第五話

翌日も、教室に伸の姿はなかった。家に行っても何の反応もなく、電話にも出なかった。

「でも、こんな学校なら来ないほうがマシか・・・」

先日から、亮はクラスの雰囲気の変化を感じ取っていた。上手く言語化できないが、なんとなく流れが変わった感じがする。そして実際その予感は当たっていた。

「おーす、みんなおっはよ~」


イサオが登校してきて一気に教室が凍る。イサオと不良の一件を誰かが見ていたらしく、それがたちまち学校中に広まることとなったのだ。当初は教師陣もイサオをどうにかしようとしていたが、説得が通じず実力行使に移った教師を全員病院送りにしたことで徒労に終わった。

 それだけなら良いのだが、このことによりイサオが実質的な学校の主導権を握ってしまい、ほぼイサオの独裁体制が完成してしまっているのだ。

 そして亮にとって運の悪いことに、すっかり増長してしまったイサオの矛先は常に亮に向いてしまっているのだった。


「おっはよ~亮ちゃん!調子はどう?」

「・・・・・・」

「んも~う聞いてるんだからさぁ・・・答えな?」

イサオはグッと手に力を入れて亮の肩を握る。

「っ!・・・まぁまぁかな」

痛みに顔を歪ませながら答える。

「えっええ~!?僕に会えたのに”まぁまぁ”なのぉ~?」

さも意外そうにイサオが反応する。

「(なんて言ってもそう言うくせに・・・)」

「せっかく話しかけてあげたのにそういう反応されると、いやな気分になっちゃうな~」

「何が言いたいんだよ」

「今日の昼休み、屋上来てくれるよね?」



「ぐぐぐぐ・・・おおおおおお!!!!」

伸が体に力を込めると体の一部が変化するが、全身の変化には至らない。

「まだ完全な変身は難しいか。だったら局所的な変身で今は戦うしかない。」

「まずは腕だけ変化させてみろ。」

正が握り拳を作り軽く力を入れると、腕だけが怪人の姿になった。

「怪人としての自分は心の内側に封じ込めてある。それを徐々に解き放つイメージだ。」

その言葉どおり、自分の外側と内側を入れ替えるイメージで力を込めると、両腕が怪人の姿となった。

「ねぇおじさん、おじさんって怪人なんだよね」

「そうだ。」

「じゃあなんで怪人と戦ってるの?」

「・・・俺は怪人はこの世に不要な存在だと思っている。」

「それはおじさんが正義のヒーローだったから?」

「いや違う。怪人は人間と争うことで今の地位を手に入れた。世間は共存だとかなんだとか言っているが、あと10年もすればまた争いが始まるだろう。」

「俺はこれまで怪人と幾度となく戦ってきた。その中の奴らは皆争いを望んでいた。」

「怪人の本質は暴力だ。だから怪人は不要だと思う。」

「でも、怪人の中にもいい人がきっと・・・」

「あぁいるかもしれない。だが同時に悪人もいる。そしてそいつらがいずれほかの怪人を煽動し始めるだろう。」

「・・・・」

「俺の目的を話しておこう。前に創造神の話をしたな、奴は全怪人の祖と名乗っていた。それが本当なら、そいつを殺せば新たな怪人は生まれなくなり、怪人は自然消滅する。」

「怪人って自分たちで子孫を残せないの?」

「あぁ、俺も何度か試してみたがことごとく失敗した。」

「(試したって・・・えええ!?)」

「とにかく俺の第一の目標は創造神の抹殺、そしてゆくゆくは全怪人の排除だ。」

「じゃあなんで俺を助けたの?」

「・・・・・昼飯にするか。」



昼休みに亮を待ち受けていたのは”お仕置き”と称した凄惨なリンチだった。

「うい~そっちいったぜ~」

「任せろ、おら!」

イサオの仲間の怪人たちに囲まれ、鳥かごのように内側で蹴られ続けた。

「おや、ここにいましたか」

その時、屋上の入り口から一人の男性が入ってきた。

「お迎えに上がりましたよ、灰川 亮くん」

つかつかと歩みを寄せる男に、イサオの仲間の一人がつっかかる。

「あのねオッサン、今俺たちだ~いじな話してんの。邪魔しないで?」

「黙れゴミめが」

男は極めて冷徹に吐き捨てると、隠し持っていた拳銃で頭を撃ち抜いた。

