三分以内

闇谷 紅

ちょっ

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。


「えっ」


 いつもの自分とはちょっと違うトーンの声が出た。まぁ、空に文字が浮かんでたら無理もないであろう。と言うか、訳が分からない。空に文字が浮かんでいるというのも意味不明だし。


「漫画か何かの世界に放り出されたの、私?!」


 って思わず周囲を見回してしまって、気づく。土煙を上げ駆けてくるのは、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだ。いや、バッファローで良かったんだっけとも思ったが、群れの上方にも「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」って説明文が矢印付きで追尾してるので、そう言うコトなんだと思う。


「けど、アレの進行方向に居なくてよかったぁ」


 ホッと胸をなでおろす、私。いきなり進行方向を曲げてこっちにツッコんで来るってこともあるかもしれないので油断は禁物だけど。


「はい?」


 そう思った矢先、空にある〇の部分から人の頭部が覗いた。かと思えば肩が出て胸までが出てあれよあれよと言う内ににゅるりと這い出してきた、人が一人。


「ふっ、おごっ?!」


 そのまま地面に着地しようとして足首をグキッとさせて呻いた。


「着地失敗だーっ?!」

「ぐっ、う、ぐうぅぅ」


 私が叫ぶ間もその人はグキッとした方の足首を抱えてのたうち回っていた。とても痛そうだ、だが。


「これが……どうした。俺には三分以内にやらなければならないことがあるんだ!」


 生まれたての子馬みたいに震えながらその人は立った。文字の〇から出てきただけあって、沿うような使命が与えられてるってことらしい。


「それはいいけど……あそこ、バッファローの進行方向じゃあ――」


 こう、ひょっとしたらあのバッファローの群れを止めるとかそう言うコトなんだろうか。普通に無理そうだけど。


「それは、これだ!」


 バッとどこからか布団一式を取り出したその人は地面に直接布団を敷いて、横になった。


「三分で寝入るっ!」

「バッファロー来るよ?!」


 たとえ寝入れても布団ごと蹂躙されるんじゃなかろうか、あれは。


「うぐっ、足首が痛くて寝付けな、ぎゃあああっ」

「案の定だーっ?!」


 痛がってた時間も三分の内に判定として入れられていたのだろう。布団に入って二分と四十秒ちょっと、バファローの群れは布団ごと寝てた人を蹄にかけた。

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三分以内 闇谷 紅 @yamitanikou

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