日和と凪砂の函館・札幌・小樽・旭川・帯広を1日で巡る北海道弾丸旅行!
北 流亡
日和と凪砂の函館・札幌・小樽・旭川・帯広を1日で巡る北海道弾丸旅行!
『120km先、右折です』
カーナビが、無機質に告げた。
車内は、エンジンの音だけが響いていた。
時計は11時57分を示していた。予定では、札幌に着いているはずの時刻だ。カーナビの示す到着予定時刻は——16時30分。
雪が、ちらつくように降っていた。路面には薄く雪が乗っていて、点在する
日和は前のめりの姿勢で、両手で強くハンドルを握っていた。例年に比べて雪は少ないとは聞いてたが、そうとは思えなかった。視界に入る全てが白で覆われていた。
凪砂はずっと外を眺めていた。景色を楽しんでいるわけではない。それ以外に出来ることが無いからだ。スマートフォンは圏外で、カーラジオも繋がらない。かれこれ一時間ほど、森と平野と森と平野を眺めていた。
山道を抜けると、また平地が広がっていた。見渡す限りの平地、そして平地。目の届く範囲に街は無い。果てが無いとすら錯覚するほどの長い道路。その先に、また山が見えた。
こんなはずではなかった。そう日和は思った。おそらく、凪砂もそう思っているだろう。
計画は念入りに立てた。2人で行きたいところを出し合って、それを全て周るルートを組んだ。何度も何度も話し合った。北海道を1日で周る完璧な計画が出来上がったはずだった。
8:00 函館着〜朝市で朝食
9:00 お土産購入
11:00 札幌着〜ショッピング
12:00 スープカレー店「奥芝商店」で昼食
13:00 小樽着〜工芸品店でお土産購入
15:00 旭川着〜旭山動物園見学
17:00 帯広着〜豚丼店「いっぴん」で夕食
19:00 新千歳空港着〜帰路
いったい、どこで歯車が狂ったのだろうか。函館で海鮮丼とイカ刺しに舌鼓を打ってる時点では、勝利を確信していた。
日和は法定速度になるようにアクセルを踏んでいた。車。次々と追い抜いていく。函館、室蘭、札幌。何れも北海道のナンバーだ。
『110km先、右折です』
カーナビは、変わらぬ調子で告げる。時刻は、12時を大きく回っていた。雪は、勢いを増していた。視界はより悪くなり、日和の緊張感はより高くなる。車は確実に目的地に近づいてはいたが、依然として、切り貼りしたような景色ばかりが続いていた。
凪砂が小さく息を吐いた。空腹を耐えていると日和は察した。凪砂との付き合いは短くない。日和の空腹感も耐え難いほどに強くなっていた。スープカレーへのこだわりは消えていた。もう何でも良いから胃に入れたかった。道。果てしなく続いている。飲食店はおろか、建物のひとつすら見当たらない。
遠くに、橙色が見えた。日和は、僅かだけアクセルを踏み込む。右側にコンビニが現れた。セイコーマートだ。日和は何も言わずにウインカーを入れた。
2人とも、豚丼を買った。ホットシェフ——店内調理で作られた、熱々の一品だ。
蓋を開ける。香ばしい匂いが車内に立ち込める。日和と凪砂はかき込むように食べた。厚切りでいて柔らかい肉が、甘辛いタレで味付けされていた。濃厚、それでいて脂のくどさは無かった。永遠に、米を食べていられる気がした。
日和は、小さく息を吐いた。あっという間に食べ終えてしまった。ホットコーヒーを一口啜る。雪は変わらず降り続いていた。到着予定時刻は17時30分になっていた。果たして、今日中に札幌に行って、小樽に行って、旭川に行って、帯広に行って、千歳に行けるだろうか。
「ねえ、日和」
凪砂が、ぽつりと口を開いた。
「また来ようね」
日和は小さく頷いた。
目的地を新千歳空港に設定して、ゆっくりと走り出した。
日和と凪砂の函館・札幌・小樽・旭川・帯広を1日で巡る北海道弾丸旅行! 北 流亡 @gauge71almi
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