梅田はバイデンが作った

猿川西瓜

お題「書き出しが『○○には三分以内にやらなければならないことがあった』」

 アメリカ合衆国第46代大統領バイデンには三分以内にやらなければならないことがあった。

 アメリカ合衆国大統領として。いや、世界を支配するイルミナティの手先として、かもしれない。それは、「バイデン=梅田作成説」を否定することだった。


 バイデンは、影で「梅田」と呼ばれることに我慢ならなかった。

「Why call me umeda.Not forgive.(なんで、俺が、梅田うめだとか、しょうもない名前で呼ばれないとあかんねん)」

 事情を調べると、こんなことが分かった。

 梅田はバイデンが作ったから、梅田と呼ばれるようになった、と。


 梅田。ご存じの通り、大阪の梅田は魔境かつ魔窟と化していた。

 一度迷い込めば、二度と地上には上がれない。リアルダンジョン飯である。

 梅田の地下街には、道に迷い続け餓死した者の遺骸が無数に転がっているという。

 死肉をむさぼるゾンビと化した阪神タイガースの法被を着た亡者が多く徘徊していた。


 そんな梅田を、バイデンが作ったのではないだろうかという説が、まことしやかに日本で語られ出したのだ。

 国会でも取り上げられた、梅田=バイデン作成説。

 大阪人のみならず日本人を絶滅させるためにバイデンが迷宮化させた。

 犠牲の数は増え続けるばかりだ。

 バイデンの陰謀で梅田のあのダンジョンが作られたと、SNS界隈で話題にならない日はなかった。

 そしてついに、梅田が決して自分が作ったものではないと証明するためバイデンは立ち上がったのだった。

「I ride private jet. I'm go to osaka city for 3 minutes.(プライベートジェットに乗って3分で大阪に乗り込むぞ!)」


 到着したのは八尾空港。自家用ジェットで突撃したバイデンは、降りるなり八尾温泉でしばし身体を整え、それから梅田駅の入口に立った。ここまで、わずか三分。


 梅田はもともとは墓地。大阪の最果ての地であった。

 しかし、大正時代くらいに大阪駅ができて、だんだんと栄えてきた。

 そして、いまや大阪の一大中心地となった。

 が、あまりに駅の拡大と工事を続けたおかげで、一度入ると二度と出てこれない迷宮となってしまった。


 梅田の地下、特にホワイティあたりから死臭と呻き声が聞こえてくる。


 バイデンは「I can not make umeda city.(こんな駅、俺が作るわけねーだろ)」と言葉を漏らした。

 お供の副大統領らも納得した。

「I interesting in umeda danjon.(でも、梅田ダンジョン、すごく面白そうですよね)」

 バイデンは唸った。

「I go to umeda underground.(地下に降りていこうかな)」


 バイデンはいつもより饒舌だった。

 アメリカでは、ぼけてるだのなんだのバカにされて、正直窮屈だった。

 それに、世界を支配するアメリカにとって、知らぬことなど今までは存在しなかった。

 ドローンとスマホで、世界中の情報が集まってくる。ベトナムの奥地の村人の夕飯まで、すぐに把握できた。

 しかし梅田駅は米国にとってもバイデンにとっても未開の地であった。

 上級大阪人(梅田駅を唯一探索できる資格を持つ者)でさえ、一週間に一度は工事で景色が変わる梅田に苦労している。

 この梅田駅に対し、バイデンの内に潜む、血湧き肉躍る開拓者魂に火が付いた。


 ……。


 数日後、戻ってこなくなったバイデン奪還のために、米軍全軍が投入された。八尾空港には戦闘機が並び、大阪港には空母が寄港した。

 梅田は一斉に爆撃され、特殊部隊が梅田駅に突入した。


 当初の楽観的期待は裏切られ、結局中国軍も加わり、米中連合軍で東梅田からヨドバシカメラ地下にたどり着くまで15年かかった。


 ようやく発見されたバイデンは以外にも健康そうだった。96歳にもならんとする男とは思えないくらい、若いままであった。梅田の地下に住む死肉をむさぼる阪神ファンが、いつのまにか野菜の栽培や牧畜をはじめており、独自のコミュニティを形成していた。その仲間に、バイデンは加わって、すっかり馴染んでいたのだ。


 バイデンはやってきた特殊部隊に、「I love umeda.(ここはとてもいいところだ)」「I proud umeda.becouse I am umeda.(むしろ梅田=バイデン作成説を誇りに思う)」と伝えた。

 米中特殊部隊はバイデンを奪還せずに、梅田に置いて帰ることにした。バイデンは阪神ファンと共に仲良く暮らしているという。


 読者は梅田駅にバイデンがいて、阪急へ向かう途中の動く歩道手前のベンチに、たまに座っていることを知っているだろうか。


 見かけたら、こう声をかけると喜ぶと思う。

「Biden created Umeda.Umeda created Biden.」と。

 優しい声で「Thank you」と返事がある。

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