薬莢とともに仲間の生徒が倒れ伏す。


「・・・何してんだぁ!!!!」

取り巻きが怪人になって男に襲い掛かる。そのとき亮はようやく男の顔を見ることができた。

「(山下さん・・・?)」

山下は拳銃で取り巻きを威嚇すると、改めて亮に歩み寄った。

「灰川君、行きましょうか」

「待てよ、アンタ誰?」

「あなたに名乗るほど私の名前は軽々しくありません」

「へぇ、言うじゃん」

「俺の仲間殺しといてタダで帰れると思う?」

「えぇ」

「ハハッ!面白い人、いいよ帰って」


「良かったんですか?あのまま帰して」

「バーカ、こっそりつけて家襲うんだよ」



ほぼ一日中正から特訓を受け、伸はある程度怪人状態の制御ができるようになった。

「制御できるようになったところで一つ言っておくことがある。」

「なに?」

「お前は他の怪人とは違う立ち位置にあることだ。」

「それは僕が襲われてることと関係ある?」

「大いにある。」

「じゃあ聞かせて」

「通常怪人を意図的に生み出すときは怪人化エキスと素材となる生命体を混ぜたものを投与する。しかし伸、お前にはエキスのみが与えられているんだ。」

「ってことは・・・今僕は何怪人なの?」

「それはわからん、なにしろ前例がない。」

「・・・いや、一つだけあった。」

「誰?おじさん?」

「創造神だ、幹部から聞いたことがある。奴は元科学者で、偶然開発してしまった怪人のアンプルを摂取してしまった結果、あのような姿になったらしい。」

「つまり僕は、創造神と同じってこと?」

「そうだ。創造神と同格のお前なら創造神を抹殺することもできるかもしれない。」

「・・・・やりたくないって言ったら?」

「じきにそうも言ってられなくなる。奴を倒さねばお前は一生逃亡生活だぞ。」

「・・・・・・ちょっと出かけてくる」



 夜、亮は山下に人間解放クラブの本部へ誘われていた。

「なんで俺をスカウトしたんですか?」

「元々僕たちは怪人に虐げられた者たちの集まりだからね、怪人の存在によって何かしらの害を被っている人たちを誘っているんだよ」

「世間ではテロ組織だのなんだの言ってるけど、そんな野蛮な組織じゃあない」

「ときに灰川君、怪人と私たちで違うところは何だと思う?」

「何だろう・・・見た目とか」

「うんうん、そうだね」

「だけどね、一番違うのは”心”なんだよ」

「怪人は闘争を目的として生きているんだ、これは君もよくわかっているはずだよ。現に鳥の彼も君が思っているような子じゃなかっただろう?」

「はい・・・前は優しかったんですけど」

「人類は優しすぎる、許さないことを知らない。このままでは再びどこかで争いが起こってしまう、そのために僕たちが一役買ってるのさ。」

「でも、怪人って人間より強いんじゃ・・・」

「ああ強いよ、でもね・・・」

そのとき部下らしき女性が山下を訪ねてきた。

「代表、表に不審な輩が多数。帝国でしょうか」

「いや、たぶんこの子のお客さんじゃないかな」

「(イサオが・・・なんで!)」

「警察呼びますか?」

「いや、私が対応しよう。」


本部の外に出ると、イサオが数十人の怪人を連れて立っていた。

「よ~おじさん、さっきは世話になったな」

「それはどういたしまして」

「ふざけたことぬかしてんじゃねぇ!おい亮、なんだその目は。あぁ?」

態度を一変させたイサオに思わず亮は山下の陰に隠れる。

「安心したまえ灰川君、キミは明日からコイツらにおびえる必要はなくなるんだからね」

「はぁ?」

山下は懐から一本のベルトを取り出し装着した。

「ハッ!ヒーロー気取りかよ情けねぇ!」

「・・・・変身」

その瞬間辺りは月の光に包まれ、亮の目の前には月光を浴びて輝く一人の人間が立っていた。

「な・・・なんだテメェ!」

「サンシャインマンの技術を応用して開発した。そうだな、名前は・・・」

「”月光仮面”なんてどうかな?」



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