第七話
「フンッ!」
伸が力を込めると、じわじわと四肢が怪人に変化していく。
「短期間にしてはかなり上達したな、俺の教えが上手かったからな。」
「ふふっ、そうだね」
亮と再会してから数週間、正はほとんど付きっきりで伸に怪人化を教えてくれた。それに度々伸を襲ってきた怪人と拳を交えることも幾度かあった。
そのおかげか以前より怪人化のスピードが上がり、その状態を維持できる時間も長くなった。
さらに、共に過ごした日が長くなるごとに、正の伸への態度も徐々に和らいできた。最初は事務的に受け答えばかりだったが、最近は軽口を叩いてくれるようにもなった。正は伸にとって失った家族に代わるほどの存在となっていた。
「伸、話がある」
夕食を終えた後、いつもならそのまま寝てしまう所を正に呼び止められた。
「どうしたの?」
「・・・そろそろ俺は過去にケリをつけようと思う」
その言葉が意味するのは『創造神を倒す』ということだった。
「そう・・・」
「伸も行くか?」
「俺は・・・いいや、いってらっしゃい」
「そうか、では夕飯の用意でもしていてくれ」
「いつ行くの?」
「そうだな、二週間後くらいにするか」
答えを聞いた伸は、さっさと寝てしまった。
その頃人間解放クラブの本部では、山下は亮を自室に招集していた。
「わざわざ集めてしまってすまないね」
「いえいえ、謝罪には及びませんよ」
亮が答える。亮もまたこの数週間でめきめきと力を伸ばし、山下が目をかけていたこともあり、今では側近クラスに上り詰めていた。
「それで要件は何でしょう?」
「そろそろ我々も本腰を入れて動かねばならないと思ってね」
「するとつまり・・・」
「ああ。帝国残党を襲撃しようと思う」
「なんと・・・!」
「時期は二週間後、部隊等の編成は私が直々に行う。君もぜひ参加してくれ」
「はい!」
イサオの一件から亮はクラブに入り浸るようになり、周囲に影響されて怪人を憎むようになっていた。そんな亮にとって『怪人の本拠地を叩く』というのは悲願にほど近くなっていた。
「それで灰川くん、君にはこれを渡しておこう」
山下が机の上に置いたのは、あのときのベルトだった。
「えっ・・・・」あまりに唐突な贈り物に亮は二の句が継げなかった。
「私がもっているベルトから作った量産型の試作品第一号だ。一週間後には量産体制に入るつもりだ」
「なんでそんな貴重なものを・・・?」
「恐らく、いや必ず二週間後の作戦には邪魔が入る」
「帝国でしたら特に問題はないような・・・」
「違う。君のお友達だ」
「伸が!?どうして・・・」
「正確にはお友達のそのまたお友達だ、詳細は省かせてもらうが彼らには創造神を狙う十分な理由がある。私が止めても彼らは来るだろう」
「そこでだ、君には彼らの足止めをしてほしい。そのためのベルトだ」
「つまり・・・伸と戦えと」
「・・・・・・場合によっては」
つい先日まで親友だったはずの伸と拳を交える・・・亮にとってはありえない話であった。
「・・・少し考えさせてください」
「ああ、二週間後までには結論を出してくれたまえよ」
本部を後にし、家に帰る亮の足取りは重かった。
「ただいまー・・・」
亮の両親はともに会社の重役を務めており、家にいることは非常に稀だった。皮肉にもそのおかげでイサオに関してどうこう言われることはなかったのだが。
夕飯の支度を整えテレビをつけると、丁度怪人の特集が放送されていた。
≪えー先日変死体で発見されたカラス怪人のイサオさんですが、今回ご両親に我々のインタビューに答えていただきました。ではVTRをどうぞ≫
フッと映像が切り替わり、テレビにはイサオの両親が映し出されていた。イサオは思わずチャンネルを切り替えようとリモコンに手を伸ばしたが、タッチの差でイサオの母が先に喋りだした。
≪イサオは本当にいい子で・・・学校にも友達がたくさんいたようですし、いつも”母さん”って・・・≫
≪どうしてあの子があんな目に遭わないといけないのかは分かりません。犯人には一刻も早く自首して頂きたいです・・・≫
拳を震わせてイサオの父が語る。亮はこれ以上見ていられなくなり、半ば掴みかかるようにリモコンを握ってテレビを消した。
残りの夕飯を胃袋にかき込んで、さっさと亮は家を後にした。
「(また来ちゃった・・・)」
眠れなかった伸は、こっそり自宅へとやってきていた。実はこれまでも考え事をするときや気分を落ち着かせたいときに何度かやってきていたのだ。
今でも脳裏には家族との思い出がこびりついている。
とそのとき、伸の背後から一人の人物が話しかけてきた。
「誰だ!」伸はとっさに正から教わった構えをとった。
「うおびっくりした、俺だよ!」声の主は亮だった。
「亮か・・・ごめん」
「その感じだと、結構経験を積んでるみたいだな」
「まあね」
「・・・・・なぁ、ちょっとケンカしてかないか?」
「どうしたんだよ急に、亮らしくもない。そういうの苦手だろ?」
「まぁいいじゃないか」
場所を移して近所の公園、二人は距離を取って向き合っていた。
「友達だからって手加減するなよ?伸」
「当然さ(とはいえ相手は生身、普段通りやるとマズいよな)」
「”手加減するな”。そういったはずだぞ?」すると亮はベルトを取り出し腰に巻くと、一瞬にして亮に鎧が装着されていった。
「(いつの間にそんなものを・・・!)」
伸は全身に力を込め、現状変化できる最大限の部分を怪人化させた。
Broken The SUN 風雲 楽乃信 @hu-raku_un-raku
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