ふたごの男の子のママは推し活がしたい!

小絲 さなこ

※※※

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。


 

 五分あればなんでもできる──フルタイムで働きながら三人の子供をワンオペで育て上げた母がよく言っていたことだ。


 じゃあ、三分だったら?



 

 

 私は調教師だ。

 ふたごの男の子の調教師。

 毎日「私は調教師。この子たちを人間にするのがお仕事……」と唱えながら育児をしている。

 

 こどもを動物扱いするなんてひどい?

 いや、だって怪獣というか獣というか、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れって感じなんだよ! 二頭だけど。

 子供がこんなにパワフルだってこと、知らなかった。


 

 世間は三連休だが、観光協会に勤める夫は昨日から泊まりがけの出張に行っている。

 いつもは舌打ちしたくなるワンオペだけど、今回は違う。


 なぜなら、私の最推しが今夜ライブ配信をするから!

 

 夫は自分のことは棚に上げて、私が推し活してると拗ねる。

 ヤキモチ妬かれるのは正直悪い気はしないが、子供もいるんだし、アイドルとどうにかなろうなんてこれっぽっちも思ってない。

 私はナントカ坂のナントカちゃんをニヤニヤしながら見ている夫のことを見て見ぬフリしてるのに。

 夫も私を見習って懐の広さを見せてほしいものだ。

 

 ま、そんな夫も明日の夜まで不在なわけで……

 

 今夜、私はただの女になる!


 

 配信の告知が出てから、子供たちが体調を崩さないよう、いつも以上に気を配ってきた。

 こういう時は、たいていどちらかが熱を出すものだが、幸運なことに今日のふたりは元気いっぱい。

  

 パワーみなぎる怪獣たちを、いつもよりもハードに遊ばせた。昼寝の後も走り回ったので、私もクタクタだ。

 入浴後、全裸で叫びながら別方向に走り回る獣たちを捕まえ、どうにか服を着せた。

 夕食は大好きなハンバーグにしてご機嫌を取ることも忘れない。

 絵本を読み聞かせ、添い寝。

 うっかり睡魔の誘惑に負けそうになりつつも、ふたり仲良く夢の世界へ遊びに行ったのを確認し、そっと部屋を出る。

 

 静かにかつ手早く、まさに烏の行水のようにシャワーを浴びると、すでに八時半!

 配信後には家事をしたくない。そのまま夢見心地で眠りにつきたい。

 鼻歌を歌いながら洗濯物を片付けていると、電話が鳴った。


 

『夜遅くごめんなさいねぇ〜。頼んでおいたジャム、今日届いたから、お礼言おうと思って……』

 


 義母との関係は極めて良好なのだが、今日は勘弁してほしかった!

  


 先日送ったジャムは、この辺りの名産品である。

 生産数が限られているため、直売所とネット通販でしか購入できないのだが、義母はインターネットをうまく活用できない。

 そのため毎年私が直売所で購入し、子供たちが描いた「おじいちゃんとおばあちゃんの絵」を添えて送っているのだ。

 

 天候の影響で宅配便の配達が遅れているという報道があったから、ちゃんと届いたよって連絡したい気持ちは、とてもよくわかります。

 


 ……良い人なのよ。ほんっとうに義母は良い人なの!

 

 だけど、やはりどんなに良い人でもちょっとアレなところはあるんだなぁと思う。

 

 義母は、話が長いのだ。



 可愛らしい嫁の手本のような相槌を打ちつつ、内心舌打ちする私はひどい嫁だろうか。

 ちらちらと電波時計を見る。

 う、うおお……あと四分!

 

 義母の話は、まったく終わる気配がない。


  

 くっ……お義母かあさんから電話がかかってくるまでは順調だったのに!

 


 そう、怖いほど順調だったのだ。

 

 あぁ……せっかく魔獣たちを手懐けて寝かしつけたというのに!

 ラスボス? ラスボスなの?

 義母がラスボスとか、倒せないじゃん!

 このまま、ゲームオーバー?


 いやいや、諦めるのはまだ早い!

 どうにか……どうにかしてこの電話を終わらせる方法は……



「んぁー、ママぁ〜」

「ままぁ……」

 

 甘えた声の二重奏に振り返る。

 

 夢の世界から戻ってきた天使たちが、こちらに近寄ってきていた。





 

 


 

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