3分以内で魔王より10倍強い大魔王を倒せ、だと?先生。それ、死にゲーです!

ライデン

第1魔王は、断末の負け惜しみを叫ぶ。そして、大魔王降臨!?

 俺・天使快斗あまつかかいとには、3分以内にやらなければならないことがあった。大魔王を倒さなくてはならない!


 いきなり、意味が分からないよね。大丈夫、俺にも分からない。


 てか。分かってることだけでも、話せば長くなる。マジ、長いよ?


♠️

天使あまつか君。君を〝大天使だいてんし〟と見込んで…。お願い! 

チートスキルを数個あげるから、異世界に転移し極悪非道な魔王を倒して、世界を救ってきて]


 うららかな春、お昼休み明け。古文の授業中だった。眠すぎるまぶたを必死に空けている状態。


 古文て、日本語だよな? なんで、いっちょん分からん子守歌にしか聞こえないのだろう??


(眠すぎて壮大な幻聴まで聴こえてくるとは…)


 幻聴と誇大妄想。統合失調症かな?

 なんだか、聞き覚えのある声のような気がするけど。


 だいたい。大天使ってのは、恥ずかしすぎる俺のあだ名にすぎない。苗字が天使あまつかってのと、真面目な優等生で頼まれたら断れないとびっきりお人好しな性格のためにクラスメイトからも教師からも便利使いされているだけだ。通っているのも、ごく平凡な公立高。


[幻聴などではありません。さぁ、お眠りなさい。]


俺は眠りに堕ちた。


♠️

 目が覚めると、そこは神殿だった。ギリシャだかローマだか世界史の授業で見たことがある奴みたいな。


 周りには、クラスのみんなもいる。男女合わせて総勢30名。


 目の前には、女神のような格好をした古典の女教師。容姿は美しく、性格はとても優しそうだが、裏表の激しい利己的な性格をしていることもわかっている。


 大方、女神として何か失敗して、その失敗を俺達に押しつけようとしているのだろう。俺は、お前の〝大天使・快斗様〟じゃねーぞ!


(こいつだ。俺に話かけて転移させた奴! しかも、クラスごと転移させやがった!!)


 女神然とした女教師が俺を名指しして転移させたことはみんなに黙っておこう。うん。


 女教師の名前は、古川典子ふるかわのりこ。通称・ノリピー。年齢は自称26歳。本当に年齢が自称通りかは不明。


「はいはい〜! 皆さん、流行りの【クラス転移】ですよ〜。〝いと嬉しき事〟ですねぇ〜。皆さんにスキルとジョブを大盤振る舞いです。先生、実は女神でして…みんなの力でこの世界を救っちゃいましょう! 先生が課すミッションを完遂するまで、皆さんは帰れませ〜ん」


 情報が古い。


 それと、喋り方が胡散うさん臭い!

 どうやったら、そんな胡散臭い喋り方が出来るんだ?



(【クラス転移】なんて、もう流行ってないっての。 この、古文教師!)


 古文教師の悪口は、ともかく……


「え?」


「どういうこと?」


「やった!」


「いやだ!」


「夢?」


「先生、おうちにかえして〜」


「ノリピー、てめえ!」


 クラスメイト達の反応は、まちまちだった。


(ていうか、ノリピー。 必死で眠気と格闘してた俺に〝眠りなさい!〟って言ったの?)


♠️


 そこからは、この世界の魔王を倒すためにクラス全員で猛特訓や実戦の日々。

 女神らしき古典教師が同じ世界出身だったせいか、文化レベルや衛生面や食事のことで苦労することはあまりなかった。


 そして。この世界でも俺は優等生であり、委員長だった。与えられたスキルやHPやMPも他のクラスメイトとは隔絶したほど強力で膨大だったし。【鑑定眼】とかももらってたし。

