【KAC 20241】 三分以内に!

小烏 つむぎ

 【KAC 20241】 三分以内に!


 マロンには三分以内にやらなければならないことがあった。


 なぜ三分以内なのか。それはマロンが守らねばならない(手のかかる、身勝手で面倒な)下僕が三分後に戻ってくるからである。下僕が戻ってくるまでにマロンはヤるべきことをヤり、なに食わぬ顔でくつろいでいなければならない。


 この陣地はマロンの庇護のもと、下僕にとって平和で安心出来る空間でなければならないからだ。


 マロンは物陰からヤツの居場所を確認すると、姿勢を低くしてそっとそいつの背後に回った。


 ヤツはすばしっこい。一撃で倒さねば後が面倒だ。三分以内だ。なんとしても三分以内にこの陣地の平和を取り戻さなくてはならない。


 マロンは狙いをつけ狩猟本能のままお尻を振ると、勢いよくヤツに跳びかかった。


 ◇ ◇ ◇


 美鳥みどりは熱々のカップ麺を片手に部屋へと戻ってきた。


  麺は固めでも伸びきってもいただけない。メーカー指定の三分ちょうど。それがベストだと美鳥みどりは思っていた。狭い家とはいえ台所から二階の部屋に戻るには多少なりとも時間がかかる。湯を入れて三分ちょうどにテーブルにつくためには、早め早めの行動こそが勝利の鍵なのだ。


 美鳥みどりがドアに手をかけようとした、その時。


 部屋の中から物が倒れる音、マロンが走り回る気配、マロンの唸り声が同時に押し寄せてきた。


 美鳥みどりは片手のカップ麺のスープを溢さぬように細心の注意のもと、最速でドアを開けた。美鳥みどりは一瞬で中の惨状を確認し、倒れたローテーブルを足で器用に起こすとそっとカップ麺を置いた。


 カップ麺が先か、マロンが先か。美鳥みどり躊躇ちゅうちょは一瞬だった。


 美鳥みどりは「Gホイホイ」(別名、Gの別荘)を張り付けて、箱ごと不快そうに尻尾をパタパタと振っているマロン(ハチワレ、5才、メス猫)を抱き上げた。


 「あんたさぁ、なにやってるの?」


 マロンの尻尾に張り付いた箱の中には、立派なサイズのGが粘着テープに足を取られてもがいていた。


 「ギャーッ!」


 美鳥みどりは思わず手を離した。マロンは半身回転させ、トンと床に降り立った。


 ◇ ◇ ◇


 三分以内、下僕が帰ってくる前にヤツを追い払い陣地に平安を取りもどすことが出来て、マロンは満足だった。


 下僕はいつも通り騒がしく、その上先っちょが鍵折れの自慢の尻尾は何故か重くて不愉快だが、それもヤツを消した今大いまたいしたことではない。


 マロンはもったいぶった優雅なしぐさで腰を下ろすと、けば立った背中を何度も舐めた。


 ただ張り付いたは尻尾を揺らす度に間抜けな音を立てていた。


         ~三分以内に! 完~

 

注)

マロンと美鳥のプロフィールは、紹介文をご覧くださいませ。

 



  

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