華麗なる(?)デスゲーム帰宅RTA

蠱毒 暦

3-?? 帰宅至上主義者の夏休み

ーーボクには3分以内にやらなければならない事があった。


今日は7月23日……ついにこの日がやってきた。


最新の人工知能が搭載されたVRMMOゲーム。β版とはいえ予約が殺到する中、当時やけくそ気味で応募してみた結果、その何千万の中から抽選で…驚くべき事に参加チケットが当たったのだ。


それを知った日はすごく嬉しかった。その日の帰り道だけは競歩ではなく、走って帰るくらいには。2度も言うが…確かに嬉しかったんだ。


特に着飾る気もなくボクは制服を着て、荷物もスマホ以外持たずに会場に行く。そこで軽い説明があった後、スタッフに全面が白の個室に案内され、慣れないVRゴーグルをつけてベットに寝転がり仮想世界へと入り、グラフィックが良いなと辺りを見渡していた…そんな時だった。


ーーこれで全員、ゲームにログイン出来ました。改めてようこそ、デスゲームの世界へ。


それが聞こえた時、ボクは衝撃を…覚えなかった。むしろ、


(運営、流石に気合いが入ってるなぁ…事前説明が足りないと思ったら…まさか、この仮想世界でゲーム内容を公開するとは。)


デスゲーム物は多少廃れ気味とはいえかなり人気の分類だ。アニメ化された物も数多くあるし、ボクとしても好きな分類に入る。


「デスゲームって、どういう事だ!?」

「説明と違うぞ!!」

「カッコつけが!イキってるんじゃねぇ!」

「お前、ゲームマスターだろ!?」


野次が喧しい。でもまあ…お約束か。やりたくなる気持ちもわからないでもないが、まずはちゃんと司会の話を聞くべきだろう。


ー君達もこうなりたいなら、そうするといい。


空に映像が映っていてそこにはさっきログアウトしてやるとか言っていた男がぐちゃぐちゃになっていた。


周りにいる他のプレイヤーが、絶句していた。


おー中々にリアルだ。グロゲーも嗜む者として、結構いい線を行っている。それにあの噛ませ犬感。なるほどさては運営側だったな?しかもここまでの物を再現するのに一体、どれ程の時間をかけたのか……制作班に座布団一枚だ。


そんな中、誰かがゲームマスターに声を上げた。


「へぇ。面白そうじゃねえか。おいGM、ルール教えろよ。」


よしっ、よく言った!ボクもそこが気になっていたんだ。やはり仮にも1人のゲーマーとして、ゲームの趣旨を把握する事は重要だ。


ーーフッ。よくぞ聞いてくれた!では君達に私からのプレゼントだ。アイテム欄を見てくれ。


ボクは即座にアイテム欄を確認する。そこには説明書が入っていた。



一、このゲームはデスゲームである。強き者が勝ち、弱き者は死ぬ。


ニ、ルールは単純。どんな手段を取ってもいい……相手を殺す。それだけだ。


三、勝利条件は二つ。一つは、自分以外の参加者全員の死亡。


四、もう一つは、七人いる『固有スキル持ち』を全員殺す事である。固有スキル持ちはゲームスタート時点で一般プレーヤー全員に名前以外の顔や身なりが公開される。


五、身内で協力できない様に、軽い『認識阻害』を参加者全員に付与している。


六、本名を言ってはならない。言った場合は、ペナルティが発生する。


七、体力は食事、睡眠以外でも、各地にある回復アイテムでも回復できる。


八、武器はこの説明書と一緒に配布している。他にも武器は各地にあるのでそれも使ってもいい。


九、ログアウトやゲーム内で死亡した場合、現実でも死亡する。


十、この説明を読み終わり次第、参加者はこの都市の何処かにランダムで転送され、到着次第ゲームスタートである。


「…あっ。」


速読してたらいつの間にか建物の中にいた。


(これが転送…か。)


VRMMO…性格上、割と避けていた分類で普段ゲームとかは今までゲーセンとか、パソコンとかスマホばっかだったけど……これは。


「うん…楽しそうだ。」


武器を取りそうとして…ふと思い出す。


(あれ?ゲームで思い出したけど…今日の特別ログインボーナス……取ってたっけ?)


楽しさが一瞬で消し飛んだ。


「…あ、ああ。」


特別ログインボーナス…たしかスマホの奴で一つ、5000日丁度じゃないと獲得できない特殊アイテムが手に入る奴が……その時間が確か…


(受け取り時間が現実換算で後……3分!?)


ゲーム時間はしっかりと管理、計算するべきと日頃から気をつけていたのだが…しくじった。


(……考えろ。)


ーーボクには3分以内にやらなければならない事があった。じゃない、もう2分か!?


考えるな……やるしかない。


普通に考えて、ログアウトボタンを押せば…終われるじゃないか。その後にスマホをひらけば、間に合う……間に合うぞ!!


ーーだが、いいのか?