 まぁ。それらに溺れず、ちゃんと死ぬ気で努力もしたんだけど。


 俺のジョブは、僧侶。HP・MPはこちらの世界に来た時から魔王の10倍あった。素早さと体力は人並みだったが努力の結果、魔王討伐に向かう時には魔王並みになった。


 他のクラスメイトは、どの項目も魔王の10分の1から30分の1以下だ。大魔法や奥義級のスキルを使える者は少数であり、その者達は俺の親衛隊。何故か男女ともにクラスのカースト最上位だったやつばかり。具体的にいえば、〝勇者〟一人、〝大賢者〟一人、〝聖女〟一人、〝


(俺は相変わらず大天使と呼ばれているが……〝勇者〟がよかった)


♠️


 結論から言うと……魔王は、倒せた。


 戦法としては、俺の親衛隊以外のクラスメイトを4つに分けて、タイミングを併せてローテーション。俺と親衛隊は、最初の一発ととどめを担当。あとは、後方支援だ。


 最初の一発ってのは、【魔封波】。相手の魔法をすべて封印して一定時間使えなくさせる俺の魔法だ。

 ただし、遠距離魔法として放つと魔法を反射される可能性がある。

 このコツは、遠距離魔法として放つのではない。拳に宿らせて、相手を殴るのだ!

 それがためのスキル・【バトルマスター】


 親衛隊と他の隊に支援させて一発思いっきり殴る。後はひたすらみんなを回復させたり、みんなにバフを撒いたり、魔王にデバフを撒いたりの後方支援。楽な仕事だった。


「【真空波・中】」


 俺がとどめの魔法を放つと……


「これで勝ったと思うなよ!」


 10mほどの巨体を誇る魔王は、負け惜しみ(?)を叫びながら粉微塵になった。


 俺にとっては息も上がらない感じの楽勝だったが、他のクラスメイト達にとってはかなりの辛勝だったらしい。みんなボロボロ。息をするのもしんどそう。


「快斗君、最後に【エリア自分以外完全ヒール】をかけてあげて。それで帰りましょう! 私達の教室へ。帰ったら、君に伝えたいこともあるし、ね」

 自分も疲れはてているのに大人びた雰囲気で穏やかに慈愛と希望に満ちた言葉を俺に話したのは、〝聖女〟・北川静香さんだった。マジ、聖女。クラスでは、副委員長だった女子だ。


(なんだろう? 俺に伝えたいことって??)

もしかして……。


 膨れ上がる期待と不安。魔王と戦うより胸が高鳴る。



「うん。【自分以外エリア完全ヒール】」

 素直に〝聖女〟の言葉に従って魔法をかけた、その時。


♠️


「魔王を倒したか。この世界の誰も倒せなかった魔王を! まさか、予が戦うことになるとはのぅ。千年ぶりじゃ」


 どこからともなく聞こえてきた厳かな声。


「誰だ?」


 誰何すいかしたのは1番隊の隊長・加藤一かとうはじめ。俺の親衛隊達に次ぐ実力の持ち主で、特攻隊長。この世界でも指折りの実力者だ。



「大魔王・ハーン。予のことを〝魔界の神〟なんて呼ぶ者もおる。どうぞお見知りおきを」


 魔王城の巨大な玉座の影からヌウっとあらわれる人影がご丁寧に挨拶してくれた。

 見た目は、80才くらいの威厳にみちているが枯れ果てた感じの老紳士。身長はせいぜい180㎝程度。魔王の巨体とは比べるべくもない。


「枯れ果てたジジイじゃねぇか。俺でも勝てるぞ」


 加藤はそう言うが……とても嫌な予感がする。



(【鑑定眼】) 


 鑑定の結果。こいつ、全てにおいて魔王の10倍強かった!


 大魔王も、チラリとこちらを見た。


 背筋がぞくっとなる。悪寒というべきか?――むこうからも【鑑定】された?



