そして彼は王になった
秋犬
そして彼は王になった
時空監査局のシノスとロードには三分以内にやらなければならないことがあった。
「さて、予定時刻まであと三分。とっととズラかるぞ」
「でも……」
ロードの腕には、眠たそうに目を擦る幼児がいた。深夜、平原の住居に侵入した二人は、眠り込んだ家族の中からひとりの幼児を助け出す任務中であった。
「構うものか、これからここの家は一切合切なくなるんだ」
シノスの言葉にロードは項垂れる。
「これからこの子は親無し子として、苦労して生きていかなきゃいけないんだ」
「それなら大丈夫だ。ひとりだけ生き残った奇跡の子として大事に育てられる。さ、はやく行くぞ」
シノスはロードと幼児を連れて、屋外へ出る。
「本当にもうすぐ来るんですか?」
「史実だと来るんだって……ほら、聞こえてきた!」
シノスとロードは屋外に待機させてあった時空艇に飛び乗り、上空に舞い上がる。それとほぼ同時に全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが、それまで二人がいた住居をなぎ倒して行った。
それまで寝ぼけていた幼児は、突然の轟音と地響きに驚き泣き出した。バッファローが一頭もいなくなった後に二人は時空艇を地面に下ろし、幼児を瓦礫の山に置いた。
「いいか、お前は将来この国の王になるはずの男だ。ところが歴史が何者かによって書き換えられて、お前はここで死ぬ運命になっていた。しかしそれでは歴史が大きく変わってしまう」
ロードは泣きじゃくる幼児に話して聞かせる。
「そして歴史の修正者として俺たちが来たんだ。お前だけじゃない、いろんな人間を助けたり殺したり、忙しいんだ」
きょとんと二人を見つめる幼児にシノスは手を振る。ひとつの場所で活動できる制限時間は五分だけだった。
「じゃあな、せいぜい感謝しろよ」
制限時間が迫っていた。二人は急いで時空艇で過去から離脱した。
「それで、次の任務は?」
「古代ローマに行って、兵士にあの爺さんの名前を聞けって言うんだと。今度は人殺しか、やれやれ」
そして彼は王になった 秋犬 @Anoni
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