第六話

「ハハハハ!月光仮面だぁ?こりゃあ面白れぇジョークだ!」

「おいお前ら、やっちまえ!」

イサオが指示を飛ばすが、いっこうに応じる気配がない。

「ビビってんのか?早く行け!!!!」

睨みをきかせながら命令するが依然として何の応答もない。

「腰抜けが・・・」

しびれを切らしたイサオは自ら怪人に変化し、山下に向かっていった。

白鳥怪人となったイサオの手はかぎ爪に変化し、山下の腕を掴んで天高く上昇した。

「中身が人間じゃあこの高さから落ちればひとたまりもねぇだろうよ!」

そして地上から見えなくなるほど上昇したのちパッと手を放し、山下は何の抵抗もなくするりと落下した。

「山下さん!」

そう叫んだのもつかの間、亮の目の前にいきなり土煙がたち、地震かと思うほどの衝撃が地面を揺さぶった。しかし土煙の中からは無傷の山下が落とされたときの姿のまま立っていた。

「やはり素晴らしいね、”力”というものは」

傷一つない敵の姿を確認したイサオは、あらん限りの力を込めて逃げようとする。しかし、翼の傷は完治したわけではないため、ヘロヘロとした情けない飛び方だった。

「イサオさん!逃げるんですか!?」「見捨てないでくれ~!」「卑怯者!!」

眼下に広がる烏合の衆を眺めながら、イサオはさらに逃げようともがく。

「逃がさないよ」

山下は頭にある三日月形の装飾を取り外し、イサオに向かって投げた。装飾はブーメランのような軌道でイサオの片翼を切り裂いた。



夜になり、すっかり寝入ってしまった伸の隣で正は一人考えごとをしていた。

「(伸を帝国から救出したとき、奴らはなぜ普通の怪人を生み出さなかったんだ?なぜ創造神と同じ組成の怪人を・・・まさか)」

「(”第二の創造神”を生み出そうとしているのか)」

「(もし伸が創造神となってしまった場合、俺は伸を殺さねばならない。が今の怪人となった俺では恐らく勝ち筋はない、だったら今ここで殺しておくべきなのだろうが・・・)」

