ヒーローにサインをもらいたい!

七霧 孝平

サインをもらうため!

『少年には三分以内にやらなければならないことがあった』


巨大ヒーローと怪人が激闘を繰り広げる。

揺れる大地。怪獣の攻撃で吹き飛ぶ街並み。


人々は避難のため逃げ回り、ヒーローと怪獣から離れていく。

そんな中、一人、逆にヒーローと怪獣に近づいていく人影がいた。


「き、来た、今日こそ……今日こそは!」


一人の少年が大きな紙を持って走っていく。

そう、少年の目的は巨大ヒーローからサインを貰うことである。


巨大ヒーローは現れて三分で帰ることは、皆知っていることであった。

怪獣と戦いが終わった後にもたもたとヒーローに近づいても間に合わない。

少年は恐れず巨大な色紙を持ち走り続ける。


「ガアアアッ!」


怪獣の吐く火の息が街を焼き、

ヒーローがそれを止める一撃を放つと大地が揺れる。


少年は自身がやけどを負うのも転ぶのも構わず、

ただ色紙を守り走り続けた。


少年にとってはもはや数十分にも感じる出来事。

だがついにヒーローは怪獣を倒し、帰るために飛び立とうとする。


少年は足元まで来ていた。だが気がついてしまう。

ヒーローがそもそも足元にいる自分に気がつかない。

人間の足元に蟻がいるようなものなのだから、と。


「おーい! ヒーロー!」


それでも少年は叫ぶ。はるか天空のヒーローの顔に向かって。


それは奇跡か、たまたま下を向いただけか。

ヒーローが少年に気がつく素振りを見せた。


「ヒ、ヒーロー! これにサインして!」


少年は巨大な色紙を掲げる。

だがいくら大きい色紙でも、ヒーローの指が入るかもわからないサイズ。

ヒーローは困惑しているのか、無言で少年を見下ろす。


ヒーローの帰りの時間が迫る。

ヒーローはあることに気がつくと、少年を潰さないように、

そっと色紙に触れ、そして離れ飛び立っていく。


少年の色紙には確かにサインが出来ていた。

ヒーローの物か怪物の物かわからないが、ヒーローの指についていた液体。

それが器用にサインのようになっている。


こうして少年は無事、サインを手に入れることができた。

国からもヒーローからサインを貰った少年とたたえられ、一躍有名人となった。


……ただし親からはこってり怒られた。








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ヒーローにサインをもらいたい! 七霧 孝平 @kouhei-game

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