異伝大江山・水破牛破の計

@kerak

“鬼よりもなお恐ろしき。其は「胡乱」とぞ人の云う”

時は平安、一条天皇の御代。


絶弐守(ぜっつーのかみ)・鏖売光(みなごろしのばいくおう)とその郎党は、

都を騒がす恐ろしい鬼の首領、「酒気帯び及び無免許運転童子(しゅきおびおよびむめんきょうんてんどうじ)」の討伐の任を受け、人知れず大江の山へと潜入していた。


彼らはそこで童子に家族を奪われたという3人の老人に出会った。

彼らが言うには、童子は鬼ヶ城という黒鉄で出来た堅牢な楼閣にこもって、外敵の襲撃に備えているという。

しかし、酒宴の客に対しては誰であれその門扉を開くという。


バイク王、もとい売光は言う。

「有難き助言をいただき感謝に堪えぬ。では我らは山に迷うた旅の修験者となって、彼奴らの宴に招かれるとしよう」

古老の言葉を受けた主の策に妙案じゃと郎党達は頷いたが、それも一時のこと。

「しかし、我らには酒の持参がないではないか」

「酒も肴も無しに酒宴に招かれようとは虫が良すぎよう」

「いよいよとなれば、我らの誰かが食われねばなるまいか」

などと揉め始め、ではジャンケンで誰がその役を負うか決めようという始末であった。


その時、古老の1人(右)はおもむろに何かを取り出した。

──それは、一つのひょうたんであった。


「案ずるには及びませぬじゃ。儂らが秘蔵の神酒を差し上げまする」

重ねての好意に売光は感謝の念を禁じ得ず、こう言った。

「あるならはよ出せ(重ねてのご助力痛み入る)」

「大将、逆です逆」


その酒はなんと、人が飲めばたちどころに力を増し、逆に鬼が飲めば四肢を萎えさせ昏倒必至というという奇妙神妙の酒であるという。

これさえあれば恐れるものは無いと意気揚々と鬼ヶ城へ向かおうとした売光であったが、古老はそれを引き止めた。

「まだなにかあるのかよ爺さん(まだなにかあるのかよ爺さん)」

「大将、せめて包み隠す努力はして?」


古老の1人(左)は聞かなかったふりをして何かを取り出した。

──それは、一つの兜であった。


厳しく赤々としたそれは、まるで誂えたように売光にピタリと合った。

「童子の生命力は尋常ではありませぬ。たとえ四肢が萎え、牙も角も砕けようと、たとえ首を落とそうとも飛びかかり、まるでジャ◯ク・ハンマーのような咬筋力でお侍様の頭に噛みつくでしょう。それをこの兜であれば必ずや防いでくれましょう」

売光は首だけになっても死にきらぬという鬼の凄まじい生命力を思い背筋が凍った。

それに、たとえダメージがなくても他人に噛みつかれるのとか普通に気持ち悪いので、売光はその兜を丁重に受けとり、背中の笈の中にしまった。


守りに関しても万全の備えを得た売光と郎党はさっきにも増して戦意十分な様子で互いに励まし合う。

「大将、涎がついたら自分で洗ってください」

「それこそジャンケンだろうが!」

「あ、命令とかじゃないんですね」


そして勇躍、鬼ヶ城へ向かおうという矢先。三度、古老は売光を呼び止めた。

まだ何か伝えたいことがあるのだろうか、売光は柔和な表情で古老に向き合い、声色優しく訊ねた。

「先にお前らをぶち◯すぞジジイ!!」

「もはや裏とか表とかでもないだろ」


そうして古老(中央)が取り出したもの、

──それは、一管の笛であった。


夜の深みを映したような美しい黒塗りに、さらに麗しい花の装飾をあしらったそれは、神が作り給うたのではと思うほどの存在感を持っていた。

売光はそれまでの己の無礼を恥じ、直ちに膝を地につけ、恭しく手を差し伸ばした。

「これまでの無礼をどうぞ平に御容赦願わしゅう存じます。 本田・山葉・鈴木、三社の御神が遣わされた方々でありましたか。身命を賭して、必ずやこの任を成し遂げまする」

神妙な売光にならって郎党達も口々に神の使いに礼をとった。

「おい川崎はどうしたんだよ」

「やっぱドゥカティだろ」

「『ば◯おん!!』2期まだ?」

「『スーパ◯カブ』まだ見てねぇわ。アマ◯ラあるっけ?」


そうして、神々の使いから笛を受け取った売光は、総身に力が漲るのを感じた。

「おぉ、これこそ神の御業……手にするだけでこれとは、吹けば如何なる加護が得られることやら……」

その疑問に古老は口を揃えて答えた。



「「「『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』を召喚することが出来ますじゃ」」」

「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」





売光はその笛を鬼ヶ城を見下ろす崖より、高らかに吹き鳴らした。

幾千幾万のバッファローの群れは、谷をまるで濁流のように疾走する。

木々をなぎ倒し、厳を砕き散らしながら。

そして、ぎらぎらと輝く、鬼どもが根城とする禍々しい黒鉄の御殿もまた、まるで口の中のオレオのように粉々になりながら押し流されて、そうして見えなくなった。


売光と郎党はそれを見届けて、都への帰路につく。 近くにレンタル自転車のポートがあったので借りて帰った。

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