「(そもそもだ、なぜ俺は最初に会ったときに伸を殺さなかった?)」

「なぜだ・・・」

その時、小屋の外でドガン!と大きな音がした。

「おじさん!」

「お前はここにいろ、様子を見てくる。」

正が外に出ると、小屋のすぐ近くに片方の翼を失った鳥の怪人が倒れていた。

「おじさ~ん、何があった・・・の?」

正には分からなかったが、伸にはその怪人がイサオであることはすぐに分かった。

「イサオ?イサオ!どうしたんだよ!?」

伸はイサオを抱えて尋ねる。

「(翼を断ち切られている、何者の仕業だ?)」

「う・・・・」

「イサオ!何があったんだ!」

「リ・・・リョオ・・・・やま・・・し・・・・た・・・」

「亮!?亮がどうかしたのか!」「(山下!?いやまさかな・・・)」

たったそれだけ残して、イサオはガックリと崩れ落ちた。

「イサオ・・・そんなぁ!うっうう・・・」

「諦めろ、既に息絶えている」

正なりに精いっぱい慰めるが、それでも伸の目からはせきを切ったように涙がとめどなく流れていた。

「(無理もないか、母親と友人を失って・・・こうならない方が不自然だ)」

「ううっ・・・ひぐっ・・・・」

「(しかし山下といったが・・・もしや)」

「すまない伸、少し出かけてくる」

「ぐすっ・・・・・すん・・・」



「どうだい灰川くん、あれが怪人たちに対抗する手段だ」

「あれで怪人を?」

「ああ、全てこの世からおさらばしてもらう」

「本当にそんなことが?だって怪人はたくさん・・・」

「私が直接スカウトした君だ、トップシークレットを話しておこう」

「トップシークレット?」

「君は怪人の起源について考えたことはあるかい?」

「起源?いえ・・・ないです」

「これは人づてに聞いた話だが、怪人には創造神という者がいるらしい。そいつを倒せば怪人は増えることがなくなる」

「じゃあその状態で怪人を倒し続ければいずれ・・・」

そのとき突然入口のドアが勢いよく開いた。

圭司けいじ、聞きたいことがある。」声の主は正だった

「久しぶりだねサンシャインマン!」

”サンシャインマン”という単語に事務所内がどよめく。

「その名は捨てた。正でいい。」

「そうかい、何の用事かな?」

「少し聞きたいことがある。ここではなんだ、奥で話そう」

「わかった、じゃあそういうことでね灰川くん」


「で?どういう要件だい?」

「単刀直入に聞く。鳥の怪人を殺したか?」

「さぁ?怪人なら常日頃殺しまくってるからね」

「つい先程俺の家の前に怪人が落ちてきた。その怪人は片翼を切られ落下の衝撃で死んだ。」

「それだったら怪人同士の小競り合いじゃない?帝国とか党とか」

「俺の同居人はそいつを知っているようだった、ただの学生がそのような大物と知り合いである可能性は薄い。」

「へぇ、さっきの子も学生だけど?」

「灰川とかいう子供か、柄じゃないな」

「僕らはそろそろ次の世代を育てるべきだと思うんだけどなぁ・・・」

「・・・・一つ聞いておきたいことがある」

「俺たちは未来のために戦った。そして今再び未来のために戦おうとしている。」

「それが?」

「それを次世代が望んでいるのだろうか。俺たちはただ夢を諦めきれない過去の遺物なんじゃないだろうか」

「何を言っている!!」圭司は机を叩いて反論する。

「僕たちは命を懸けて戦った。僕たちにはこの狂った世界を打ち倒すために再び立ち上がる権利がある!!!そうじゃなかったら僕たちは何のためにヒーローを・・・」

「俺たちの戦いは終わったのかもしれない・・・」

「いいや!俺たちの戦いはこれからだ!!」



突然の来客により話を中断させられてしまった亮は、夜道を家まで帰っていた。

「(ん?誰だ?)」

家の前に人影を見つけ、怪しがりつつ息を殺して近づく。付近の電柱に身を隠し謎の人影をよく見ると、伸であることが分かった。

「伸?伸じゃないか!!どこ行ってたんだよお前!!」

「色々あってな」

「まぁとにかくあがれよ、腹減ってるか?」

「いや、ここでいい。今日はお前に別れの言葉を告げに来た」

「別れ?おいおいなんの冗談だよ」

「正真正銘の別れだ、じゃあな」

「なんだよ意味わかんねぇよ!理由くらい言えよ!」

「・・・なぜイサオを殺した?」

「!」

「イサオを殺した。たったそれだけって思うかもしれないが、俺はもうそんなお前とは一緒にいられないんだ」

「聞いてくれ!実は俺、イサオにいじめられててさ。山下さんって人が俺を助けてくれたんだよ!その後にイサオが復讐に来て、それで・・・」

「俺が信じると思う?」

「だったらクラスの奴に聞いてみろよ!」

「わかった信じるよ」

「で、なんで急に別れる気になったの?それに家にも帰ってないんだろ?早く行ってやれよ」

「亮、悪いが俺はもう家には帰れない。」

伸はこれまでの顛末を亮に話した。何者かに狙われていること、怪人を倒すこと、そして自分は人間ではないこと。

「つまり”いつの間にか怪人にされて襲われていたところをヒーローのおっさんに救われ、全ての怪人を倒すために創造神とかいうのを倒す”ってことか?」

「信じられるわけねぇだろ!って言いたいところだけど、マジなんだろうな」

「まぁとにかく、頑張れよな」

「ありがとう、全て終わったらまた会おう」




「もしもし山下さん、灰川です」

≪ああ灰川くん、どうしたんだい?≫

「山下さんが先程話していた創造神の話、本当のようです」

「俺の知り合いが話してくれました。創造神は今帝国残党の本部にあるそうです」

≪なるほど、有意義な情報をありがとう。近日中に突入&抹殺作戦を始めよう≫

「あの二人はどうしますか」

≪我々はプロだ。素人には任せておけない≫

「わかりました」



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