第8話 4人のライザーとサソリのホムンクルス
「助太刀するぞ舞獅巡!」そう言い風来はトンボのホムンクルス、そしてワールドライザーと戦闘をする巡の方へと駆け出した。
「ありがたい…けどなぜフルネーム?」巡の疑問に風来が答えることはなかった。それから風来は
ワールドライザーを殴りつけ、そのまま交戦へと場を運んでいった。「だれだか知らんが、同じ参加者ならおれは手加減せんぞ!」そのまま風来は徒手空拳による凄まじい打撃をワールドライザーの身体に与え続けた。しかしワールドライザーも戦闘の意思は失っておらず、パスの力によって各部に生やした魚の鰭によって風来を切りつけた。
そんな攻防の行われている横では、巡がトンボのホムンクルスに打撃を与えようとするものの、ホムンクルスが自らの羽を広げ飛び立つことによってそれを回避するということが幾度か繰り返され、そしてホムンクルスはじりじりと巡の体力を削るように、確実に攻撃し続けていたので、次第に巡は防戦一方の状況へと追い込まれていった。
その状況をまずいと察知した風来は、これを使えと叫んだあと、ひとつのパスを巡のほうに向かって投げた。それは風来がチャリオットライザーから自分を助けたときに使った、A《エース》のパスであった。巡がパスをライザーギアに読み取らせると、パスは粒子状態を経由したあとに、一対の炎の翼とひと振りの炎の剣と化した。
巡は炎の剣を投げホムンクルスに突き刺し、それを地面に固定したあと、天高く飛び上がり、ホムンクルスの頭部を強く蹴った。血飛沫を撒き散らしながら異形の頭部が弾んだあと気化し、身体のほうもそうなり、あとにはそのホムンクルスの心臓部であるパスだけが残った。
「これが…あのホムンクルスの…」そう言い巡がトンボのホムンクルスのパスを手に取ったときだった。コツコツと足音をたてながら巡の方へとサソリのホムンクルス――しかしそれは普通の、さきほど倒したトンボのそれを初めとしたホムンクルスとは違い、人型の物体にに生物を無理矢理くっつけたようなグロテスクな姿ではなく、サソリの意匠を全身に凝らした、一種の荘厳さを持ったホムンクルスであった――が近づいてきた。
「サソリ……?」と巡が困惑を口にし、ワールドライザーもそのような態度をとった。いつの間にか風来とワールドライザーの戦闘は止んでいた。
その瞬間、ものすごい速さでサソリのホムンクルスの局部に生えた先端に針のある尾が巡を襲うべくすさまじい長さに伸びた。
巡は辛うじて避けたものの、脇腹に傷を負っていた。
「逃げろ巡!そいつは『クイーン』だ!早く逃げろ!」風来の叫びを聞いたとき、巡は不意に右肩に強烈な違和感を感じたので、そこを見ると、肩から下がバッサリと切断されており、痛みを伴いながら血が吹き出ていた。それにもかかわらず、先ほど倒したトンボのホムンクルスのパスを手に取った巡に風来が怒鳴った。「だめだ、戦うな、今のおまえでは無理だ!わかったなら変身を解除しろ!」その声を聞いたサソリのホムンクルスは長く伸ばした尾で巡を縛り付け、巡はライザーギアへと手を伸ばし変身を解除しようとした。そしてライザーギアを腰から外し、変身を解除した。その身体は右腕など最初からもぎ取られていなかったかのような、五体満足なものであった。
サソリのホムンクルスは顕になった舞獅巡の顔を見て、「マジシャンライザー……舞獅巡……見せてみろ、おまえの成長を」とだけ言い姿を消した。
「なんだったんだあいつ……」這う這うの体になりながら巡が言った。そして巡の中ではふつふつと疑問――なぜ風来はあのホムンクルスについて知っていたのか――変身を解除した途端に、もぎ取られた右腕が再生したのはなぜか――が沸き立った。だがそれに独力で答えを出すことはできない、とりあえずあとで風来にいろいろと訊こう、と思ったところで巡はこれから自分が紗里とデートに行くのだということを思い出した。そして巡が集合場所の喫茶店へ入ろうとしたそのとき、遠くに乱れた前髪で小走りしながらこちらへと来る紗里の影を見つけた。「遅れちゃってごめんなさい巡さんッ!」ゼエゼエと息を鳴らしながらそう言う紗里に、こっちも今しがた来たばかりだ、と巡は言った。「それで、風来とそこのライザーはどうするんだ?」巡の悪態を聴いたワールドライザーは変身を解除し、「おれの名前はディズリーヨ=オズワルド・ブランドーネだ、よろしくなァライザーどもよォ」と中から現れた金髪の男は言った。「ちょうどいい、彼女さんもいることだし、巡には再度いろいろと話しておきたいことがある」。そう水を指した風来に、これのどこがちょうどいい状況なのだろうか、と思った。
「そういえば紗里さん、ここの喫茶店て?」そう巡が尋ねると、「言ってなかったけ、ここはわたしのバイト先なの」と紗里は言った。
そして奇妙な運命で導かれた四人は「Café De Chouette」と書かれた看板を携える店へと入っていった。
―――――――――――――――――――――
そこは高架下を通った先の裏路地で、ひとりの男がそこでよろよろとおぼつかない足取りで歩いていた。その男はマーシャル=チャーリー・オットーであった。「よう、オットー。パス集めは順調か?」オットーが声のするほうに目をやると、そこにはかつて自身にチャリオットパスを渡し、このアルカナライザーという修羅の道へと招き入れた張本人であるエノシュが立っていた。
「ずいぶんとお疲れじゃないかオットー。そんなおまえに朗報だ、おまえの仇のサソリのホムンクルスがこの近くに現れた。今もおそらく、人に化けてどこかをさまよってるぜ」。エノシュのその言葉にオットーは心底動揺し、そして歓喜の感情も少しばかり沸いた。
というのもオットーは早くして両親を亡くしてており、それから十数年ともに暮らしてきた妹を今から一年ほど前にサソリのホムンクルスに殺されていたからだ。「そいつは!そいつはどこにいる!必ず仇を取りたいんだ、勝てる力をよこせよ!」オットーは叫んだ。
「ならそれを正式な参加特典としての願いにするが、それでいいか?」
「驚いた、ダメ元だったんだが言ってみるもんだな。……ああ、構わねえよ。さっさと力をよこせ」
「わかった。来やがれカマキリ!」エノシュがそう叫ぶとカマキリのホムンクルスが橋からこちらまで飛んできた。それの胸にエノシュは腕を突っ込み、中のパスを引きずり出した。自らの核であるパスを失ったカマキリのホムンクルスは当然塵となって消えた。
エノシュはまだ血の匂いのするパスを差し出しオットーに言う。「おまえのひとつめの望みは今叶えた。この力で仇を討ち、それからはこのゲームを勝ち上がった後の願いでも考えて過ごせ」。
オットーはエノシュの手から乱暴にパスを取り、そのままその姿は路地の向こうへと消えていった。だんだんと小さくなるオットーを見ながらエノシュは言った。
「『ペイジ』ごときで『クイーン』に勝てるわけないんだけどなァ。あれは『ナイト』以上じゃなきゃ駄目なシロモノだ。ほんとうにあいつは、どこまでも短絡的な野郎だよ」。
占星騎士アルカナライザー L・M・バロン @Easyrevenge
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