オーナーと人形
アスカは直近に被害のあった人形オーナーの所へ赴いた。オーナーはあの御堂アスカが尋ねてきたことに大変驚いていたものの、事情を聞いたことで家の中へと招き入れてくれた。
応接室に通されたアスカは本革の高級そうなソファ座りオーナーの男性に話を聞くことにした。
ティアナはソファは座らずに後ろの方に控えていた。
「まさかあの御堂アスカ先生が訪ねて来るとは思いませんでしたよ」
「いや、突然で申し訳ない。実は人形狩りについて話を伺いたくて…」
人形狩りという言葉を聞いた時オーナーは案の定、暗い表情へと変わった。
まだ大して傷も言えてない時に当然ではあった。
「はい…。私の人形は先日の人形狩りに襲われて廃棄処分に…
人形には
しかし
人形狩りは被害者の人形たちの核を完全に破壊してしまっているため、彼女たちの人格というのは戻ることは無い。
つまりは永遠の別れとなってしまったのだった。
「レイザは……私の人形は…とても優しい子でした…」
オーナーは背後にかけてあった絵画、おそらくはそのレイザと呼ばれる人形の書かれた絵を見てそう言った。
「あの子はいつも私のことを気にかけてくれてね…。まぁ…人形とオーナーという関係だから当然と言えば当然なんですけど…」
オーナーの男性の顔は悲愴感に満ちた顔で絵を見つめている。
「確かにそうかもしれません。でもレイザさんは間違いなく、あなたのことを愛していたと思いますよ…」
アスカは気休めにもならないかもしれないがオーナーにそう言葉をかけた。
「どうして…レイザがこんな目に……合わないといけないんですか……?あの子が何かしたんですか………」
アスカの方を向いたオーナーの男性はポロリポロリと涙を流した。彼女の絵を見て色々な思い出が頭に駆け巡ったのだろうか。涙が頬を伝って行くのがわかる。
「どうして……!!!レイザがこんな目に合わないといけないですかぁ!!!うっっ!!!」
テーブルを叩いて感情を爆発させる。アスカには慰め言葉が見つからなかった。いや、今の彼には言葉など何も響かないと感じたのだ。
ティアナもまた、オーナーの男性の桐島の姿にかける言葉がなく黙っていた。
「桐島さん」
「………。すみません…。取り乱しました…」
桐島はズボンのポケットからハンカチを取り出して涙を拭った。
「あなた素晴らしいオーナーですよ。そこまで人形のことを思ってくれて」
アスカは彼に優しく言葉をかけた。人形師として人形に愛情を持ってくれているオーナーというのはありがたいのである。
もちろん桐島のようなオーナーばかりでは無い。中には道具のように扱い、酷いことをするものだっている。だからこそ彼の優しさは素晴らしいものであった。
「私は人形師として今回の事件は許せない。必ずあなたとそしてレイザさんの無念を晴らします」
「御堂先生…」
「私に任せてください…」
桐島オーナーの怒りと悲しみ満ちた拳を掴んでアスカはそう答えた。
「お願いします……」
その後ある程度落ち着きを取り戻した彼から事件当時のことや犯行現場のこと聞いた。アスカに全てを託した桐島オーナーは惜しみなく情報を伝えてくれたのだった。
彼の家を後にしたアスカとティアナは他の被害に遭われたオーナーのところにも向かった。情報を提供してくれた者もいれば、思い出したくないと言って門前払いされたところもあったがそれなりの情報は集まってきた。
日が沈みかけたころ屋敷に戻る2人は並んで歩いていた。
「ご主人様」
「ん?どうしたティアナ?」
ティアナはアスカの方を見た。
「私は人形狩りを許せないです。オーナーと人形を永遠に引き離すなんて他人がやっていいことじゃないですよね?」
ティアナは珍しく本気で怒っていた。今回被害者のところに訪れてオーナーたちのそれぞれの思いを聞き彼女なりに思うことがあったのだろう。
「もちろんだ。必ずこの事件は解決させるぞ」
これ以上桐島オーナーたちのような被害者や哀しみを増やしてはならない。アスカは心の中でそう誓った。
