最終話 最後の言

 すごく大きな音が鳴り響いた。

 ザーザー、ピシャピシャ。

 ガラガラ、ドゴーン。


 ボクの大っ嫌いな水が、体に纏わりついて毛が重かった。

 空は暗いのに、時々ピカピカって光るんだ。

 冷たいよー、寒いよー、怖いよー。


 アタラシイイエダヨの周りを、泣きながら歩き回った。

 そしたらね、召使いが出て来たんだ!

 オイデオイデって、ボクを呼ぶんだ!


 猛ダッシュで召使いの所に駆け寄って、足元で甘えた。

 召使いはボクを軽々と抱え上げると、昔みたいにボクを拷問したんだ。

 体中が痒くて仕方なかったのに、水責めを受けた後は、やっぱりスッキリした。


 それから召使いは、轟音でボクの耳を責め立てた。

 うるさくて堪らなくて、何だか温かい風と、変な匂いがした。

 暫くそうやってボクをイジメると、召使いは満足した。


 ボクは懐かしい、アタラシイイエダヨの中で解放された。

 召使いの膝の上で丸くなって、まだ濡れている体を毛繕いした。

 召使いが、温かくて優しい手でボクを撫でるから、ウトウトしちゃった。


 その時だった。

 誰だ、何だオマエは!

 ボクにそっくりなヤツが、そっと近付いて来たんだ!


 ここはボクの、安心安全な棲み処だぞ!

 オマエなんかこっちに来るんじゃない!

 ボクだけの場所だ、ここから出て行け!


 そう言ってヤツを威嚇してやったんだ!

 ポカリ。

 召使いが、ボクの頭を叩いた。


 何するんだよー、ヤツが悪いんじゃないかー。

 ねえ召使い―、ヤツを追い出してよー。

 ここは、ボクだけの縄張りなんだよー。


 でも召使いは、ボクよりもヤツの味方をしたんだ。

 ヤツを威嚇したらボクが叩かれ、逆にボクを追い出そうとさえした。

 眠る時だって、温かい召使いの脇で丸くなると、反対側にヤツがいたんだ。


 召使いが眠りに就いた後で、何度もヤツを追い出そうと試みた。

 反対側で丸くなるヤツに、パンチを喰らわせてやったんだ。

 そしたら、召使いが起き出して、ボクを外に放り出した。


 ボクより、あんなヤツの方が大事なの?

 悲しいよー、寂しいよー。

 寒いソトノセカイで、ボクは一人、ヤツに嫉妬して涙を流した。


 ボクと召使いどもと、ボクにそっくりなヤツとの共同生活。

 時々ケンカをしたけど、まあまあ上手く過ごしていった。

 それは、温かくて、甘くて、幸せな記憶。


 召使いども、ボクに温もりをくれて有難う。

 白い水も、カリカリも、スルメも、全部全部、有難う。

 ボクは先に逝くけど、温かくて、楽しくて、とっても幸せだったよ。


 またいつか、どこかで会おうね。

 その時は、今度こそ、ボクだけを愛して欲しいな。

 召使いに、ボクの最期の言葉が届くと良いなあ……

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