(そんな事をしたら、運営達の演出をボクが台無しにしてしまうじゃないか。)


それは駄目だ。この日の為に何百人もの運営やスタッフ達が、汗水流して作り上げた物なんだぞ。


なら、どうすれば…


『おいガキ、お前さんは誰だ?…お前はーー』


ーーそうだった。ボクは……


「…ボクは『3代目帰宅至上主義者』だっ!!!」


たとえボクがこのゲームの最初の脱落者になろうとも、離脱…帰宅する事に躊躇いも後悔もない。ゲームが台無しになる?…そんなの今は知った事か!


ーー永遠に続く幸せよりも、刹那の快楽の方が儚く…それでいて、激しく……何よりも、美しいものなのだから。


ボクは即座にログアウトボタンを押した。


……



暗い。どこも見えない…分からない。けど。


「見つけて……新たな道を開拓すればいい。」


日々の帰宅ルートを練るのと同義だ。


ーー後、一分だぜ?


意識が瞬間的に覚醒する。迫り来る天井、扉との距離…競歩換算で二秒…ルートはすでに練った。なら後は華麗に決めるだけだ。


「……っ!」


VRゴーグルを脱ぎ捨て、ベットから飛び起きる。その衝撃を活かし天井に当たらない最低限でバク転を決めて、扉を蹴破った。


綺麗に着地し、スマホの画面を見ようとして…周囲から声が聞こえる。


「なんだこいつ…生き残ったのか!?」

「…上の命令だ、殺せ!!」

「……」


スマホを手に持ち競歩で駆け抜けながら、全ての弾丸を避けつつ進む。


「っ?!調子に乗ってんじゃ…!」

「……。」


足を止めずに拳を軽くいなし、後ろから来る奴にぶつけた。


「ぶっ!?…おい、痛えじゃねえか!!」

「っ、すまんそんなつもりじゃ…」


そんな声を無視して、階段を降りる。決して、飛び降りる真似はしない。安全第一がモットーだ。ここは2階。ここから1階に…


「来るぞ!総員撃てっ!!!」


階段から降りた一本道で待ち伏せからの20人規模での突撃銃の一斉射撃。一般的な帰宅部ならここで蜂の巣だが…ボクを誰だと思っている?


迂回…?答えはノー…こっちの方が近い。

そして、残り時間はあと30秒…時間が惜しい。


なら、ここは…突っ切る。何、当たらなければいいだけの話だ。かの有名な上杉謙信も言っていたではないか。


「…運は天にあり。」

「こいつっ!何でだ!?…当たんねえぞ!!」

「…弾幕を張り続けろ!!」


銃弾の雨の中、競歩のみで巧みに突き進む。何故か笑みが込み上げてくる…競歩のギアを1つ外した。


「…鎧は胸にあり。」

「っ、手榴弾の許可を。」

「駄目だ。施設の過度な破壊は禁じらている。」


会場の出口まで競歩換算で5秒。残り時間は15秒。突然誰かが、何かを投げてきた。


「閃光弾、投擲!!」

「……。」


ボクの視界が真っ白になる。


「よし、直撃し…」

「…!?おい!あいつまだ動いて……!」

「ふ…手柄は足にあり。」


たかが目が見えなくなった程度で、ボクが止まる訳がないだろう?


「っ。は?……何!?」


動揺している間に勢いそのまま、スライディングで誰かの股下を潜り抜け、人間の壁を突破した。


「あの体勢なら、撃てるぞ…っああ!?!?」

「はっ、催涙弾…っ…ぐああ!?」


どうやら適当に奪って、後ろ向きに投げた奴は催涙弾だったらしい。内心、爆発する奴じゃない事にホッとする。


(残り時間は…10秒。ふう…間に合ったぁ〜。)


振り返る事なく、出口の扉を開けて外に出た。少しひらけた所まで来ると、誰かの怒声が聞こえた。


「っ、連絡にあった奴だ!!」

「銃は使うな!避けられるぞ、接近戦に持ち込め!!」


50人くらいの人達がコンバットナイフを持ち、こちらへ全力で走ってくる。


ボクはスマホの電源を入れてアプリを開いた。やはりどんなゲームでも、スタート音を聞くとテンションが上がる。


「…だらぁ!!」

「……」


ストーリー系のゲームは実にいい。多少当たり外れが激しいとはいえ、推しのキャラが1人いるだけで、本当に世界が変わる。没入感がグッと増すと言ってもいい。


「囲め囲め!!」

「くらえ!!」

「……」


初ログイン時のボイス。やはり声優は素晴らしい。ボイス付きのゲームはまるで、そのキャラクターがボク達の側にいるって感じがしてとても良い。だが、一概にボイス付きが良いって訳じゃあないのがミソだ。


「こいつ…俺達を完全に無視してゲームに集中してやがる…」

「ふざけんなよ、ガキが!!」


あ〜可愛いなぁ。癒される…オレンジのリボンつけてて制服姿の茶髪の子っていいよね。よし、特別ログインボーナス獲得成功!!…は?


