ガサ入れ魔王城
ムネミツ
第1話 ガサ入れ魔王城
我輩、魔王ゴートランドには三分以内にやらなければならないことがあった。
「オヤジ! もとい、魔王様! 魔王軍の財産の持ち出し終わりやした!」
「よし、お前も国に帰れ! 勇者パーティーに立ち向かうんじゃねえぞ!」
「そんな、オヤジ! 俺にも戦わせて下さい!」
「馬鹿野郎! 子分を死なせる親があるか、田舎の農場で達者で暮らせ!」
我輩は玉座の裏の隠し通路を開け、世話役のミノタウロスに逃げるように叫ぶ。
「オヤジ、オヤジも生き延びて下さい!」
「ああ、こんな所でくたばってたまるか!」
ミノタウロスが逃げて行く、これで良い。
勇者ブレイブめ、赤毛の凶暴な女勇者らしいがそんな女がいてたまるか!
玉座の肘掛けから水晶玉を取り出して外の様子を確認する。
四天王なら、先祖代々仕えて来てくれた四天王なら何とかしてくれるはず!
『おうおうおう、ここをどこの魔王城だと思っとるんじゃい!』
大地の四天王、門番のロックゴーレムが赤髪ロングの野性的な目付きのちっこい音女勇者に脅しをかける。
『あん? たかが岩の癖にあたしの前に立ちふさがってるんじゃないわよ!』
いや、ガラ悪いなこの勇者? パーティー組んでねえよ、ソロだよ。
頑張れロックゴーレム、我輩は信じてるぞ!
『あんた何か魔法も聖剣もいらないわ、勇者パンチ!』
『グワ~~ッ!』
ロックゴーレム~っ! ワンパンで倒しやがったこの勇者。
『ドロップ品は無しね?』
勇者が超高速で通路に仕掛けた罠とか無視して突っ込んで来る、恐いよ!
だが、我輩の為に戦ってくれる四天王の雄姿を見届けねば!
『水の四天王、フローズンです! ここで死ねば勇者もただの冒険者!』
真っ白な女性型モンスター、氷だけど水の四天王のフローズンが立ち塞がる。
『邪魔よ、勇者ファイヤ~~~ッ!』
勇者の火炎魔法により、フローズンは断末魔の酒部も上げる間もなく消えた。
『風の四天王、ぶつ切りのシルフ!』
『勇者スラッシュ!』
『あば~~っ!』
着流し姿の風の妖精シルフは、長ドスを振るい立ち向かうも勇者の聖剣により輪切りにされた。
『来やがったな極悪勇者! 最後の守りはは俺様、炎の四天王ことサラマンダー様が相手だ!』
『暑苦しい、勇者キック!』
『ぐわ~~っ!』
さ、サラマンダ~~~っ!
おのれ勇者! 魔王軍に救いはねえのか!
家のシノギは、地域の縁日でパチモンの勇者グッズを売ったりしていただけなのに!
ロックゴーレムは射的屋で的当ての的。
シルフは切れない包丁の実演販売。
フローズンはかき氷屋で、サラマンダーは焼き芋屋と他所の所よりかはずっと真っ当な魔王軍をしてたって言うのに鬼か!
全ての四天王が全員倒され、オリハルコンで出来た玉座の間の入り口が叩かれる。
「おらっ! さっさと開けなさいよ、勇者様のガサ入れよ!」
「ええい、おのれ勇者! ならば来るが良い!」
「やかましいっ! さっさと私のゴールドと経験値になりなさい!」
何て正義感の欠片もねえ勇者だ!
玉座の扉が蹴破られる。
我輩の前に立つのは赤髪の悪鬼、勇者ブレイブ。
「おのれ、鬼、税務署、勇者! こうなれば貴様をくっころしてやる!」
我輩も魔王の端くれ。勇者なんかには負けない!
ローブ姿から瞬時に漆黒の鎧兜を身に纏い、魔剣を抜いて勇者へと遅いかかった!
「勇者スラ~ッシュ!」
「あば~~っ!」
だが、我輩の抵抗もむなしく勇者の一撃でパンツ一丁にされ敗れてしまった。
「……ちっ、ろくにゴールドもドロップも落とさないわね魔王の癖に?」
「……くっ、殺せっ!」
「顔は良いわね、ならお望みどうりにしてやるわ♪」
かくして我輩は、チビッ子女勇者ブレイブにくっころされたのであった。
「ほらあんた、次の魔王城へガサ入れに行くわよ!」
「ひいっ! まだ七男に食後のげっぷをさせてないから!」
我輩は玉座の間で、赤子達の世話をしつつ妻となった勇者ブレイブにせかされる。
あれから七年、勇者ブレイブのテイムモンスター兼夫にされた我輩は七人の事勇者の世話に追われる主夫として暮らしていた。
勇者のガサ入れには勝てなかったよ。
ガサ入れ魔王城・完
ガサ入れ魔王城 ムネミツ @yukinosita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます