世界3分前仮説:繰り返される三分の中で僕は君と恋に堕ちる
七篠樫宮
僕には三分以内に――――
場所は放課後の屋上。
「…………あと3秒……2……1……」
――――コツコツと、屋上出入り口の扉の向こう側――階段を上る足音が聞こえた。
階段から響くその音色は
ちゃんと来てくれたのかと、
髪型も制服もいつも通りだ。
変に格好良くみせる為じゃない、普段と同じ自分を心がける。
……いや、少し緊張感があった方が自然かもしれない。
こんな時、〇〇はどんな雰囲気を出していただろうか。
そんな
――目が合った。
じんわりと身体が熱を帯びるのを感じる。
――
成績優秀、
彼女の周りにはいつも人がいて、多くの笑顔が咲いている。
……そう考えると笑えてくる。
その二分半以内に
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「全然大丈夫。30秒くらいしか待ってないよ。むしろ、
「んー? 私と君の仲なんだから、全然平気だよ! それよりホントにごめんね、先生達がなかなか離してくれなくて」
目尻を下げ、申し訳なさそうに
「いやいや呼び出したのは僕の方なんだから、君は
「もー、私のことなんだと思ってるの?」
「才色兼備なパーフェクト美少女、かな」
それからしばらくの間、小声で何かを呟いていたが、人に見られていることに気づいたのか、キリッとした表情に戻して
何か想定外な事態があっても、すぐに立て直す事ができる冷静さも
「お、おほん! それで、今日は何の用かしら!? 言っておきますけど、幼馴染だからって明日締め切りの課題は手伝いませんことよ!?」
……
「まずは落ち着いて深呼吸をしよう。口調がブレすぎてツンデレお嬢様みたいになってるよ」
うん。この状況で告白したら
「――ふぅ……そうだね。ありがとう、落ち着いたよ」
「なら良かった」
「まあ、全部君が珍しく私のことを褒めてきたせいなんだけどね。なに? 私の機嫌を良くしてどうするの?」
ジト目で
そんな姿も可愛いと思えるのだから手に負えない。
――さて、そろそろ残り一分半。いい加減、本題に入らないと
「好きです。付き合ってください」
言い慣れた『
けど、
……この反応は
脳裏に色んな
目を丸くして驚く
全て〇〇だけのモノだった光景。
「――喜んで」
記憶の螺旋に落ちかけた
「あ……え」
「どうしたの?」
告白の返答をし、
――マズイ。いつもと違う
「ほ、本当? ドッキリだったりしない? いいの? 付き合っちゃうよ!? なんなら突き合っちゃったりしちゃって!」
「……」
「ごめんね! ちょっとビックリしすぎて性格がブレちゃって」
「ねぇ」
「は、はい!」
「なんで、嬉しそうな
――あぁ。
そうだ。〇〇の前ではポンコツになることが多かったが、
それは、
もし
「――そんな捨てられた子犬みたいな顔をしないでよ」
思わず顔を
――目が合う。
いつも変わらない
そこに映るのは、とうの昔に忘れてしまった自分の顔。
「何があったの?」
――残り一分弱。
いや、
――なにせ
つまり、これは既に
「――君は、世界が三分前に生まれたと言ったら信じる?」
――やっぱり、
「僕は君に告白する三分間を繰り返してる」
――あぁ、誰が信じるというのか。
「この世界は3分前に生まれ、3分後に終わる。そして、また新しい3分が始まる」
――
「三分間のループと言うべきか、あるいはこの記憶すらも3分前に世界と共に生み出されたのか」
「――来るか分からない『
言ってしまった。
「ふーん。……なるほどね」
向かい合う
これまで見てきた、どの
その内側にはどんな激情が渦巻いているのか。
「無限にも思えるループの中、最初の記憶は忘れてしまったってことか」
そうだ。だから、
「――――いない
…………って言いたいのかな?」
――笑っていた。
「バカなことを言わないでよ。君はどれだけ時間が経とうが君だ。真面目で、一途で、少しだけスケベで、私の事が好きなのに肝心な一歩を踏み出せないヘタレ野郎」
――
「……そして、ヘタレな私の想い人」
