あとがき と 解説的なもの

 この物語は、実際に昔、自分が飼っていた猫の話です。色々と改変をしたり、記憶にない部分、自分が知り得ない部分を、猫の視点から想像で補足しましたが、物語の大半は事実です。


 冒頭、猫が我が家に来た時の話は、実は黒猫ベベではなく、白猫ルパンの話です。自分が小学生の頃、我が家にやって来た飼い猫第一号が、純白の猫ルパンでした。名前は、某大人気アニメの方のルパンから付けました。怖がって、物陰に隠れて出て来ないので、スルメで釣って物陰から誘い出したのを、よく覚えています。

 二番目に飼ったのは黒猫ジジです。大人しい子だったと思います。この子を貰う際、白猫と黒猫の両親の間から灰色の兄弟猫が一匹、里親募集に出され、最初はその子がいいって思ったんです。でも先に他の人に引き取られてしまって。代わりに来たのが黒猫ジジでした。名前は勿論、某アニメから付けました。


 その次の飼い猫が、この物語の主人公、黒猫ベベです。自分が中学生から高校生の頃で、ベベという名前は姉が付けました。先代がジジだったので、それに似た名前という事だったと思います。ジジも同じでしたが、漆黒の猫で、暗い場所では黄色い瞳だけが光っていました。

 物語の核である、連れ出されて召使いと離れ離れになる、という部分も、当然のように事実です。車に乗せて、三十分も走ったあたりでしょうか。親が捨てると言い出して、連れて行かれました。自分も後部座席に乗っていて、離したくなかったのですが、ドアが開いた瞬間に驚いたか、もしかしたら親に叩かれたかも知れません。勢いよく車を飛び出して行って、いなくなってしまいました。

 その後、何度か、自転車で近くまで行って探そうとした事もあったと思います。ですが結局見付からず、行方不明になってしまいました。


 飼い猫が野生に放たれると生きていけないと言います。自分はかなり塞ぎ込みました。それを見て悪い事をしたと思ったのでしょう。また親がどこからか黒猫を貰って来ました。それが二代目ベベです。初代ベベに瓜二つで、よく膝の上に登って丸くなっていました。初代の方は、すぐ外に出たがりましたが、二代目はトイレに行く時以外、ほとんど家の中にいました。あまり外は好きではなかったようです。


 ある日、見知らぬ黒猫が、玄関のすぐ外で鳴いていました。やたら人懐こい猫で、首輪はしていませんでしたが、どこかの飼い猫かなと思いました。足元に纏わり付いて、額をスリスリして、自分が家に入る時に、当たり前のような顔で一緒に入って来ようとしました。見覚えのない猫でしたので、ダメだよ、と言って顔の前で両手を広げて通せんぼしたり、強引に家に上がって来るので、抱きかかえて外に出さなければいけませんでした。

 そんな日々が続いて、何かのきっかけで家に入れる事になりました。本編は雷雨の日に家に入れたというストーリーにしましたが、本当に雷雨の日だったかは覚えていません。物凄く汚かったので、お風呂場に直行し、猫用のシャンプーをしました。お風呂場では泣き喚いて、逃げ出そうとしましたが、洗わないと家には入れられません。風呂桶が真っ黒になるほど、泥だらけでした。

 夜、寝る時は、左脇に二代目ベベ、右脇に見知らぬ黒猫、といった感じで抱えて眠りました。この二匹は、本当によくケンカをしました。二代目は大人しい性格で、ほとんど抵抗も出来ません。見知らぬ黒猫の方が攻撃的で、いつも二代目を威嚇し、猫パンチを繰り出していました。だから見知らぬ黒猫の方は、時々家から追い出しました。飼っていた二代目ベベの方が大事だったからです。


 いつからか住み着いた見知らぬ黒猫。これが行方不明になった初代ベベだったのかどうか、真実は分かりません。この黒猫は、初代ベベがいなくなって、数ヶ月から一年後ぐらいに、不意に現れたのです。漆黒の美しい毛並みだった初代ベベとは、だいぶ違っていました。毛は薄汚れて毛並みは悪く、色も真っ黒ではありませんでした。首の周りや、顎のあたりに白い毛が混じっていて、見た目は別猫です。

 それに、鳴き声も全然違いました。見知らぬ黒猫の方は、妙に嗄れ声、かすれた鳴き声しか出ませんでした。初代ベベとは似ても似つかない、姿も声も完全に別ものでした。だから、自分は当時、どこかの人懐っこいだけの、別猫だと思っていました。

 ですが、後々、あれはもしかしたら初代ベベだったのではないか、と思うようになりました。人間は苦労をすると白髪が増えると言います。猫も大変な経験や、恐怖体験を繰り返すうち、黒い毛が白く変わる事があるかも知れません。満足な食事が摂れなかったり、逆に変なものを食べたり。大声で叫び過ぎたり、逆に声を出さない期間が続いて、声帯が上手く動かなくなってしまう事もあるでしょう。漆黒の美しい毛並みではなかった、鳴き声が違った、だから別猫だとは結論付けられません。

 それよりも、足元に額を摺り寄せる姿や、膝の上で丸くなる姿が初代ベベと重なります。何より家に帰って来た時、自分そっくりの黒猫が我が物顔でいて、召使いがそっちばかりを構っている、それを見て嫉妬した見知らぬ黒猫こそ、初代ベベだったのではないか、そんな風に思うのです。


 今回の物語は、こうした実際にあった話をベースに描きました。真実は分かりませんが、どことも分からない、全く見覚えのない場所に捨てられた猫が、何ヶ月もかけて、帰巣本能を頼りに戻って来てくれたんじゃないか。自分は、そう信じます。

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黒猫ベベの大冒険 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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