「魔王を倒した褒美に、遊んでしんぜよう」


 威圧的に微笑みながら加藤に向かって右手の人差し指をくいくいっと動かす大魔王。〝かかっておいで〟のジャスチャーである。



「何が遊びだ? うぉりゃああっつつつー!」


 自慢の槍を構えて突進する加藤。並大抵の魔物なら、一撃で体に大穴があく必殺の攻撃。

 老紳士然とした大魔王にも大穴が開くと思われた、刹那。


 ゆらりと舞うように優雅にステップを踏んで槍を軽やかにかわし、瞬時に間合いをつめる大魔王。そして優しく掌を加藤の腹に当てて……。


「ほいっ」


 気合いも何もこもってない、軽い杖でも持ち上げたかのような声。


「ぐはぁっつつつーーー」


「おや? そなたの攻撃にあわせて、軽くなでてやっただけのつもりじゃったのだが……。千年ぶりじゃと、加減が難しいのぅ」


(【千里眼】)


 少し離れた場所の出来事だったので、スキルを使う。


 そうやって見ると……加藤の腹に大穴が空いていた。薄皮一枚で胴が泣き別れになって無い状態と言ったほうが、わかりやすいかな?


「遊びで死んでしまっては、かわいそうじゃ。治療してやるが良い」


 無造作にヒョイとこっちまで加藤を投げとばす大魔王。


「私が! 【完全ヒール】」


 加藤にいち早く駆け寄って治療を施したのは、北川さん。マジ、聖女。


「ほう……【完全ヒール】が使えるか」


「「【火炎魔法・中】」」


 無邪気に感心している大魔王に、1番から4番隊の魔法使い達4人が一斉に魔法を放つ。


「ふむ……なかなかいじりがいがありそうなボリュームの炎よ。 そなたら、竜はお好きかの? 」


 迫りくる火炎放射に対して微動だにしない魔王は、全ての火炎魔法をその身に受ける。魔法じゃない。分類不能な何かのスキルだ。鑑定結果にも【???】ってスキルがいくつかあった。


 並みの魔物を数10体は、丸焼きにするだろうその攻撃を大魔王は……

 全身から左の掌に集めて粘土のようにこねくりまわす。とても楽しそうに


「ほれ、火炎竜じゃ」


 それから、無造作に投げた!


 その姿は、まさに実物大の竜。芸術点はとても高いが……その実態は、火炎魔法の集合体を増幅させて打ち返したものだ。


 ――多才な奴!



「「【氷魔法・大】」」


 火炎竜の姿の火炎魔法を相殺しようと大魔法を放ったのは〝勇者〟と〝大賢者〟。その称号に恥じない威力の魔法である。


 が……


「ぐ、重っ!? ヤバい、負ける負ける! 

全滅するぅーーー!!」


「〝大天使様〟、助けて」


 大天使様って呼ぶな。この〝大賢者〟!

まぁ。名前は、牧野藤子さん。眼鏡をかけたクラス一の秀才。普段はクールでスレンダーな知的美人だけど。


「【魔法完全防御結界】」


 相殺し損ねた火炎竜魔法のダメージからパーティを守る俺。


「快斗君、こっちも助けて」


 なんだい?〝聖女〟北川さん。


「加藤君の傷が塞がらないの!」


 加藤の元へ行く。【完全ヒール】をかけたにもかかわらず、加藤の傷は開いたままだ。腹から血がドバドバと出ている。


「おかしいな? 【鑑定眼】!」


 ふむ……なんか、回復呪文を弾く呪いみたいなものにかかってるな? なら……


「【解呪】。からの【完全ヒール】」


 もしかして……あいつの攻撃、全部回復魔法を弾く呪い付き??

 厄介すぎる。【解呪】も【完全ヒール】も俺と北川さんと牧野さんしか使えないんだけど……



「ほほう……予の反撃を凌いで見せるか。すごいすごい。遊びとはいえ、ここまでもった奴は始めてじゃ。が、〝大天使〟とやら、まだ隠している力があろう?」

 大魔王まで俺のことを〝大天使〟と呼び始めた。


 隠している力……その名は、【1日3分の絶対無敵時間エンジェルタイム


 効果は、1日に3分間だけ全ての能力値が魔王の10倍になるというもの。


(絶対無敵って、大魔王と3分だけ互角にやり合えるだけじゃん!)


 スキルの名前的に、大魔王の存在を知らなかったな?

ノリピー、てめえ!!