胸が痛くなる。
「僕は君の想い人じゃない」
「同じ人だよ。感情が
そんな癖があったなんて知らなかった。
「君は君のまま、私の事が好きじゃなくなったんだ」
口を開くも、否定の言葉はすぐに出てこなかった。
他でもない
――いつからだろうか。
彼女への告白が、三分以内に
――いつからだろうか。
――いつからだろうか。
「でもね、それは当たり前のことだと思う。ずっと好きでいることなんて難しいから。これはいわゆる
分からない。それが
「あー、三分だっけ? ここに私が来てから二分は経ってるよね……よし!」
「私はあなたが好きです。昔のあなたも、今のあなたもずっと好きです」
「……僕は分からない。『
「うん。分かってる。でも私は演技をしてない今の君も好きだよ」
「どうせ後数十秒で全部忘れる」
それは
「本当に? 君だけが特別だとは限らないでしょ? それに今の私がダメでも、次の私が同じように君に告白するよ。今の君の演技ならすぐに気付けるだろうからね」
それはそうかもしれない。
「あ、でも一番最初に告白したのは私だし……そうだ!」
視界が覆われる。
口の中にナニカが侵入してくる。
「ぷはっ……流石にこれは今までの私でもしなかったでしょ?」
頭がクラクラする。
まだ、唇に柔らかい感触が残っている。
「過去なんて忘れるモノだよ。君は君で、『
「私は君を堕としてみせる。
「次の私は今の私と違うかもしれないけど――必ず君に告白するよ。だから、待っててね」
にっこりと、今までで見てきたどの
――なるほど。君の言う通り『〇〇』と僕は同じみたいだね。
「……いつまで僕が待てるか分からないから、早めに会いに来てね」
――だってもう既に、君に堕ちかけてるみたいだからさ。
場所は放課後の屋上。辺りにいるのは僕一人だけ。
思い返すのは数秒前の三分間。
たったの三分間だったが、文字通り僕の人生を変える時間だった。
唇に軽く触れる。
この
今の僕にそんなものはない。
この3分前に生まれ、3分後に終わる世界で何をしようか。
そうだな、まずは
「……あれ?」
音がする。
ドタバタと駆ける音が。
僕の耳がおかしくなければ、屋上出入り口の方から聞こえてくるような気がする。
「まさか、いつもと違う三分間を過ごしたせい?」
これまでの
思い当たるのは前回の三分間。
「ヤバいな。敵か? ゾンビとかだったらどうする?」
屋上に武器はない。
音の主が来るまでの数秒、悩みに悩んだ末に僕は――――
「来たよ! ……ってええ!? 死んでる……!」
――――死んだふりをした。
全力で
だが、その声に聞き覚えがある。
「……いつまで寝てるのかなー? 本当に時間がないから早く起きて、ね?」
急いで起き上がり、イレギュラーの全身を見る。断じて強めの圧に屈した訳ではない。
「……おめでとう。君は三分の壁を越えれたみたいだね」
そこにはイレギュラーの姿――僕のことを
「やっぱり気持ちの問題じゃないかな? ほら、私には三分以内にやらなきゃいけないことがあるからね!」
そう
「えへへ、それじゃあ改めて。あなたのことが好きです。付き合ってください」
それを受けて僕は――――
「――――とりあえず、君の名前を教えてよ。僕の名前もそうだけど、君の名前も覚えてないんだよね」
我ながら最低な返事だ。
そんな返事にも
「そっか、まずは自己紹介からだね。私の名前は――――」
――かつて
――繰り返される三分間。
――いつ終わるかも分からない時間の旅。
――もう
――今は
――考えるのは現在の
――そう。
『僕には三分以内にやりたいことがたくさんある』
――今はただ、この三分を生きていたい。
【世界3分前仮説:繰り返される三分の中で僕は君と恋に堕ちる】
世界3分前仮説:繰り返される三分の中で僕は君と恋に堕ちる 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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