第4話 2人目なら理恵さんで その3
「ゴリエってなんスか?」
「ゴリエって言うんじゃねぇ!」
「ゴリエっていうのはね、理恵のあだ名みたいなものさ」
「言わないでくださいよ姐さん!?」
理恵さんが言うなって言ったのに、3連続でゴリエが飛び出した。これがフラグってやつか。
それにしても理恵さんのロールプレイはなかなかのものだ。呼び方はともかく口調まで変わっている。普段の優し気なものとは一転して、トゲトゲした感じ。
「最初に『ダンジョンブレイク』が起こるまでは、ダンジョンのことはほとんど分かっていなかったからね。女だてらにそんなところに入っているゴリラ女だって揶揄われてたのさ」
「言ったやつに『お話し』してやれば、言うやつは減ったけどな」
絶対『お話し』じゃないでしょそれ。
「それに『ダンジョンブレイク』が起こってからは、揶揄ってる余裕なんて消えて、とにかく攻略って流れさ」
「文句を言っていたやつも全員消えたがな」
「物理的にっスか?」
「フッ……」
ダンジョンが現れた初期も初期なら、まだ冒険者協会などもない。したがって、冒険者を支援する組織もないので、ダンジョンの攻略も今よりずっと難しかっただろう。
「あの、もう元に戻って良いですか?」
「ひとまず課題をこなしてからにしましょう。そのキャラクターで攻略できるか分かりませんから」
「そ、そうですね」
「違います。そのキャラクターはそんなこと言いませんよね?」
「わ、分かったよ。やれば良いんだろやれば」
理恵さんの安易な逃げを、彩華ちゃんは許さなかった。本人にはそのつもりはないと思うんだけどね。課題の攻略も重要なことだ。
「こういうのは思い切りっスからね。サクッとやっちゃうっス」
「そうだな。要はモンスターをぶっ飛ばせば良いんだ。それなら得意だ! 黒鉄丸!」
半ば自棄になりながら、理恵さんが長剣を構えた。
「ちなみに黒鉄丸ってのは、あの剣の名前さ。マジックアイテムでもないただの剣なのにね」
「シンプルっスね!」
「別にいいだろ!?」
完全に自棄になりながら、理恵さんがフィールドの中央に進み出ると、倒すべきモンスターが現れた。相対するのはウルフ系のモンスターで、なりきりキャラクターに関係があるのかは分からない。
「なるほど。こういった現れ方をするんですね」
「頑張るっスよー!」
「○にさらせー! この『ピー』野郎が!」
「口が悪いのう」
口調と同じく、戦い方も荒々しい。装備している黒鉄丸を力任せに振り回し、技術とは無縁だ。それでも、素早いウルフ系モンスターにしっかりと食らいついているのは流石と言うしかない。
「『ピー』! 『ピー』!」
「猫神に見せるときには音声を修正せねばな」
「猫神ちゃんの教育に悪いっスからね」
「編集はまかせてください」
一通りのFワードや悪態をつき終わったところで、モンスターも地に伏した。
「倒したようだね。課題の進捗はどうだい?」
「はい、姐さん。1つクリアになってます」
「それじゃあ、あと4つやれば良いってことだね」
「ふむ。今のキャラクターは演じ慣れているようじゃったが、あと4つもあるのかえ?」
キャラクターになりきるというのは簡単なことじゃない。役者が専門職として成立しているのもそうだし、ダンジョンの課題にもなっているならなおさらだ。なりきるだけでなく、戦闘もしなければならない。
「安心して良いよ玉藻ちゃん。理恵のなりきりはこれだけじゃないよ」
「ほう」
「ほら理恵、次だよ」
「……はい」
もちろん茜ちゃんのために録画は続けている。一体理恵さんが何をしたというのか。
「次はどんななりきりキャラクターっスか?」
「クレイジーが嫌になった結果生まれた、聖女キャラだよ」
「聖女ですか」
皆の視線が理恵さんに集まった。このクレイジーなキャラが聖女キャラになるのか。
「いいじゃないですか!? クレイジークレイジー言われて、あっ、これキャラ付け失敗したなって思ったんです!」
「ほら、さっさと着替えな」
本当に君枝ちゃんは容赦ないね。
着替えたのは、黒一色なのは変わらないが、どことなく聖職者を思わせるようなローブ姿だ。武器は鉄球に短い三角錐型のトゲが生えたモーニングスター。
「初めまして。私の名前は後藤理恵です。どうぞよろしく」
「おー、お淑やか系っスね!」
「これなら課題は問題なさそうですね。さっそく戦闘しますか?」
「それじゃあ面白く、っと、課題はキャラクターになりきることってあるからね。少しは演技をしてもらわないと。猫神ちゃんにも見せるんだろ?」
「そうじゃな。何かやってもらうのも一興か。頼むぞ、理恵ちゃん」
「……これもダンジョンの試練なのですね」
たぶん違うと思う。
【100万PV感謝!】【てんたま!】 転生するなら狐耳美少女〈玉藻の前〉で ~転生先はダンジョンありの現代ファンタジーだった!?~ 蟹蔵部 @kanikurabu
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