三分以内に電話をかけてきた人の元へ行くまで出れない部屋

「ここは、どこだ?」


 気がつくと早紀は見知らぬ空間にいた。正面には何十もの誰かの名前が書かれた扉が、そして背面にはNEXTと書かれた扉がある。

 それ以外は真っ白な壁だ。


 早紀は学校帰りに電車で寝て、目が覚めるとここにいた。

 通学カバンは手元になく、自分のものではないスマートフォンを握っていた。

 早紀はまずスマートフォンをみた。


「三分以内に電話をかけてきた人の元へ行くまで出れない部屋?」


 スマホカバーにそう書かれていた。

 カメラの下あたりに詳しい説明はメモにあると書かれている。


「メモ? あ、アプリのか」


 ロックはかかっていなかった。

 入っているアプリはメモと電話のみ。

 メモを開くと詳しい説明とやらがあった。


①この部屋は三分以内に電話をかけてきた人の元へ行くまで出れない部屋です。

 三分は通話が切れてからカウントします。

②一回の電話につき一つだけ名前の書かれた扉を開くことができます。

 扉に書かれた名前は電話をかけた人の名前です。

③成功すればNEXTと書かれた扉から出ることができます。

 失敗するとやり直しです。再び電話がかかってくるまで待ちましょう。


「ろくでもない部屋だな。勝手に人を誘拐して、閉じ込めて。条件を達成するまで出しませんって」


 早紀はNEXTと書かれた扉を調べた。

 押しても引いても開かない。

 人の名前が書かれた扉も同じだ。

 PushもPullも効かない。


「電話がかかってくるまでってどれくらい時間かかるんだろう。もうすぐ期末テストだからはやく帰りたいんだけどな」


 早紀は地面にねころがる。

 短く折られたスカートから下着が見えそうになっている。


「このスマホじゃ何もできないし。暇だ。今日はついてないな」


 早紀はスマホを放り投げた。

 ガタンと音を立ててスマホは地面に倒れた。

 数秒の魔があって電話がかかってきた。


「もしもし」


 はやくここから出たい早紀はすぐさま電話に出た。


「助け、助けてください! 閉じ込められて出れないんです!」


 甲高い声が聞こえた。耳にひびく。

 おそらく小・中学生だろう。

 電話先の相手はどうやらまずいことになっているらしい。


「電話ボックスに閉じ込められたんです」


 まるでホラー映画のような状況だ。

 ガンガンと叩くような音も聞こえる。本当に閉じ込められているようだ。

 電話ボックスだから。多分一人だろう。怖いだろうな。


「助けて。助けて! ここから出して!」


 ちょっと母性をくすぐられるような声をしている。

 助けたい、と思ってしまった。

 そうでなくても私は彼女の元に行かなければ出られないのだけど。


「お名前は?」

「佐々木結衣、です」

「佐々木結衣さんですね。必ず助けに行きます」


 必ず助けに行きます、なんてカッコつけたことを言ってしまった。

 やっぱり取り消したい。けどあいにく電話は切れている。

 はやくあの子の元に行かなければ。


 早紀はたくさん並んだ扉から佐々木結衣を探し出し、扉を開いた。

 中にはぐったりとした様子の少女がいた。

 胸がぎゅうっとしめつけられた。

 安心させてまたカッコつけた。


「もう大丈夫ですよ、結衣さん」

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【出張版】〇〇しないと出れない部屋 KAC20241 橘スミレ @tatibanasumile

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