第3話 2人目なら理恵さんで その2
少しばかり派手な準備運動が終わり、いよいよ理恵さんにケモミミを生やすお願いをすることになった。
「シンプルにケモミミを生やしたいってお願いすればいいのかね?」
何故か理恵さんよりも準備万端で体も温まっている君枝ちゃんが疑問を口にした。
君枝ちゃんがケモミミを生やしたときのお願いは、スキルレベルが限界に達していた〈剣術10〉をさらに成長させたいというもの。
〈剣術10〉は変わらず〈剣術10〉のままなので、予想としては、〈剣術〉を成長させることができない代わりに〈黒の剣士〉を取得して、副次的にケモミミが生えたと考えられる。
今回は、シンプルにケモミミを生やしたいというお願いをすることで、課題がどうなるかを検証する。もしダメでも、君枝ちゃんのときと同じようにお願いをすれば、理恵さんにもケモミミは生えてくる可能性は高い。
「それではお願いしてみます」
移動した先で提示された課題は、
『5つの武器種でそれぞれ1体のボスモンスターを討伐する。ただし、それぞれ別のキャラクターになりきること』
なんだかおかしな課題が出てきた。
前半部分は分かる。例えば、剣で1体、槍で1体、みたいな感じで、5つの武器種を使ってボスモンスターを倒せば良い。
理恵さんは剣をメインにしていてスキルレベルも最も高いが、それ以外の武器も器用に扱えてそれなりのレベルがある。
問題は後半部分だ。別のキャラクターになりきるって何?
「あー、これはアレだね」
「君枝ちゃんはこの課題の意味が分かるっスか?」
同じく首をかしげていた愛理ちゃんが、君枝ちゃんの言葉を拾った。
「ボクにも課題の意図がつかめません。どういうことなんですか?」
「まあ簡単に言うとね。黒歴史ってやつさ」
「「黒歴史?」」
揃って首をかしげる愛理ちゃんと彩華ちゃん。
ふと理恵さんの様子をうかがうと、耳を真っ赤にしながら顔を隠していた。
「ううっ……」
「どうしたのじゃ、理恵ちゃん」
「私から説明するかね。理恵が『クレイジー』なんて呼ばれているのは知っているかい?」
ネットは主にダンチューブを見ることにしか活用していないが、それでも見聞きしたことはある。理恵さんの二つ名?みたいなもので、クレイジーの後にコングが付いたりする。
「普段の様子とクレイジーとは繋がらないと思わないかい?」
「理恵ちゃんは優しいっスよね」
「クレイジーと呼ばれるような型破りなことはないですよ」
「君枝ちゃんより、よほど常識人じゃな」
「それも当然で、『クレイジー』ってのは、戦闘中のなりきりキャラみたいなものなんだよ」
要は、舐められないように周囲を威圧していたら、それが理恵さんのキャラクターとして認知されて、『クレイジー』とあだ名が付いたと。
「私らは女だからね。多少強気な方が便利なことが多いんだよ。玉藻ちゃんたちはそんなの関係ないくらい強いから必要ないど、私らにも下積みの時代があったのさ」
なるほど。つまりは理恵さんなりのロールプレイということか!
まさか理恵さんがロールプレイ仲間だったとは。黒歴史なんてとんでもない。それは立派な白歴史(?)だ。
「その『クレイジー』ってのは、どんなキャラなんスか?」
「そうですね。気になります」
「だとよ理恵。課題をこなすためにも必要だし。さっさとバラしちまいな」
「ううっ……」
なおも恥ずかしそうな理恵さん。一体どんなロールプレイなのか自然と期待は高まっていく。クレイジーって言うくらいだから、相当クレイジーなんだろう。
「……分かりました、やります。最初に言っておきますが、相当口が悪いのでドン引きすると思います」
「楽しみっス!」
「あとで猫神ちゃんにも教えてあげないといけませんね」
「そうじゃな。キムンカムイ、録画しておいてくれるか」
「はい。準備はできています」
「……」
茜ちゃんを仲間外れにすると拗ねちゃうからね。諦めて録画されるか、茜ちゃんの前でもクレイジーになるか、どちらか選んで欲しい。1回で終わる録画の方が良いと思う。
「装備を変えますね」
「装備からなりきるなんて、本格的っスね!」
「黒一色ですか。中二病というやつでしょうか」
「うぐっ」
「ははは。昔は若かったってことさ」
その冷静な考察は心の柔らかい部分をえぐったようで、ひざを折る寸前まで理恵さんを追い詰めた。
「かっこよくて良いじゃないっスか!」
割とそういうのが好きな愛理ちゃんは肯定的だ。自分の魔法に中二病的な技名を付けているのはだてではない。
黒のコートに黒のシャツ、黒のパンツ。そして、指ぬきグローブもしっかりと真っ黒。全身黒づくめになった後は、ショートの髪を片側だけ耳にかけて、ヘアピンで固定すれば完成。
ギラリと目つきが悪くなり、手はポケットの中へ。
「おめえらがマヨヒガってやつか。俺は後藤理恵。ゴリエって言ったやつはぶっ飛ばす」
理恵さんのロールプレイが始まった!
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