カイルの受難

相有 枝緖

受難は突然やってくる。

飛び起きたカイルには三分以内にやらなければならないことがあった。


時間までに身支度を整えて、家を出なくてはならない。


寝過ごしたのは、夜遅くまで依頼品を手掛けていたのが悪かったのだが、断れる依頼者ではなかったのだ。


いつもの装備を身につけ、故障がないか確認する。

寝起きの顔を晒すわけにもいかないので、冷たい水で顔を洗い、少し茶色いくせ毛をなんとか整える。

次はアイテム確認だ。

鞄の中には、既に今日必要な道具が揃っていた。もちろん、依頼品も忘れていない。


あと一分。


今日倒すべき敵はもう決まっているので、そのための準備も問題ない。

最低限のアイテムさえあれば、カイルには敵とも言えない相手である。とはいえ、気は抜けない。少し考えて、カイルはアイテムを一つ追加して鞄に詰めた。


部屋を出て、キッチンに常備してあるパンをひっ掴んだ。座っている暇はないので、そのまま咀嚼して飲み物で流し込む。


あと三十秒。


食べながら、すでに用意してあった昼食を鞄に放り込めば、準備完了である。






「ちょっと晴太ようた!挨拶くらいしなさい!」

「んぐ。おはよう!いただいてます!!」

「はい、おはよう。もっと早く起きなさいよ。いっつもギリギリなんだから」

適当にうなずいた晴太は、パンを大きくかじってから牛乳のカップを手に持った。


「晴太、前から言おうと思ってたんだけど」

「んん?」

「あんたね、厨二病だか何だか知らないけど、口に出てんのよ。カイルって誰?俺の考えた超強いチート主人公?あと、授業を敵とか呼んでるわね。そういう設定の方がやる気出るの?」

「ぶっぐぅ!!!」

吹き出しそうになった牛乳を無理やり飲み込み、晴太はキッチンから逃げ出した。


「外ではやめなさいね!あと、宿題は依頼って言うより強制ミッションだと母さんは思うわよ。いってらっしゃい」


背中で母の言葉を聞きながら、晴太は家から走り出た。

理解のある母親は、晴太の黒歴史となる傷を容赦なくえぐっていった。

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カイルの受難 相有 枝緖 @aiu_ewo

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