宣戦布告

「アスカ〜いるかー?」


 御堂アスカの屋敷にスーツ姿の男がやってきた。


「誰かと思ったら兄貴か…どうした?」


 いつものごとくリビングにてコーヒーを片手に新聞を読んでいたアスカは実兄アオイが来ても変わらず読み続けた。

 アオイの後ろにはアオイの秘書を務める人形のアマリリスがいた。


「お久しぶりです。お父様」


「リリスさ〜。会う度にその呼び方やめてくんない?」


 アマリリスことリリスはアスカが製作した人形である。人形にとって創造主は親であることには間違ってないが、お父様という呼び方はアスカは好きではなかった。


「ふふ。冗談ですよ、アスカ様」


 お父様という呼び方はアスカをからかうための言葉であり、彼女は笑っていた。

 そんな2人のやり取りに気に食わないものが1名いた。キッチンにて洗い物をやっていたティアナであった。


「リリス。ご主人様に対して無礼ですよ。やめなさい」


 タオルで手をふいてリビングの方に向かってきたティアナはリリスを諌めた。


「あらお姉様。相変わらずの私に当たりが強いですね」


 不機嫌そうな顔をしているティアナを気にせずにニコニコとリリスは笑っていた。

 ティアナとリリスは同じ創造主であるアスカによって製作されているため姉妹である。ティアナが先に作られその後にリリスが作られた。

 そのためティアナにとってリリスは妹ということになる。


「別に普通よ」


「そんな顔をして、美しいお顔が台無しですよ?」


 2人のやり取りをアオイとアスカは眺めて「またやってるよ」という顔をお互いにしていた。

 ティアナに臆せずに煽っているリリスにティアナの眉間に皺がよる。


「というか、アオイ様はともかくどうしてあなたが来てるの?留守番でもしてなさい」


「アスカ様ぁ…お姉様が酷いこと言ってきます…」


 か弱い声で子猫のようにアスカにすがりつくリリスにアスカは苦笑いしながら彼女の肩をポンポンと叩いた。


「ティアナ…。妹をいじめるなよ」


「離れなさいアマリリス…。私を怒らせたいの?」


 冷たいハイライトの消えた眼でリリスの方を見てくる。流石にやばいと思ったのかリリスはアスカから離れてアオイの元に戻っていった。


「話が進まねぇよお前ら。アスカどうだ?人形狩りの件は?」


 アオイは2人を窘めてようやく本件に入った。彼が来たのは、アスカに頼まれた事件の情報を提供するためであった。

 アオイは人形ディーラーをやっており様々な情報網を持っている。それだけでなく彼もまたあの御堂家の1人であり、表社会のことも知っていれば裏社会のことも多少なりと知っている。


「人形狩りの犯人はどうも虐待されていた人形らしい…。その後オーナーを殺して消えたとさ」


「虐待か…」


 人形は人にとっての良き隣人とは言われるものの、中には奴隷のように扱う者たちもいる。

 アスカは自分が作った人形がそのような目にあうのが酷く嫌うため、専属のディーラーであるアオイには購入者の下調べをしてもらっている。

 人格に問題のある人間には決して販売しないようにしているのだ。


「ただな。お前も知っている通り人形にはオーナーに反撃などを行わないようにセーフティプログラムがあるんだが…」


「プログラムを消されたってことか…」


 人形は人間よりも何十倍も力を持っており、もし反抗などされると人間はひとたまりもない。1度暴走し出すと周りも大きな被害をうみかねないことからセーフティプログラムを組み込むこと義務付けられている。

 それを消すということは重大な違反であるものの、人形が自身で消すことはできない。

 そう考えると、その人形に手を貸した人形師がいるということにもなる。


「アスカまさかとは思うが…」


「兄貴。それはやめよう…」


 アオイは心当たりのある人物を一人思い浮かんだようだったが、アスカはそれ以上は言わせなかった。アスカ自身にも一人脳裏によぎった人物がいたがそれ以上思うことはやめた。


「……。まぁいずれにせよ、暴走した脱法人形と手を貸した人形師どちらもとっちめないといけなさそうだな」


「アオイ様、アスカ様」


 アオイの後ろ控えていたリリスは窓を指さしていた。彼女の指の先には換気のために開けていた窓。そしてそこには身に覚えのない紙切れが落ちていた。

 アスカたちの代わりにティアナが取りに行くと紙を拾い上げて少し静止した後アスカの方へと持ってきた。


「ご主人様…。これ……」


 ティアナから貰った紙切れにはお世辞にも綺麗とは言えない字で何やら文章が書かれていた。



 ---御堂アスカへ


 これ以上私のことを詮索するな。

 この忠告無視して詮索を続けるようならば、

 必ず後悔させてやる。


 ---人形狩り



「……。ふっ。望むところだ…」


 アスカは宣戦布告とも呼べるその文章に不敵に笑っていた。

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君は愛しき我が人形 石田未来 @IshidaMirai

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