【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿①ぶちまけられた三分マヨネーズ編~
竹神チエ
ぶちまけられたマヨネーズ
犯人Xには三分以内にやらなければならないことがあった。
残り三分で第一発見者が到着するからだ。
Xは興奮を押さえつつ、冷静に部屋の様子を改めて確認する。
左利きのマヨネーズ氏の体内液状物質(マヨネーズ)が、壁、窓、絨毯と、そこら中にぶちまけられているのだった。
目を覆いたくなる悲惨な現場である。
しかしXは大満足の笑みを浮かべる。
「フッフッフ、わたしの仕組んだこの完全犯罪の謎を、君は解けるだろうか? 頑張りたまえ、右利きのケチャップくん。わたしはいつでも君を待ち受けているよ」
宿敵ケチャップ名探偵が驚く表情を思い浮かべ高笑いした犯人Xは、静かに部屋を後にした。
——そして、三分後だ。
「きゃー!!」
悲鳴をあげたのは左利きのマヨネーズ氏の姪マスタード嬢である。彼女は助けを求めるため、急いで外へと駆け出した。
◇◇◇
ドドドドドッ、ドドドドドドッ。
凄まじい地響きである。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが、ソースソースディップ町のメインストリートに到着しようとしていた。このままでは何もかも滅茶苦茶になってしまう。
するとそこに立ちはだかる人物が。
「こっちに来るんだ、バッファロー諸君。広い草原へ案内する、さあ!!」
赤いボディがトレードマークの右利きのケチャップ名探偵だ。彼は探偵帽を脱ぎ捨てると、出現した白いキャップの頭頂部をパカリと開ける。そして腹に力を込めて叫んだ。
「ケチャップ・スプラッシュ!!」
ブシャッ!!
赤い液体が飛び出す。ケチャップ名探偵の体内液状物質(ケチャップ)が噴出したのだ。それはまるで方向を指し示す矢印のように宙に長い筋を描いた。
「!!」
猛然と突き進んでいたバッファローの群れの目に新たな光が宿る。ケチャップ名探偵の声がさらにバッファローたちを刺激した。
「こっちだ、わたしについて来なさい!!」
体内液状物質(ケチャップ)を噴き上げながら走る右利きのケチャップ名探偵。その後ろを追うバッファローの群れ。
ケチャップ名探偵の体内液状物質が半分になった頃、目的の広い草原が見えた。
「さあ諸君、ここからは安心して駆け巡りたまえ。君たちを邪魔するものはなにもないからね」
猛追してくるバッファローの群れに道を譲るケチャップ名探偵。こうして無事にソースソースディップ村の危機を回避したのであった。
「フー、やれやれ。休憩だ」
ズボンのポケットからトマトジュースを取り出すと、ごくごく飲む。スケルトンになっていたケチャップ名探偵の顔が再び赤く染まると、
「せんせーいっ」
緑の男の子が、探偵帽を振り回しながら、こちらへ向かってきた。
「やー、バジル。帽子を拾ってきてくれたんだね、ありがとう」
「どういたしまして、先生」
このバジルくん。ケチャップ名探偵の弟子であり助手である。
「先生。ぼくにはわかりましたよ」
へへんと鼻をこするバジルくん。
「先生はバッファローたちが赤色に興奮するとわかっていたから、ご自身のケチャップで彼らを刺激して草原へと誘導したんですね?」
「トーメイトウ(ご名答)!」
拍手するケチャップ名探偵。胸を張るバジルくんを褒めに褒めちぎる。
「君は利口な少年だ。ぼくを追い抜くのも時間の問題だな」
「またまたー。でも先生の勇敢さには驚きました。よくバッファローの群れに踏みつぶされませんでしたね」
「ハッハッハ。ぼくだってヒヤヒヤしたさ。でも足には自信があってね!」
ひょいっと細い足を上げて見せるケチャップ名探偵。
バジルくんがますます尊敬の目で名探偵を見つめていると、
「たすけてー、大変なのー!!」
大慌てで駆けてくる黄色いお嬢さん。
「マスタードちゃん!?」
「バジルくん、大変なの。あっ、ケチャップ名探偵もいらしてちょうどよかった。実は、おじさんの家で大変な事件が起こってしまって」
息も絶え絶えに説明するマスタード嬢。
フンフン話を聞いていたケチャップ名探偵の顔に緊張が走る。
「なんと、左利きのマヨネーズが!? それは大変だ。すぐに現場へ向かおう!」
——果たして、大変な事件とは?
左利きのマヨネーズの安否やいかに。ケチャップ名探偵の真っ赤なリコピンが震える。
「バジル、これは複雑な事件だよ。ぼくが思うに、この事件は……」
【ケチャップ名探偵の事件簿2に続く】
【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿①ぶちまけられた三分マヨネーズ編~ 竹神チエ @chokorabonbon
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