それから、喧嘩は少なくなった。

 いや、そうじゃない。俺が我慢するようになった。何かあっても、俺は怒らないように気を付けた。

 段々とメッセージのやり取りは少なくなって、電話もしなくなって、ただ会う頻度は変わらず会えば楽しく。

 そうやって1ケ月が過ぎたころだった。また、くだらないことで喧嘩をした。内容は覚えていない。ただ、酷くくだらなかったことだけを、しっかりと覚えている。

『1週間だけ、距離おこっか』

『分かった』

 真琴からの返信は早く、ただそれが何故だか少しだけ寂しかった。また、1ケ月前のあの時と似た解放感のようなでも少しだけ重いような、何かを覚えた。

 朝起きてもおはようのメッセージはなかった。

 何か面白いことがあっても、ツイッターでおかしな投稿を見ても、嫌なことがあっても、真琴にメッセージを送ろうとして、それから距離を置いていることを思い出して落胆した。

 馬鹿みたいだなと思った。

 2日が経って、朝起きて身体が酷く重かった。起き上がれないほどに。

 スマホを見ても真琴からのメッセージは当たり前のようになくて、目頭が熱くなった気がした。

『寂しい』

 気が付くとそんなことを送っていて、既読はすぐについた。少しだけ期待して数分だけ待ってみても真琴からの返信はなくて、俺はまたメッセージを送った。

『ごめん、何でもない』

 自分で距離を置こうと言っておいて、たった2日でこの有り様だ。鼓動がうるさい。頭が痛い。

 

 また1日が経った。身体の重さが消えることは無かった。

 布団にくるまれながらスマホを開いて、インスタを見る。

 真琴のインスタが更新されていた。また胸に痛みを覚えながら、俺は迷わずタップした。

 映っていたのは、知らない男と二人で楽しそうにゲームをしている様子だった。

 途端に、愛執とか、寂寞とか、思慕とか、それらが全部狭心に飲み込まれて、一瞬で、単純な怒りに変わった。

 それでもわずかに理性は残っていて、俺は全部を友達にぶつけた。

 腹が立つこと、許せないこと、直してほしいこと、全部を意味もなくただ殴り書いて文章にして。

 それでも収まることは無く、友達の何気ない一言に俺は感化された。

「そのまま送っちゃえばいいじゃん」

 いいわけがない。そんなことをして解決につながるわけがない。真琴が傷つくだけ。そんなことは分かっていたはずなのに、ただ空いた心の穴を怒りで埋めてしまった俺は理性的な考えなんかじゃ止められず。

『分かった。別れよう』

 気が付いたころには、真琴からメッセージが返ってきた。

 あっさりとしていた。メッセージ上だからか、分からないけれど。真琴は落ち着いていて、俺もその時だけはなぜか穏やかだった。おかしいくらいに。

『もう引き留めないよ』

 少しだけどきりとした。

『楽しかった。ありがとう』

『私も、大好きだったよ』

 何かが崩れる音がした。もう、怒りなんて少しも残っていなかった。


 怒りが抜け落ちた穴は、周りにヒビを作って、穴をもっともっと大きくして、また周りにヒビを作って。そうやって俺を飲み込んだ。

 真琴と別れてから、あと2か月で1年が経つ。家の鍵につけたディズニーのキーホルダーが揺れた。別れてから少し経った頃、お土産にもらったキーホルダー。

 貰った時は何も思わなかった。いま思えば、ずっと前から付けていたキーホルダーの、デザインが新しくなった同じものだった。

 真琴は、そんな小さいところまできっと俺のことを考えていた。

 俺の頭から彼女が消えることは無かった。

 ただ絶対に埋められない穴だけは残っていて、鬱になって、それが治ったように見えても少し慣れただけで、また何かあるたびに穴は広がって。

 簡単に心は崩れて。

 真琴との楽しい思い出ばかりが美化されて、喧嘩に塗れた日々は風化して、どうやって生きていたかも思い出せず。

 夢のようだったことだけを覚えている。

 そうだな、あれはまるで、悪夢みたいな青春だった。

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悪夢みたいな青春だった。 天野和希 @KazuAma05

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