だからクラムボンってなに!?

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

クラムボンさんは泡じゃない

 クラムボンさんには三分以内にやらなければならないことがあった。


 自身の存在証明である。


 そもそもクラムボンさんの自分の認知度を危惧している。

 カニの分際ならば知っていて当然だが、人間に知られているかは別だ。

 日本人と呼ばれる人間の分際ならば、聞いたことがある程度の知識は有しているはずだ。


 予め諭しておくと「フラウ・ボゥ」とは関係ない。

 それは機動戦士ガンダムの主人公アムロ・レイのガールフレンドだ。

 結局、別の男性とくっついたけどね。


 ついでに「モランボン」とも関係ない。

 焼肉店で、焼肉のタレのメーカーだ。

 由来は韓国の地名らしい。


 この二つよりクラムボンさんの方が年上だし、間違えないでほしい。

 意外と歴史あるのよクラムボンさん。

 というか文字数と語感がちょっと似ているだけだからね。

 四文字目のボは共通しているけど、本当に縁もゆかりもないから。

 以後、間違えないようにお願いしますよ……ホント。


 さて間違えあるあるも説明したところで、クラムボンさんについて語るね。

 生みの親はあの宮沢賢治。

 そして『やまなし』という作品に登場するのがクラムボンさん。

 そのミステリアスな存在感から「お前は一体なんだ?」と大人気になり、タイトルの『やまなし』より有名なのがクラムボンさん。


 本当に色々な人が考察したんだけど、結局謎のままなのよ。

 かぷかぷ笑ったり、跳ねて笑ったり、とにかく笑ったり、死んだりする。

 この『かぷかぷ』もクラムボンさんの仲間で、宮沢賢治の造語なんだけど、感じ悪い解釈を強要されているんだよね。

 ぷかぷかと浮かぶの反対の『かぷかぷ』だから嘲笑を意味しているとか。

 蟹の兄弟を嘲笑するクラムボンさんとか言われてんの。

 造語+笑う+造語なのに感じ悪いよね。


 まあ感じの悪い『かぷかぷ』のことはどうでも良くて、本題はクラムボンさん。

 一番有力な説と信じられているのが水中の『泡』『泡沫』だけどね。

 由来は蟹を英語にした『クラブ』と、泡が弾けた様子から爆弾を英語にした『ボム』を合わせて、なまらせたものがクラムボンさん。

 つまり蟹の泡と思われているわけ。


 でもね……この説には重大な欠点もあってね。

 蟹はエラ呼吸なわけよ。

 泡を出すのは陸上だけ。

 水中で蟹は泡を出さないからね。

 水中の話だから蟹の泡は存在しないわけ。


 じゃあ本当にクラムボンさんの正体はなに?

 となるわけだけど、ここで一度正体不明とか嘲笑とか、考察した学者に感じ悪くされて、死んだことにされるクラムボンさんの気持ちを考えて!

 ……ではなくて、作中の蟹の兄弟は水底から上を見上げている視点なわけよ。

 プールで潜水しながら見上げたことある?

 あの感覚ね。


 眩い光が水面に拡散されて煌めいてね。

 揺らめく光の柱が降りてくる。

 その光を浴びて、水中には砂か気泡かプランクトンかわからない粒が見えてくる。

 クラムボンさんの正体は舞い上がった砂かもしれないし、気泡かもしれないし、プランクトンかもしれないし、光そのものかもしれない。

 もしかすると幻想的な光景に見入る蟹の兄弟の心そのものかもしれない。


 嘲笑されたと思うのは、自分達のちっぽけさを知るから。

 魚が通っただけでクラムボンさんが死んだのは、幻想の中に現実が割り込み、浸れなくなったから。

 そう考えるとクラムボンさんはエモい存在になるわけよ。


 まあ色々語ったけど、実は宮沢賢治本人が取材されて、クラムボンさんの正体を答えているんだよね。

 驚いた?

 それじゃあ発表するね。


『何なんでしょうね……アレ。まあいいじゃないですか』


 決めてないのかよ!?

 もちろん答えをはぐらかした可能性はあるけどね。

 創造主の宮沢賢治がこう言ったら『クラムボンさんの正体はなにか』みたいな考察がもう野暮なわけ。

 絶対に「フラウ・ボゥ」や「モランボン」と関係ないことはわかるけどね。


 じゃあここまでの話は何だったんだって?

 ただの『やまなし』のお話だよ。

 お後がよろしいようで。



 

 

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