、それを鍵束みたいにくるんくると回してみせて、俺はキノコヘッドに歯を見せて笑いかけて、問いかけた。


「まだやって痛い目見る? おとなしく降参する?」


 キノコヘッドは目を見開いて奥歯を噛みしめて、切羽詰まった顔をしていた。変顔に片足突っ込んでる。

 その表情を無理やり笑顔にした感じで笑って、強がるみたいに声を上げた。


「は……ははは! オレの能力はこんなもんじゃないぜ!

『ビスケット』の絵柄が揃った! オレの勝ちだぜオラァァァ!!」


 キノコヘッドが両手を突き出し、握りしめる。そのての中で砕ける、ビスケット。

 犬の時もサメの時もそうだった。地面や塀についた手のひらで、ビスケットが砕けて小麦色の『動物』になった。

 ぞわぞわと動く、ビスケットのかけら。

 一瞬でそれらが膨れ上がって立体化して、この市街地の平凡な道路を埋め尽くす荒々しい群勢になった。

 迫ってくる。それは小麦色のバッファロー。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。左右のブロック塀にヒビが入る。


「あ、こりゃ無理だな」


 ただの電気ポットぶん回しでいなせる攻撃じゃないね。

 左手のカップ麺はまだ固い。三分経過にはほど遠い。

 バッファローの群れの向こうで、キノコヘッドの引きつりながらも勝ち誇る顔が見えた。


「――んじゃま、食っちゃうか♪」


 バッファローが、俺まで到達する寸前。

 左手のカップ麺を口につけて、ほぐれかけの固い麺を直接口に流し込んで、かっ食らった。

 ちらりと見えた、キノコヘッドのぽかんとした顔が、妙におかしかったな。


 光。

 俺の体が光ってる。

 あふれるなんかすごくすごいエネルギーが、バッファローの群れをなぎ倒していく。

 そうしてバッファローがかき消えて、すっきりとした前方の視界。

 腰が抜けたみたいに尻もちをついたキノコヘッドに、俺は歯を見せてへらへら笑ってやった。


「俺の能力は、カップ麺を食ったらものすごいパワーを得る能力。

 完成してなきゃパワーアップできないなんて、ひと言も言ってないんだなーこれが♪」


 あごが外れんじゃねーのってくらいあんぐりと口を開けたキノコヘッドを、俺はカップ麺パワーでぶちのめした。


「――さてと」


 振り返って、道の先を見た。

 道の向こうの突き当たり。高校の校舎が見える。

 そして始業時刻を告げるチャイムの音が、鳴り響いた。

 そして、声。


「ち、遅刻、に、なっちゃったね」


 声の方に目を向けた。

 自分で声をかけたくせに、びくりとふるえやがる。

 長い前髪でほとんど目を隠した、女子。胸の前で、飲むヨーグルトを両手で持ってる。

 こないだまでただ隣の席ってだけだった、そして今はなりゆきで共闘関係になった、能力者ジャンキー


 俺はにっと笑いかけて、言ってやった。


「ま、関係ねーよ。これから授業なんてやってらんねーくらい、バトルざんまいの一日が始まるんだし」


 食べごろにほぐれたカップ麺を、空きっ腹に流し込んで。

 ぺろりと舌なめずりをして、宣言するみたいに言ってやった。


「次のバトルは、朝飯前っていかねーくらい楽しいバトルになるといいな♪」

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