「隠している力って?」


 希望に満ちた目で見つめてくる北川さん。可愛すぎる。


「隠し事とは、水臭いなぁ。〝大天使〟」

 これは、〝勇者〟。もとい、幼馴染の長名なじみさん。


「こんなことも、あろうかと?」

 宇宙戦艦の秘密兵器開発担当者みたいなキャラになる俺。


――魔王を倒したら、大魔王が出てくるなんて聞いてねぇ。想定済みの対策済みみたいな余裕の顔をしてみせたが、こんなの想定してた訳無いだろぉっつつつーーー!



「「「大天使・快斗様!」」」

 羨望の眼差しで俺を見るクラスのみんな。


 


「ちょっと、タンマ!」

 大魔王に、しばしの猶予を願う俺。


「ふむ?」


「望み通り、切り札を使ってやる。その前に作戦会議の時間をくれ!」

 


「ふ。よかろう」

 快諾してくれる、大魔王様。千年間、よほど退屈だったんだろうな。




♠️


 3分間大魔王と互角なら……クラスのみんなの力の分、こっちが有利。勝負は3分でつけるのがベスト。次点は……



 使う技は、【魔封波】を一発。それから、【素早さ最大値の1割減】【体力最大値の1割減】の魔法をそれぞれ9発ずつだ。

 大魔王に跳ね返されないように全て俺の拳で叩き込むわけだが……


(3分で大魔王に19発も叩き込めるかな?)


 成功したら、3分たった後も大魔王と互角以上に戦えるかもしれない。


 ボクシングも1ラウンド3分だけど……。


(無理ゲーじゃね?)


 まぁ。俺は【2回行動】スキルのおかげで、スピードが同じなら相手の倍の手数の攻撃をすることができるのだけど。


 【並列思考】スキルで何度も何度もシュミレーションしてみるが……。


 やっぱり……3分以内にジャブの要領で【素早さ最大値の1割減】の魔法を数発入れてから、動きの鈍った大魔王にありったけの闘気を込めたとどめのワンパンを入れるほうが現実的か。大魔王を【模倣】スキルした回復魔法の効かない呪い付きの一発。


(ボクシングの世界王者をクラスのみんなで1ラウンドKOすると思えば……)


 しくじったら……


(仲良く全滅しようか?)


 で、死に際に北川さんに「ずっと好きでした」と告白しよう!


「お互い、一生懸命頑張ったよね」って柔らかそうな北川さんの胸に顔を埋めて甘えるんだ。そして、お互い息絶える。


(うん、悪くない)


 教師の我儘に付き合って、文句も言わずにクラスをまとめてきたんだ。俺の死に場所を北川さんの胸の中にするくらい、許されるよね? よね?


 古典で言うなら、〝心中物〟だろうか?


「俺達が勝つには、これしかないと思うんだけど」


 不埒ふらち(?)なことを考えながら、作戦を提案する俺。


 親切に作戦会議を待ってくれている大魔王はとてもワクワクした顔をしている。俺にはそれが、無性にむかついた。


「話しはまとまったか? 〝大天使・快斗!」


「戦闘開始3分以内に、ぼっこぼこのズタボロにしてやるよ! 大魔王。いや、魔界の神・ハーン!!」


 俺は、不敵にハーンへ笑いかけた。


「【エンジェルタイム】か」

 ハーンもニヤリと俺に笑い返す。


――※俺の名前にちなんだであろう恥ずかしいスキル名を高らかに読み上げるんじゃねぇ!【1日3分の絶対無敵時間】だし。※


 まぁ、いい。


 俺達の切り札を使った3分間の死闘が今、始まる!



※[作者注]“エンジェルタイム”とは、通常

、猫など(人とか犬とかでも)が今際いまわの時に親しい人に別れを告げるためか、一瞬だけ息を吹き返すことを指す感動的な現象です。主人公の苗字にちなんだスキル名でなければ、まったく恥ずかしいものではございません💦

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3分以内で魔王より10倍強い大魔王を倒せ、だと?先生。それ、死にゲーです! ライデン @Raidenasasin

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