第7話 新たなライザー!字はWORLD!
波の打ちつけるテトラポットの上に男が立っていた。男の名はディズリーヨ=オズワルド・ブランドーネである。オズワルドの固く長い金色の毛が風にたなびき、それは彼が由緒正しいゲルマン人の生まれであることを示していた。
「力だ……おれには力が必要だ……」テトラポットの手頃な位置に座り込んだオズワルドがそう言うと、いつの間にやらそこにもう一人の男が立っていた。彼もまた金髪ではあったものの、服装は全身が赤のスーツに包まれているという奇っ怪なものだった。
「おれの名前はエノシュ。おまえの願いを叶える手助けのできる男だ」エノシュはそう言うと、どこからか金色のパスのようなものを取り出した。そこにはタロットカードの「
「そいつがきっと、おまえの願いを叶えてくれるだろう。おれは待っているぞ!」
「待て!」渡されたパスに目を奪われていたオズワルドが怒鳴るとそこにはもう誰もいなかった。
「これがおれの『力』か」そう言いながらふたたびパスを見つめるオズワルドの目元には決意の色が表れていた。次にオズワルドは海を見た。さっきよりも激しさを増した波がテトラポットに当たるものの、それは儚くテトラポットを濡らすだけであった。それはオズワルドのこれからの運命を暗示するかのようだった。
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それは巡と風来、そしてオットーの奇妙な邂逅からおおよそ三日後のことであった。明朝の都心の路地裏には一人うろつくオットーの姿があった。「くそったれ!あの風来とかいうやつ、今度会ったら覚えておけよ!」オットーは近くにあった金網に拳を打ち付けながら怒鳴った。その時だった。
「おまえ、俺と同じライザーだな?ちょうどいい、力の実験相手になってくれ」オットーが声の主を確かめるために振り向くと、そこには金色の鎧を各所に纏い、頭部に扉のような装飾のある、腰には身に覚えのある黒いベルトをつけた者――つまりはアルカナライザー――がいた。
「つまりは……俺と戦いたいってことでいいんだな?」オットーが言う。
「ああ」金色のアルカナライザーが言う。
オットーがチャリオットパスを取り出すと黒いベルトが腰に巻かれ、それにオットーは自身のパスをかざした。「変身!」オットーが勢いよく叫ぶとシステム音声が鳴り、チャリオットライザーへと変身した。「おれの字《あざな》は戦車――チャリオットライザーだ。きさまの字はなんなんだ?」
「おれの字、それはすなわち『世界』だ。おまえの名づけ方を拝借するならば、さしづめワールドライザーと名乗るのが適当だろう」
「そうかあ、世界か。規模がでかいな、面白い!」オットーはそう言うと連続でパスを読み込ませた。『Alcana rise 3』『Alcana rise 4』システム音声がなる。オットーはバッタの足で勢いよく飛び跳ね路地裏から脱出し、それと同時に蜘蛛の糸でワールドライザーをがんじがらめにした。
「へっへっへどうだ、参ったか!きさまもどうせニュービーだ、経験者の敵じゃあない」
「さて、そいつはどうかな」ワールドライザーのアルカナギアからシステム音声が鳴る。『Alcana rise 5』。ワールドライザーは体のあちこちに生えたヒレを使って糸を切ると、地面を液状化させて地面に潜り込んだ。「5お?5って強いなおい」
「道すがらに化け物を倒してな、そうしたら出てきた」ワールドライザーはそう言いながらチャリオットライザーの足元の地面から出、そのままヒレで何回か身体を切った。
チャリオットライザーの傷口から勢いよく血が吹き出し、変身が解除される。
「おまえ、わりに強いな。良い戦いができた」ワールドライザーが言った。
息切れをしながらオットーが言う。
「おまえもおれに勝ったんだ、誇っていいぞ――ただし、眞柿風来というやつには気をつけることだ、あいつはおれなんかよりもずっとずっと強い。もう根っこのとこからだ、何もかもが違うんだ」。
その言葉に興味を示したワールドライザーは言った。「そうか、いい情報を聞いた。いま、その眞柿風来とかいうやつに勝つのがおれの目標になった」正気か?とオットーが言った。正気だ。おれはやつを倒し、ほんとうに強いのは自分自身だとやつに言い聞かせるのだ、とワールドライザーは言った。
その言葉を残して、ワールドライザーはどこかへと去っていった。
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同日。巡は大学のキャンパス内にいた。
「しっかし一限の必修が終わって三限まで暇ってなると、やれることがあるようでないような、そんなヘンテコな時間を過ごす羽目になるなあ」そう巡が独り言を言っていると、メッセージ・アプリである「BORDER」の着信音が鳴った。それは紗里からのメッセージであった。
「いまから少し会えますか?」
「はい!」巡はそう返信した。そしてすぐに喫茶店で待ち合わせようということになり、巡は紗里と会うためにキャンパスを後にした。
巡が紗里と待ち合わせた喫茶店のそばまで来ると、そこにはトンボ――を無理やり人に貼り付けたような姿――のホムンクルスとそれから逃げ惑う人々がいた。「おいおいおい……なんでここにホムンクルスがいるんだ?紗里さんは大丈夫なのか?」巡は迷いながらもマジシャンパスを取り出しライザーギアに読み込ませた。
『Alcana rise Magician』システム音声が鳴る。 (というかこの音ってどういう仕組みで鳴ってるんだ?) 巡はふと疑問に思いながら自分の持っているもうひとつのパスを読み込ませ、剣を出現させた。刃はトンボのホムンクルスの身体を何度も何度も切りつけた。そのうちに巡はホムンクルスを倒せることを確信し、とどめを刺すべく空高く飛び、蹴りの体制を作った。それは自由落下の法則に従いながらエネルギーを纏い、ホムンクルスの体に向かって落下していく。マジシャンライザーの足とホムンクルスの身体とが接触しかけた、そのときだった。地面から大きな水しぶきが上がり、それと共にワールドライザーが姿を現した。
ワールドライザーは地面から勢いよく出たと同時に巡に体当たりし「あの化け物はおれの獲物だ」と言った。「おまえ、一体何者なんだ?」
「おれか?おれはワールドライザー、ただ力を求める者だ」そう金色の騎士は言い、巡に殴打を浴びせた。「ホムンクルスが目的なんだろ?だったらなんでおれを攻撃する、街の人が死んだらどうするつもりなんだ!」巡は激怒を込め言った。
「そんなこと知ったことか、おまえも倒す、あの化け物――ホムンクルスとか言ったな――も倒す。ただそれだけだ、そうしておれはさらに力を得る」
「力を得てどうするつもりだ?」
「おまえに話すつもりなどない!」ワールドライザーが怒鳴ったそのとき、そこにふらりと眞柿風来が通りかかった。
「巡、力を貸すぞ」そう言うと風来はゆったりとしたズボンのポケットから黒いライザーパスを取り出した。それと同時に黒いベルトが腰に巻かれる。「変身」風来は黒いパスをベルトに読み込ませると、パスは強い黒の光のかたまりとなり風来の身体を包んだ。光がやがて実体化すると風来は、黒い素体にところどころ白いアーマーが、顔面部分には黒い複眼じみた装飾と白い面のような装飾が着いた騎士、フールライザーとなっていた。
『Alcana rise Fool』システム音声が機械的な声色で彼の変身を告げた。
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