ボクはスマホの電源を切ってポケットに入れ、初めてさっきから攻撃してくる男達を見た。


「…今、なんて…言った…?」

「は?ガキっつったんだよ!!」

「避ける事しかできねえ卑怯者だよなぁ!」

「ゲームばっかで、聴力ないのかなぁ?ゲーム廃人が!!」


周囲の男達がボクを嘲笑う。正直それは構わない。ボクはそういう奴だ。幾らでも馬鹿にしてくれて全然いい。でも。


「…にするな。」

「?何だぁ、そんな声じゃあ聞こえねえよ?」


ゲラゲラと卑しい笑い声でボクの声はかき消される。もういい分かった。聞かないのなら、全員黙らせてから嫌でも聞かせてやる。そう思いながら、久しぶりに競歩のギアをもう1つ外した。


……



「っ、うぐぐっ。」


気がついたらさっきの場所にいた。武装がなく、ロープで足と手は縄で縛られ、口はテープで塞がれていた。他の隊員はそれをしでかした首謀者を見ていた。


少女は何処からか、ホワイトボードを持ってきていた。


「…起きた?」


皆が戸惑うのをホワイトボードを強く叩く音で鎮めた。


「…ボクが言いたかった事は2つ。」

「……」


少女の声に耳を傾ける。俺達にはそれしかできなかった。


「ボクを馬鹿にするのはいいけど…ゲームを…ゲーム廃人達を馬鹿にしないで。後、ボクの事をガキって呼ばないで……それは師匠しか言っちゃ駄目だから。」

「……?」


意味のわからない話をされて俺達は困惑した。

その反応を見て、少女は眉を顰めた。


「…きっと、分からないって思ってたから…これから話す。1時間、みっちり。」

『…!?』

「寝たら…許さない……から。」


そう言って少女は話す。ゲームといった、娯楽という存在が一体どれ程尊いものなのかや、ログインボーナスの重要性、ゲーム廃人がどれだけの苦労をして日々ランキング上位を守り続けているのか。そして、その人達がいるからこそゲームが成り立つんだという事をさっきとは打って変わって1時間になるギリギリまで、饒舌に淡々と語りきった。


「……これでおしまい。」


最初は皆ちゃんと聞いていたが…途中から段々と眠り始めて、少女がそう言った時には、他の隊員は俺以外全員が眠っていた。


「……」


少女が俺の方に来て、奪ったナイフで足の縄を外した。


「……来て。」


言われるがままに、建物の裏に連れていかれそこで少女は手の縄や口のテープを外し、ナイフを俺に渡した。


「…武装とかは会場の中にある。後は勝手にして。」

「何で…俺の拘束を解いた?」


少女は当たり前のように答える。


「…ちゃんと話を聞いてくれた……から?」

「……俺は。いや、俺達は君を殺そうと、」

「…あ。」


少女はスマホを取り出し時間を確認していた。その画面がチラリと見えて…どうやら今は18時25分だと分かった。


「これから…君はどうするんだ?」

「今更戻るの…恥ずかしいし…帰る。仕方ないから今日は家でゲームしながら、撮り溜めたアニメとか見る。」

「…はは。」


俺は笑った。笑う事しか出来なかった。たかがゲームのログインボーナスを取る為に俺達…警備隊が全員、無力化されてしまったのだから。


「…たかが?…特別だから。」

「あ、そうだな。」


どうやら、少し言葉が口に出ていたらしい。


「…送って行こうか?ここ富士の樹海らへんにあるから、歩きは危険…」

「…平気。慣れてるから……二時間で帰れる。」


行きも競歩で来たからと、とんでもない発言をしてから、少女はまた歩き始めた。


「…おい!」

「……何?」


全く止まろうともしない少女に、全力で並走しながら言った。


「…君の話っ、結構俺的には面白かったぞ!」

「……そう。」


一言だけ言って、少女は森の中へと入って行った。それを見届けて、ため息をつく。


「…とりあえず、他の奴らを助けるか。」


そう呟き、拘束されている仲間の元へと向かって皆の拘束をナイフで解いた。


「……。」


隊員達は眠っている。既に俺は…決めていた。


「すいません……俺は除隊します。」


ホワイトボードに武装の場所等の書き置きを残す。


「一度は諦めた…ゲームクリエーター。もう一回、挑戦したいので。」


高校生の時、将来の夢の発表で、そう言ったら俺の夢をクラスメイトの皆は馬鹿にした。先生や俺の家族でさえも…そうだった。


(だから…諦めてた…けど。)


少女が楽しそうに話をするのを…俺は思わず夢中になって聞いていた時点で分かってた。


「…ありがとう。思い出させてくれて。」


ーー皆が楽しく、夢中になれる様なゲームを作りたい。


無言で自身が持つ武装を地面に落とした。こんな物はもう必要ない。今必要なのは…


「ゲーム制作ツール…というかまずは、パソコンか…実家にまだあったっけ?」


そう呟きながら男はジープに乗って、建物を後にした…裏切りの報復とか、そんな事は心の隅に置いておく。


(もしゲームができたら…最初のテストプレイは是非、君にしてほしいな。)


ーーーきっと3分では帰れそうもない帰路の中、ただひたすらに…どういうゲームを作ろうかと童心に返ったように考えた。


                  了















































































































































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