6.言葉の暴力
休日の図書館の静寂を引き裂いて、突如として館内に怒号が響き渡った。
職員が様子を確かめに行くと、はたしてそこには激しく口論する二人の男がいた。片方は大柄な、シャツを着た男で、もう片方はパーカを着た華奢な男だ。
誰にも止めに入る隙を作らないほど速く、そのうえどんどんとヒートアップしていく口論にいつしか人だかりができていた。
二人は激しく罵り合いをしているが、やはり休日の昼間にわざわざ図書館に来るような人なのだ。その罵声もどこかウィットに富んでいる部分があり、ある意味聴衆を楽しませている。
言葉で殴り合う中で華奢な方の男はなにか地雷を踏んだようで、不意に大柄な男が拳を振るった。半分吹っ飛ぶ形で倒れた華奢な男は殴られた顔を少し傾けたままおもむろに本棚にあった広辞苑を取り出し、それで大柄な男を殴った。
浅い川に大きい石を投げ入れたような不快な音がした。
大柄な男はなおも立っていたが、二、三歩よろけて後ずさりしたあと拳を振り上げて一歩前に進み、ついに足音がしないよう毛羽立っている図書館の床に倒れ込んだ。
職員は我に返り救急車を呼びに受付へ走っていった。野次馬たちは気まずそうに、しかし我先にと離れていった。
あとに残された華奢な男は、まだ腕の中で沈黙している語彙の塊を眺めながら思った。
あぁ、言葉は時に人を傷つけるのだな、と。
掌編小説を書きだめるところ 遅筆丸 @ponshi8282
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