弁当箱の中に人が詰まっていた

過言

もはや境目もわからないくらいでした。

幽霊とか、信じてるつもりはなかったんですけどね。


だって今まで死んだ人が幽霊になるっていうんだったら、地球はとっくに幽霊で埋め尽くされてないとおかしいじゃないですか。


人類が何百万年生きて、いや何百万年死んでると思ってるんです。


それに、動物霊とか言って、犬やら猫やらが霊になって会いに来る話とか、狐狸が霊として祟る話だってあるじゃないですか。


もうぎゅうぎゅうなんじゃないかと思ってたんですよ。


ぎゅうぎゅうだったんですよね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


お葬式を終えて、お弁当をいただいたんです。


精進あげ、というらしいですね。法要を一通り終えて、精進料理から普段の食事に戻す、境目の料理。


刺身やエビフライ、ローストビーフなんかも入っていて、数日程度ですが肉を食べられなかった分、美味しく感じました。


自宅に戻ってから、そのお弁当を食べたはずだったんです。


食べ始める前ちらりと見えた、弁当箱の隅に置かれた塩の塊。


あれはきっと悪意をもってそこに盛ってあったんでしょう。


気にも留めていませんでした。私は迂闊にも、それを食べてしまった。体内に取り込んでしまった。


そのせいで、見えるようになったんです。


気付くと私は葬儀場に戻っていました。


最前列の椅子に座っていた。すぐ目の前に、もう火葬したはずの、故人の入った棺桶がありました。


棺桶の御扉は開いていました。顔が見えるようになっていたのです。


覗き込んだら何が起きるかわからない、という事は、頭では理解していました。


ですが、覗かずにはいられませんでした。


だって、棺桶の外の空間は全部、ぎゅうぎゅうに詰められていたから。


葬儀場の中は、私と椅子と棺桶が埋もれるくらいに、幽霊でいっぱいでした。


少しでも周りの幽霊から目を背けたかったのです。


覗いた棺桶の中には故人一人の魂だけが収まっていて。


なんて広々とした空間なんだろう、と思いました。


代わってくれないだろうか。


気付くと私は家にいました。


家の中を見回して。いえ、見回す必要すらありませんでした。目の前に、死んだ目死んだ口死んだ肌がぎゅうと詰まっていたから。


霊をかき分け、窓を開けて。


窓の外に広がっていた光景は、


葬儀場だけじゃなく、地球上のすべてがそうなんだな、と思って、私は半狂乱で家の中を探し回りました。


私だけの棺は。


霊の詰まっていない空間、箱はないのか。


布団の中は霊でいっぱいでした。


引き出しの中は霊でいっぱいでした。


本のページの間すら、埃のように霊が溜まっていました。


ゴミ箱。飲みかけのペットボトル。クローゼット。湯舟。


全部ぎゅうぎゅうに詰まっていました。


全て諦めて、リビングに戻ってくると。


そこには、弁当箱がひとつ、ありました。

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