理想の三分調理!

ナナシマイ

 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。

 目の前には宇宙人。ただし逆さ吊り状態。頭部は胴体と切り離されて、髪と両足をそれぞれハウスアームに掴まれて。

 だって、血抜き、大事。

 わあわあ喚いていて、けっこううるさくて……反射的に? とりあえずレーザー銃で頭を落としてから、あっと気づいた。

 彼らって、息絶えてから三分で消化してやらないと毒素が出てきちゃうんだよね。脳がそのくらいしか保たないんだって。切り離しても胴体に影響あるとか、ちょっとしたホラーだけど。宇宙進出してからの改造だっていうから、なおさら怖いよ。まぁそういうのも進化のひとつなんだろうけどさ。

 ぶるぶる震えるハウスアームが宇宙人の頭と逆さな胴体を細かに揺らす。

 ぼとぼと落ちる血がシートの準備もしていない玄関を汚していく。

 なんて迷惑なんだろう。

 終わったらすぐに片付けないと、今度はそっち方面を好む連中がやってきそうだなあ、嫌だなあ。


 そもそもさ。ドア蹴破って入ってくるなり「うわあ、バケモノだあっ!!」とか叫ぶってどうなんだろうね。失礼だよね。そういう差別をなくすための星間交流なんじゃなかったのかな。地球に伸びしろがないって言われるのは、こういうところだと思うよ。

 そりゃあ僕らも外では擬態スーツを着るようにしているから、いきなり本当の姿を見たら驚くくらいはするだろうけどさ。

 ついでに言えば僕だって、人間の頭ってなんで独立して――しかもいちばん上にあるんだろう。変なの。ぶっちんミョカミョカみたいだな。とか、思うけどさ。

 それでもどう思おうと、互いのために言わないのがマナーなんじゃなかったのかな。


 あ、血抜きが終わったみたい。ここまで一分半。タイムリミットまであと半分か。

 やばい、と思うひとは地球初心者だ。僕はハウスアームの処理速度が上がったな、と満足に頷く。血抜きがいちばん時間かかるし、ここからはわりとどうにでもなるから。消化なんて口に入れて一秒あればできる――ああそうそう、エッイエッイ光時ね。三分はコッウクーワ光時くらいかな。地球って、ここでしか通用しない単位に固執しすぎだよね。あまりにあまりにという感じで、僕もうつっちゃった。

 とにかくまずはしゅぱぱんっと肉を切り分ける。衣服を剥がすの忘れてたけどまぁいいか。生物由来の布って臭うけれど、処理はあとでにしよう。

 この辺の言葉だとトウミ? 的なあれで骨皮身ゴミを分離させて、お次は圧力鍋で湯通し。

 正直、このあたりで「ここに湯通ししたお肉が――」とか出てきてくれるならめちゃくちゃ助かるけれど、そういうわけにもいかないのが現実だ。あと一分半の戦い、羨ましいと思うくらいは許してほしい。一秒で消化できるとはいってもやっぱり少しでもじっくり味わいたいし。


 僕の故郷には、完全漂白してから味をいれる伝統――と言っていいのかわからない、「どんな宇宙人でも美味しく食べる」料理があるけれど、そう。実は僕、地球人はちょっぴり素材の味を残しておくほうが好き。

 そんなとき活躍するのは簡易漂白剤入り柔軟剤。フタにすりきり一杯分、鍋へ投入。それからお肉。今日はパサツキを楽しみたい気分だし、先に調味料も入れておこう。

 よし集中。ここの圧力バランスは大事だ。五秒くらいで済ませたいけれど、あんまり出力を強めると身がふやけちゃうから、ほどほどに。

 五、四、三……よし。

 溶き卵にくぐらせて、パン粉をつけて。

 高温で、じゅんわりと。

 ――って、別にこれ、料理番組じゃないんだよね。そもそも僕、料理そのものは好きじゃないし。


 いや……うん、正直、地球人が羨ましいよ。

 誰か、お湯を注げば三分で人間を食べられる調理器具、開発してくれないかな。

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