アスカの横顔を見てティアナは微笑み、ふと空いていた右手を彼女は握ってきた。
「ん?どうしたんだティアナ?」
「ふふ。私はずっと傍にいますからね?」
彼女の微笑みは優しく慈愛に満ちたものであった。ティアナはアスカにとって大切な存在である。彼にとって人生のどん底だった時にも傍にいつづけてくれたのである。
それは人形とオーナーという単純な関係では言い表せない特別なものであった。
アスカにはこれまで幾度も大切なものを失ってきた。最愛の母、自分が初めて作り上げた人形、そして1年前の事件で暴走した人形。アスカはあまりに大きなものを失い続けてきた。
しかし何時でもティアナは傍にいてくれたのだ。
人形の本来の存在意義である、人の良き隣人、まさにそれを体現していた。
「ありがとう。ティアナ」
アスカはこれまでも、そしてこれからもお世話になるであろう彼女にお礼を言った。
そして2人は仲良く手を繋いで屋敷の方へと戻っていった。
「……」
帰路へとつく2人を遠くで見ている者が1体、影を纏っていた。
「奴が御堂アスカ…」
黒フードを頭からあげて2人を見つめる。巷を騒がせている人形狩りのエヴィーナであった。
フードをあげ翡翠色の髪が街灯に照らされ鮮やかに光る。
彼女が見つめるアスカの横には楽しそうに話しているティアナが目に入った。
「気に入らない…」
以前予後不良にしてきた人形同様に彼女もまたエヴィーナにとっては自分とは正反対の境遇を送っている彼女に強烈な嫉妬を感じていた。
エヴィーナは決めた。次のターゲットはあの人形にすると。
「あー。やめときなー」
どこからともなく声がした。
「誰だ…」
住宅の塀にその人物は立っていた。
金色髪をなびかせタートルネックの服にコート羽織った人物。不敵な笑みを浮かべてエヴィーナの方を見ていた。
「アキラ…」
「あの人形、化物みたいに強いからさ。
君、殺られるよ?」
塀から飛び降りてエヴィーナがいる同じ地面の上に着地した。アキラと呼ばれる人物はエヴィーナの方に歩いてきて通りすがらそう答えた。
「今の私よりか…?」
すれ違いざまにそう言われたエヴィーナはアキラの方を振り返り問いかける。
「うん、天と地の差」
アキラははっきりとそういった。さすがにそこまで言われたこともありエヴィーナは不快な顔をしていた。
「あの人形は天才御堂アスカの作り出した最初期型の人形、シリアル5のうちの1体」
「シリアル5?」
エヴィーナ自身には聞いた事のない言葉であった。どう説明するか考えて頭をかきあげたアキラは言葉を見つけながら言った。
「まぁ…簡単に言うとアスカが作った1番目から5番目までのイカれた性能を持つ人形たちのこと」
シリアル5とはアキラの言葉をもう少し分かりやすく説明してしまえば、御堂アスカが人生で作った人形を順番に数えて言った際に、1番目から5番目まで人形たちのことを指し、彼女たちは御堂アスカの持つあらゆるものを詰め込んだ作品たちである。
自分自身が満足するままに作ったため、スペックが一般的な人形たちとは桁違いであり、兵器と言っても差し支えないものであった。
人形師界隈では知れ渡っており、およそ凡人では作ることの出来ないような人形を作ったことが御堂アスカを天才と呼ぶ所以である。
「私もあんたに変えてもらったのだが?」
「いや、私はあの子には遠く及ばない」
アキラは先程まで顔とは一変真顔になりエヴィーナを見た。
「まぁ…好きにしたらいいよ…」
そう言って彼女は再び向きを変えて手を軽く振って何処かへと消えっていった。
「ふっ…何がシリアル5だ……」
「必ず地獄へ落としてやるよ……」
エヴィーナはニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
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